第9話 鶴と龍
私はフロンが去った後、時間をおいて彼の後を追いかける。
辿り着いた先は我が魔王軍の軍勢と人間の冒険者たちが一触即発の睨み合いをしている現場だった。
手筈通りショウカク様とソウリュウ様が二人揃ってのお出ましだ。
これは威力偵察が目的なので他に部下の兵隊は連れて来ていない…
文字通り二人だけの魔王軍と言う事になる。
私は建物の陰に隠れてこの戦況を見守る事にする…勿論フロンたち勇者パーティーの実力と弱点を解析する為だ。
「四天王とは言え、相手はたった二人だ!!これだけの数で掛かれば我々の勝利は確実!!」
「おおう!!」
粋がった冒険者が声を張り上げ、周りの大勢の取り巻きも呼応するように声を上げる。
分かっていないな、あの二人の恐ろしさを…軍勢を率いての数で制圧を得意とするヒュウガ様と違い、ショウカク様もソウリュウ様も一対多数を得意とするどちらかと言うと拠点防衛に適した能力を有している。
それもその筈、四天王は勇者たちが魔王城に侵攻した場合、各階の守護をする役目も負っているからだ。
次の階へと続く階段前の広間などで一人で勇者パーティー全員の相手が出来なければ四天王の名折れ…中ボス足りえないのだから。
「掛かれ~~~!!!」
「うおおおおおっ~~~~!!!」
血気果敢な冒険者どもが一斉にショウカク様に向かって突進する。
きっと華奢でひ弱な少女のような外見に惑わされ、彼女なら倒せるのではないかと考えたのだろう。
何度も言うがそれは大きな間違いだ。
「ウフフフ…元気がいいわね…さあ、いらっしゃい」
余裕の笑みを浮かべながら白黒の美しい翼をはためかせ上昇するショウカク様。
軽く見上げる程の高さまで到達するとそこで静止し、宙で大きく左右に翼を大きく広げた。
「貫け!!マーブルフェザーピアッシング!!」
両側に広げた翼から無数の白黒の羽根が放射状に、地面を駆ける冒険者どもに向かって雨あられと降り注いだ。
まるでダーツの的の様に身体中に羽根が刺さりバタバタと倒れていく人間ども。
中には耐えきった者もいるが、完全に足が止まってしまっていた。
そう…この技は相手の命を奪うには今一歩、威力が足りていない…
しかしこれはわざとである。
「ソウリュウ!!お願い!!」
ショウカク様の足元にはもう一人の四天王ソウリュウ様がいた。
彼は腰を落とし、身の丈より長い幅広の剣を構える。
「………!!!」
気合い一閃…横薙ぎに振り抜かれた大剣から鋭利な斬撃が音速を越えて飛翔する。
ショウカク様の攻撃で足止めされた人間どもはその衝撃波により切り刻まれ吹き飛ばされていった。
辺りには人間だった肉片と夥しい血だまりが残るのみ。
「ヒイイイイイイ…!!!」
「うわああああっ…死にたくない!!」
「ばっ…化け物…!!」
難を逃れた者や様子見で突撃に参加しなかった者はこの惨劇を目の当たりにして戦意を喪失、悲鳴を上げ次々と逃げていった。
そもそも最初の突撃が頂けない、初めて相対する敵に対してはもう少し慎重に行動するべきだ。
何せ冒険者どもが『大討伐』と呼んでいるクエストにショウカク様とソウリュウ様が現れたのは初めてなのだ。
単なる力押しのヒュウガ様を数回退けた事で自信をつけてしまった事が仇となったな。
しかし裏を返せば、こちらも勇者たちに手の内を見せてしまった事になるから、ある程度リスクはある。
だがそれも全てフロンたち勇者パーティーの実力を引き出す為…。
やはりというか当然というか、フロンたちは無傷でこの場に残っていた。
他の冒険者はもうだれ一人残ってはいない。
私は見ていた…ソウリュウ様の斬撃を、戦士タンクが持っていた巨大な盾で防いだのを…。
ソウリュウ様の渾身の一撃を軽くやり過ごすとは…あのタンクと言う戦士、おっとりとした見た目に反してかなりの胆力の持ち主だ。
「あら、あなた達が噂の勇者パーティー?初めまして、私は魔王軍四天王の一人『美翼のショウカク』よ…そしてこっちは『巨剣のソウリュウ』」
「………」
ソウリュウ様、名乗りくらい自分でやろうよ…。
見てごらん勇者パーティーを、困惑してるじゃないか。
「俺はフロン…そして俺達は絶賛売り出し中の勇者パーティーだ!!」
フロンを先頭にタンク、ノーマン、セリカが並び立つ。
