第6話 勇者のセーブ2
「さてと...」
餌やりも済んで、通勤する兵士姿にも着替えた。
今日も一日頑張ろうと鏡の前で姿勢を正した。
家を出て徒歩で駅まで1時間程度、
本来ならもう少し早くに着きそうな距離でもあるが
鎧を着て通勤するので少し遅くなってしまう。
それでも通勤先の砦に鎧を置いておくことはしない。
盗むようなやつはいないと思うが......
孤児院時代からの卑しい癖で自分の物は
自分の近くに置いていないと落ち着かない性分なのだ。
孤児特有の癖みたいなものとウィッキーさんは語っていたし、
現に自分と同じようにそういう癖を持つ子はいた。
だから当然幼少期の時は気にも留めなかったが、
最近もう働くようにもなって情けないと思い始めるようになった。
ただそれでもこれを辞めないのは、
辞めれないわけでも意地になっているわけでもなく
通勤中も鍛錬をするためだ。
努力や修行が好きなんて言うつもりはないが、
自分が少しでも甲斐性の無い実力{ステータス}がマシなものになるなら
それ以上嬉しいことはなかった。
兵士に志願したのも
実は人を助けたいという高尚な理由より、
自分が強くなりたいと思っていたことが本当の志望動機だった。
孤児院は様々な問題を抱えていて
皆がそれぞれ傷もある。
だから孤児院の子供達を馬鹿にする奴の中には、
傷の舐め合いをしているからケンカもないんだろう、
という心ない声を聞く。
しかし、そんなことはない。
孤児達も変わらずお互いの強い気持ちがあり反発し合うこともある。
イジメなんてことも多少はあったかもしれない。
そのイジメに加担していたわけでも
被害にあったわけでもないが、そういった場面を幼少期何度も見た。
そこでいつもそれを解決したのが親友のゼフトスだった。
殴り合いのケンカを見つければ割って入って両成敗し、
イジメがあればいじめられっ子の盾となり自ら暴力を受け、
剣となってまたいじめっ子を成敗した。
そんな彼に憧れた。
親友だなんておこがましいかもしれない。
それでも、お互い兵士になってからは更に絆が深まったと思っている。
自分が何度も兵士採用試験の実技を落とされる度に励ましてくれたのは彼で、
俺が受かると、後を追いかけてすぐさま兵士として採用されたのも彼だった。
そうして憧れと肩を並べるようになってから誇らしいと共に焦りも出てきた。
なんせ、自分が11度も落ちた試験に彼は一発で受かったんだ。
それだけ才能があった。
ゼフトスの実力{ステータス}の数値にもその恵まれた才能が表れていることが
職場で持ち切りの話題になった。
それからだ。
俺が憧れに追いつくための努力じゃない。
憧れを追い抜く努力を始めようと、鎧を着て出勤してみたり色々更に始めたのは。
そうして今日は自主トレをどうしようかと考えながら駅への道を歩いていると、
するとそれは突然起きた。
背後から女の人の甲高い悲鳴が聞こえた。
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