お仕事その7 「僕とあの子はそんな関係じゃ」

「よ、よろしくお願いします!」

「はい、お願いします」


今日のお客様は真面目そうな男子高校生。

異世界に転生したがる高校生は結構嘗めた態度とるやつが多いんだけど、この子はきちんと挨拶もできてるし、いい感じだね。


「僕、昔っからまわりのみんなに夢想家って言われてて・・・。自覚はしてるんです、冒険モノの作品とか大好きですから。ただ、この世界じゃ冒険者になりたいって思っても、現実を見ろ、夢ばかり追いかけるな、って怒られちゃうし・・・。それこそ映画みたいな胸躍る大冒険はできないし・・・。だから異世界に行きたいんです!ドラゴンだとかお宝だとか、本物のトレジャーハントができる世界に!」

「なるほど、いい理由ですね!」


うんうん、本来異世界転生とはかくあるべきだよね。

やっぱ現実とは違う、胸がときめくようなアドベンチャーをやってみたい、みたいな。異世界に行きたがるやつって結構不純な理由が多いから、こういう純粋な子みてるとなんか安心する。


「それでは、今回のプランとしてオススメするのはですね・・・」


私はお客様の要望に合ったプランを提供していき、話を進める。特に滞ることなく打ち合わせをしていく中、彼から質問があった。


「あと、その・・・。この異世界転生って、一人の人間しかいっしょに飛ばすことはできないんですか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。一人とは言わず、一クラス丸々飛ばすような大きな数でも可能です」

「だったら一人、僕といっしょに飛ばしてほしい人がいるんです!」

「飛ばしてほしい人?」

「その・・・同じクラスの女子なんですけど・・・」

「・・・もしかして、彼女、ですか」

「か、かか、彼女!?ちち、違いますよ、僕とあの子はそんな関係じゃ・・・。そ、そりゃあ、いずれはそうなりたい、って思ってますけど・・・。でも、僕にとってあの子は高嶺の花・・・。つり合いっこないですし・・・。ただ、一緒に異世界に行って冒険できたら、きっとすっごい楽しいだろうなぁ・・・って」


照れくさそうに彼は笑う。私は社会人として、大人として、夢見る彼に若干厳しい口調で言った。


「・・・お客様。異世界転生を嘗めすぎです」

「え?」

「確かに異世界は冒険するにはもってこいの場所です。でもそれは、裏を返せばそれだけ危険が多いということ。その女の子のことを考えてください。あなたの独りよがりで異世界に飛ばされて、向こうでたくさんの危険な目にあったらどうするんですか。ラノベやアニメみたいに絶対にヒロインを守れるように設定されているわけではないんです。向こうの世界はフィクションなんかよりずっとずっとシビアなんですよ?」

「う・・・」

「現実で勇気がでないからって、その気持ちを異世界に持ってこないでください。本当にその子のことが好きなら、現実で勝負をしてください」

「・・・ですよね。僕、ひどいやつですよね・・・。分かりました、すみませんでした・・・」


彼は肩を落としとぼとぼと帰っていった。少しきつく言い過ぎたかもしれないけれど、これも彼のためだから。


・・・なんてのは建前。

異世界に男女2人で転生してみ?

ラブロマンスありアバンチュールありの異世界ライフ満喫されちゃあイチャラブするにきまってるからね?

はっはー、そんな恋愛私がしたいってのに・・・。そんなこと許してなるものか・・・!


--------



別日。


「よろしくお願いします!」

「はい、お願いします」


今日のお客様は元気はつらつな女子高校生。

異世界に転生したがる高校生は結構嘗めた態度とるやつが多いんだけど、この子はきちんと挨拶もできてるし、いい感じだね。


「私、昔っからまわりのみんなにお転婆って言われてて・・・。自覚はしてるんです、冒険モノの作品とか大好きですから。ただ、この世界じゃ一人旅しようにも、女の子だからってだけで心配されて止められちゃうし・・・。それこそ映画みたいな胸躍る大冒険はできないし・・・。だから異世界に行って、思いっきり自由に生きてみたいんです!」

「なるほど、いい理由ですね!でしたら今回のプランとしては・・・」


私はお客様の要望に合ったプランを提供していき、話を進める。特に滞ることなく打ち合わせをしていく中、彼女から質問があった。


「それでその・・・一つ質問があるんですが」

「はい、なんでしょうか?」

「異世界転生って、一人だけしかできないんですか?」


・・・あれ。なんか最近聞いた質問だな・・・。


「い、いえ、そんなことありませんよ?例えば一クラス丸々飛ばしたり・・・」


答えたなぁ、この返し。


「じゃ、じゃあ!その、ぜひ一人いっしょに連れて行きたい人がいるんですけど・・・」


あれ。何か猛烈に嫌な予感がする。


「あ、あの、もしかしてその人の名前って・・・」


私は半ば外れてくれと願いながら、この前来た男子高校生の名を言った。


「えっ!?なんで知ってるんですか!?」


や、やっぱり・・・。


「そ、それはやっぱりここは転生局。お客様の情報は事前に調べさせてもらっていますから」


一応、他者の異世界情報を漏らすのはタブー。私はとりあえずのウソでごまかした。


「そ、それで?その方はあなたの彼氏ですか?」

「か、かか、彼氏!?ちち、違いますよ、私とあの人はそんな関係じゃ・・・。そ、そりゃあ、いずれはそうなりたい、って思ってますけど・・・。でも、私にとってあの人は雲の上の人・・・。つり合いっこないですし・・・。ただ、一緒に異世界に行って冒険できたら、きっとすっごい楽しいだろうなぁ・・・って」


聞いたよ、それ。ほぼ同じセリフ。

異世界の危険性を説いて断った私がバカみたいなんだけど。

2人して相思相愛なんだけど。


お金は用意できている。

異世界転生のプランも整っている。

彼女にとっては意中の人と一緒に冒険ができて、私たち異局にとってはお金が入る。

何も問題はない。


でも超断りてぇ・・・。

え、なに?二人して?お互い打ち合わせもなしに、お互いを異世界にいっしょに連れて行きたいと思っているわけ?

すっごーい、もうシンパシーびんびんじゃーん、はっはー。


だったら現世でさっさと付き合えばいいじゃろうがいっ!見せつけんなよっ!!

私だって、私だってぇ・・・。もっとそういった熱い恋愛をしたいのにー!!


「あ、あの、コーディネーターさん・・・?なんで、ちょっと泣いてるんですか・・・?」

「・・・なんでもありません。では、手続きを始めましょうか」


------------


「・・・あ~あ、どうせイチャイチャしてるんだろうなぁ。やっぱストライキすればよかった」

「んなこと言って、仕事は真面目にやるくせに」

「イル・・・」


私にだって男友達くらいいる。

同期のイル・コレガ。・・・ただ、どうしても友達の枠からが出ないんだけど。


「しっかしあの二人、今頃どうしてんだろうな。やっぱお前の言うとおり、ラブコメしてんのかな」

「・・・いや、分からないよ。異世界に淘汰されて破局しているかもしれないし、第三者が現れて修羅場を迎えてるかもだし」

「じゃあ、ちょっと覗いてみるか」


ていうかそうなればいいのに。

大体、もしこれであの二人がくっついたら私が恋のキューピッドってことになるし。

・・・一番恋のキューピッドがほしいのは私なんだけど。


「はぁ・・・。もうヤダ、リア充爆発し─」


『コンビネーション・エクプロージョンッッ!!』


びくっ!急に耳をつんざく爆発音が響く。

イルは映し出した映像にはいっしょに手を取り合いながら、巨大な敵に向かって爆発魔法を唱える例の二人がいた。

息ぴったり、きらきらしてる、楽しそう。・・・ははは。


「・・・ふーん、爆発だけに、か。上手いこと言うなぁ、レーネ」

「誰もそんなつもりで言ったんじゃないっ!!」


次回に続!



【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、レーネってどうして男にもてないの?

A、え。あります?それ答える意味あります?大体お客様にとっては無事に異世界に行ければそれでいいですよね?私はそのために身を粉にして頑張っていますよね?いいですよね、どうでも。答える義務ないですよね?

・・・ていうか、その質問のアンサーを一番知りたいのって私なんですけど。

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