ハローハロー惑星レイディ

てくてく

ハローハロー惑星レイディ。

 ハローハロー惑星レイディ。聞こえますか?


 俺の祖父の祖父の、そのまた祖父の……かれこれ遠い遠い昔。

 もう歴史書でしか学べない、そんな時代。まだ地球は宇宙航海の方法が確立されていなかったらしい。冷凍睡眠コールド・スリープの技術だって、光速移動だって、まだ空想物語だって言われてた時代だって聞いている。今はそれよりもっと技術、いや科学になるのか? が発展して、そんなの古いって言われる位だけど。

 最も、俺は技術者でもないし、科学者でもないし、宇宙航海士でもないので、何がどうしてどうなって、そしたらこうなる。なんて、説明はできない。

 だけど、何がどうしてどうなってか、わからないけど。今では宇宙航海の旅、なんてものは一般的どころか、環境を整えてない他惑星へ、環境を整備と同時期に移住なんて事も可能になった。まぁ、そこだけは俺も少しだけなら説明ができる。探査機が整備機の役割もしてるので、移動している間に小さい船に乗った人数が住める空間を作っておいてくれるのだ。あくまでも少しだけだから、どうなってるのかはわからないけど、ついたら小さい(といっても、ニホンの一番大きい島より少し小さい程度、って聞いてる)仮居住空間ができているってわけ。後は、船に乗せて持ってきた整備機が空気や土地や、水。そういったものを居住空間の外に出て少しずつ居住枠を広げていく。世の中便利になったよね、ほんとに。

 で、早い話、そんな便利になったおかげで、俺も今そういった船にのって移動して、もうすぐ惑星レイディに会える、って訳だ。


 ハローハロー惑星レイディ。こちらが見えますか?


 まだ少し距離があるため、惑星レイディは肉眼では見えない。

 だとすれば、きっと惑星レイディからだって、こちらの船は見えてないに違いない。

 でも俺の心には、惑星レイディ、君を見た時から離れられない映像が浮かぶ。

 本当は惑星レイディなんて名前ではなく、P-593なんて可愛げもない名前で、一般公開されていた移住応募の映像。

 居住空間の中では決められた区画や区間にしか生えてない、草木が。決められた時間決められた風速でしか吹かない風が。

 そこでは自由に育ち、自由に吹いていた。

 ざあああっと風が吹いて、とてもとても背の高い草が、まるで通り道を作るようにふたつに割れる。風にのって、耐え切れなかった木から落ちた葉っぱが、くるりくるりと舞う。

 俺にはそれが何故か。

 ドレスを着た小さな少女が、笑いながら走って、手に持った葉っぱを持って踊ってるように見えたんだ。

 まぁ俺にはそう見えたってだけで、一緒に見てた友人が言うには、過去にあったというジャングルってあんな感じじゃないかな? らしいけど。まぁ、ジャングルだって映像も残ってないものだから、あいつの想像上ではあるが。

 そして映像は最後に、俺たちの母星であるというマザーアースとは違う星が映し出されて、終わった。

 おかしな話だけど。それが余計に、俺をひきつけた。

 気を確かに、なんて散々周りから言われたけど、俺はできる範囲で即座に、移住を出願していた。出来る範囲で即座に、ってのは、書類を書いたり検査したり適正テストを受けたり、そういうのって定期的に準備しとけばよかった、って事を痛感させられたからだ。受けるだけで数か月待つとか思ってもみなかった。だけど、そのあたりの詳しい話はまた今度、惑星レイディ、君に語ろうと思う。

 今はただ、ギリギリではあったけど、君に一番に会えるチャンスを得られた。それに感謝したいと思う。

 あ。ギリギリといえば、年齢もだ。冒頭の祖父の祖父の…って言ってたその時代から寿命は延びたとはいえ、30代の俺が、まさか移住可能許可年齢ギリギリだったとは思わなかった。色々な管理局の都合とか兼ね合いとか思惑とか……まぁそういうのを考えると、俺は惑星レイディに行ったら多分もうマザーアースには戻れない。

 帰れたとして、うんとうんと、年齢を重ねてからの、もしかすると行きだけの最後の旅行、って感じだろう。

 だけど、俺は、それを後悔してないし、後悔するつもりもない。

 例え、居住空間から宇宙用強化窓ごしにしか、見ることができなくても。

 あの、はしゃぎ踊る、小さなレイディを、俺は肉眼で見たいんだ。


 ハローハロー惑星レイディ。君は今も、くるりくるりと、踊っていますか?


 そう胸の中で尋ねたら。

 小さなレイディが、ドレスのすそをふわりふわりと広げながら、きゃあきゃあはしゃぐ、そんな図が。惑星レイディと一緒に、よぎって消えた。

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