第7話 勇者のセーブ3

勇者のセーブ3



何事かと振り返るとそこにはやけにデカい熊がいた。


足元には人も倒れている......!








駆け出して引き抜いた青銅の剣で飛び上がって切りつけた。が、





まるで刃が通らない





「グワアアッッ!!」





怒らせて振るわれた木の幹のように太い剛腕が横っ腹に入った


自然に生まれた力とは思えないほどのパワーで果物カゴに吹っ飛ばされた。











宙を舞って散乱した果物が道を転がり、


辺りは悲鳴で一杯になった。





一目散に周りの人間が逃げていく。


一瞬呼び止めかけたが、歯を食いしばった。











何を助けを呼ぼうとしているんだ.....俺は!


この状況を打開するのは俺だ!








よろよろと四つ足体勢で警戒をしてくる熊の真正面に歩いていく。


しっかりと前に見据えると剣を前に出して構えた。





「グルルルルゥゥゥ...!」





低くくぐもった唸り声が俺を威圧してくる。





どうする...?一番部位として有効であろう腹に切りつけて刃が通らなかった。


体格差もまるで3歳児と大人ほどもある、

組み伏せて首を斬りにかかれる状況ではない。





「グラアアッッ!!」





緊張する間合いに痺れを切らしたか全速力で突っ込んでくる。


ギリギリで横に避けてかわしたが、


その勢いのままカーブしてこっちに向かってくる。





同じ手は通じない...!





「ガアアアッッ!!」





鋭い牙が並ぶ恐ろしい口をかっぴらいて突進してくる





「!」





一瞬の閃きであった。


構えた剣の切っ先を真っすぐに顔に突き付けて自分も前に出た。





お互いの勢いが剣と熊の顔に掛かる





「グラアアッ...!」





顔に刺さりながらも振り払われ、転がって向き直ると熊は目から出血したようだ。


怖くなって目を瞑ってしまったために奴の口に剣を突っ込んで喉を貫くはずが、


失敗してしまった。








荒く息を吐き前足で盛んに目を拭っている。


痛さと視界の塞がりで気にせざるを得ないのだ。





とは言え有利になったとは言えない。


勝負をつけられる一撃が片目しか奪えなかったのでは意味がない。





なんとか剣は放さなかったが、持つ手が震える。


恐怖以前に先ほどのぶつかりあいで相当腕にダメージが入った。











お互いに負傷が目立つ中、間合いには更に緊張が漂う。





今度は片目も奪ってやる...!


そう、屈んだ姿勢を直立に近い姿勢にしたのが間違いだった。





四つ足で踏ん張る姿勢がまた突っ込んでくると読んだ俺は


迫る顔にある目を狙うために上体を起こした。





屈んで迫ってくる相手に対してなら、

上からの方が正確に狙いを点けられるからだ。











しかし、熊の仕掛け方は違った。


自分の四肢にこれ以上ない程の力を入れて飛び掛かってきた。





そのジャンプ力は優に俺の背丈を越えて、のしかかろうとしてくる。


直立になった姿勢で後ろに下がろうとすれば当然、








足を引っかける





「しまっ...!」











完全に終わりを覚悟した。








スローモーションに後ろに倒れながらの視界に鬼の形相、


大きな影が俺をすっぽりと包み、


その巨体を以て誇るプレスに掛かる重量は俺を殺すには十分過ぎる。


目をギュッと瞑った。








その時








轟々と燃ゆる火の玉が熊に飛んで来て、炸裂した。


その衝撃に遠くの地面にまで奴は叩き付けられた。








熱気に包まれる空気、散る火の粉。





背中から地面に打ち付けられ、





目を見開いて後ろを振り返ると





彼はいた。














「ギリギリセーフだったな」

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