ああフロン、何て勇ましいんだ…おっといけない、気を取られている場合ではない。
「そう…あなた達が噂のヒュウガを二度も破った勇者パーティー…でも調子に乗らないで頂戴ね…
アレは私達四天王の中で一番頭が悪いのよ…まったく、大群で押し寄せて力任せに暴れるしか能がないのだから…私達二人をアレと同じと思っていたら痛い目見るわよ?」
うわぁ…ショウカク様、ヒュウガ様に対して酷いディスりグ具合だ。
ここにヒュウガ様本人が居なくて本当に良かった。
「『
ショウカク様が羽毛扇を振袖から取り出すと、無限大の文字を空に描く様に高速で仰ぐ。
すると螺旋を成した突風が発生、勇者パーティー目がけて突き進む。
「ここはお任せを…『
聖職者のノーマンがパーティーの前に立ち、魔法の壁を展開する。
ショウカク様の『
「よし!!今だ!!」
『
衝突するフロンとソウリュウ様…お互いの剣がぶつかり合い激しい金属音をたて火花が散る。
「………!!」
ソウリュウ様は(中々やるな…!!)と言っていると思う…私も彼との付き合いは伊達に長くない。
しかしパワーではソウリュウ様の方が上…フロンの剣を払い除け、追い打ちの一太刀を振り下ろす…が、大剣はフロンには届かず、大きな盾に阻まれた。
「…そうはいかないよ」
盾の持ち主はがっしりとした巨漢のタンクだ…人としては巨漢な彼だが、巨人族のソウリュウ様が並ぶとそんなに大きく見えないな。
「もらった!!」
その隙を活かし、フロンがソウリュウ様に脇から斬りかかる…しかしソウリュウ様の纏っているブルードラゴンから作り出された鎧に弾かれてしまった。
「………」
(ほう…)っとソウリュウ様が感心している…彼の鎧が少し欠けたのだ。
細かな破片が地面に散らばっている。
「私もいる事を忘れないでね!!」
ショウカク様は今度は両手に鉄扇を持ち、上空からフロンとタンク目がけて急降下して来た。
「それはこっちの台詞よ!!『
セリカが魔法の杖をボウガンの様に構え先端から魔力で生成した矢を放った。
それは正確にショウカク様を狙って飛んでいく。
「ちぃ…小賢しいわ!!」
ショウカク様は空中で急停止…手にしていた鉄扇で『
何ということだ…実際に目にして初めて分かったが、フロンの勇者パーティーはかなりの熟練度とお互いの得意分野を生かした連携が取れている実力派パーティだった。
「ここで決める!!」
フロンとタンクは二人掛かりでソウリュウ様を近接攻撃で釘付けにし、ノーマンとセリカは防御と攻撃の魔法を駆使してショウカク様に付け入る隙を与えない。
このままでは非常にマズイ…。
「カオス!!アビス!!出てこい!!」
私が自分の陰に対して呼びかけるとぬーっと陰から二人の人影が現れた。
「はーーーーい!!呼んだ!?ご主人様!!」
「…んっ」
「よし、カオスは今すぐ『
アビスはソウリュウ様とショウカク様に撤退の命令を伝えよ!!」
「了解でーーーす!!」
「…んっ、分かった…」
カオスは敬礼して飛び立っていく。
「やっちゃえ!!『
彼女の突き出した両手の先からモヤモヤした黒い霧が発生する。
それはやがて戦場になっていた街の中全てに拡がっていった。
「何だ一体!?」
突然の出来事に困惑するフロンたち勇者パーティー。
その隙にアビスが四天王の二人に接触していた…彼女たち
「…帰ろうってシャープス様が言ってる…」
「そう…まあいいタイミングかもね…ソウリュウ!!引き揚げよ!!」
「………」
ソウリュウ様は(分かった…)と言っている。
我々魔王軍は速やかにこの場を離れた。
しかしこれは予想外だった…。
今回の戦い…ショウカク様とソウリュウ様には様子見で実力を押さえて戦う様に言ってあったのだが、フロンたちの実力は私の予想を上回るものだった。
あのまま戦っていたらこちらに犠牲が出ていたかも知れなかったのだ。
それに、戦っているフロンの姿はカッコ良かったな…胸が高鳴ってしまった。
やっぱり私はフロンが好きなんだ…でも魔王軍としては彼を倒さなくてはならない…。
私のこの気持ちに区切りを付ける事と勇者打倒の戦略を練る事…。
二つの意味で私は頭を悩ます事になってしまった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます