第8話 勇者のセーブ4

やはりゼフトスであった。





軽くジャンプをすると俺の前に着地した。


後ろから見えるその背中はまだまだ大きい。











「すまない...お前の手を借りずともって思ったんだけどな...」





立ち上がろうとする俺を彼は静かに制した。





「無理をするな、なあにこれくらい借りとも思わんさ」











そう剣を引き抜かず、ゆっくりと歩調を変えずドンドンと熊に近づいていく。


さすがのゼフトスでも見ていてヒヤヒヤしてきた。





「ゼフトス!あまりそいつをなめて掛からないほうがッ!」





「分かっている。何やらただならぬ妖気を放っているな」








妖気...?


言われて気づいたがあの熊からはどんよりとした不気味なオーラが先ほど


から可視化している。








それも俺との戦闘で近くに見た時よりも濃く出始めた。


奴もゼフトスの火炎魔法{フレイマ}の威力に驚きはしたものの、


片目以外は盤石な臨戦態勢を彼の前で取っている。





更に凄みを増した感じは、熊がまだ本気を出していなかったようにも見える。





熊がスッと立ち上がりゼフトスと立ち合って対峙する。








どのような戦いが起きるのか......


こちらまで殺意のぶつかり合いが伝わってくるようだ。








「グアアッッ!!!」








大きく振りかぶった剛腕を以て先手に出たのは熊だ!





あのままでは直撃だ。





「危ないッ!」





しかしその心配は杞憂だった。








熊の片腕の一撃は、ゼフトスもまた片腕で受け止めた。





鉄の鎧の小手の部分は歪んで見えるのに彼は平然としている。








「なるほど...こいつは生かして帰してやるわけには行かんなあ...」








そういうと彼は熊の片腕を取って抱えようとし始めている......!





あの構えは





「どりャアアアッッ!!」





咆哮と共に5歳児と大人くらいの体格差をものともせず背負い投げをやってのけた。





叩き付けられた熊は小さく呻くと、ぐったりとした。





倒したのか......?


とんでもない男だ、そう思いながら近寄ると








「待てェ!まだこいつは意識がある!危険だ!」








そう聞くと同時に熊が起き上がろうとする。


なんという根性だ!








「そりゃあアアッッ!!」








しかしそれをさせなかったのがゼフトスの鉄拳であった。





熊の顔面に思いきり叩き込むとバキッという音をさせて


熊は本当にぶっ倒れた。気絶してしまったらしい。








「ふう...しぶとい奴だぜ...」





そういうと彼は剣を引き抜いた。


殺すつもりだ。








「人里に来て危害を加えたこと。それに我が友を殺しかけた罪状により、


 今ここで断罪する!」





そう頭上に掲げた剣の光がきらめき、

振り下ろされようとするのを止めたのは他でもない俺だった。








「待ってくれ!!」








止まりそうもない刃の勢いを首元わずか数ミリで彼は止めた。


止めた勢いは熊の体毛を撫でた風圧で分かる。








「すまない、殺さないでそいつを森に帰すことを許してくれないか?」





驚きつつも厳格な顔でゼフトスは聞いてくる。








「どうしてだ?改心するどころかまた人を襲うとも限らんぞ?」





「そうだ、でもここで殺しては俺の気が収まらん」





それを聞いて不思議そうな顔をされる。








「だから言ってみれば、俺の勝手だ。


 そいつを俺が倒せるようになるまで俺はそいつと妖の森で戦う。


 決して人里には近づかせない。


 許してくれるか?」





それを聞いて最初は神妙な面持ちであったゼフトスが、


急に笑い出した。








「はっはっははは!全く、お前という奴は!


 それでは俺も付き合わざる負えんではないか」





言われて気づいたが、今さら引く気もない。





「確かにそうだな。だから二重の願いを聞いてくれ、頼む!」








そう深々と頭を下げると、頭上から友の小さな笑い声が聞こえた。








「ふん、分かったよ。その代わりあんまり時間を掛けるなよ?


 俺を監督に雇うと高くつくからなあ?」








「げっ、金取るのかよ」














二人の間には高らかな笑いが生まれた、俺は安堵した。











そして初めての戦闘で気が抜けて熊の次に今度は俺がぶっ倒れた。

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