3-10 戦士たち

『では、諸君、キャンドルに火を灯そう』


 ジュリアンの命令で、一斉に始まった・・・・。総勢四十機のライトギアによる一斉の放火が始まった。


 スターダストマインが盛大に噴射された。途端にホテルの壁が赤熱化して、急速に炎が屋上目掛けて昇り始めた。


『出せ、出せ! 出し惜しみはするな!』


 ジュリアンが踏ん張れと発破をかける。それでアルファ中隊の全員が思い切り踏ん張ったようだ。

 信じられない程の炎上を起こし、ホテルが一つの火柱と化した。


「あああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 ホテルの正面玄関から敵兵が大勢い出してきた。

 まさか思ってもみなかっただろう、俺たちが放火で居場所を探り、放火でいぶり出すだなんて。正気の沙汰さたではない。だが、そもそも戦争とは、正気の沙汰ではない。


 戦争とは賭け事だ。試されるのは運だ。果たして、俺たちはついているのか? あちらは落ち目なのか? それを決めないか? なあ、カジルお坊ちゃん。


 出てきた。奴だ。カジル・ジャミンだ。まっすぐビーチに向かっている。焼け残った百人程度の手勢とともに逃げている。俺たちは後を追い、波打ち際まで行き着いた彼等の前で、一斉にマントを脱いだ。


「な……!?」


 カジルが唖然としている。そりゃあ驚くだろうさ、僅か四十二人の戦士で、五万を超えるであろう軍団を潜り抜けてきた等と、冗談のようなものを見せられたらな。

 だが、現実だ。俺たちは、ベイルートキングダムの王カジル・ジャミンの目の前に立っている。


「剣を抜け!」


 ジュリアンの号令で、皆、銃を捨て、閃光剣の柄を持った。


「……そこまで、とことん俺を愚弄するか……」


 カジルはこれを見て、腹をくくったと見える。ライトギアをまとい、剣を抜いた。


「王の御前だ! 勝利で飾って見せよ! 相手の数はこちらの半分だ!」


 カジルにげきを飛ばされ、キングダムの戦士たちが、皆、剣を抜いた。ライトギアを纏って、広がり始める。


「王様は譲ってやる。手柄を立てろ」


 ジュリアンが俺に言ってくれた。先程のティアマトの件での借りを返すつもりだろう。気にしなくてもいいのに、意外と律儀りちぎな奴だ。


 だが、ありがたい。あのお坊ちゃんの面倒を他人に任せるつもりはない。ケイヒル・ジャミン氏のご意向にった決着をつけてあげたい。あの人は、本当は優しい人だから。


 俺は、閃光剣の柄を構えたまま、ゆっくりとカジルに近付いていく。


「貴様の剣はビデオで散々見た。手の内は知っている」


 カジルは余裕だ。そうだろう。こちらが剣士と知って、対策くらいはしていると思っていた。随分熱心に研究したようだ。成果を見せてもらおう。


 カジルが後ろに思い切り身を引いて、突きを繰り出してきた。閃光剣の刃が伸びてくる。速い!


 寸前のところでかわしたが、肩の装甲を一部がれた。


「……」


 なるほど、閃光剣の射出速度を速めに設定したわけだ。刀身も長い。こちらを懐に入れないつもりだ。


烈風れっぷうも使わせんぞ! 技を繰り出す前の溜めの時間もやらん!」


 ふふん、とカジルが微笑む。よく予習している。だが、忘れている事もある。剣は、変幻自在。流れるものだと。


 生命の歌を聞く。カジルの動きを、聞く。戦士たちの動きを、聞く。


 また後ろに思い切り身を引いて、突きを繰り出してくる。それが一番有効な手だと判断したのだろう。だが、一度見た動き。もはや児戯じぎに等しい。


 するりとかわして、かすりもしない。振り返って、じっとカジルを見つめる。


「何故だ? 何故……?」


 カジルは動揺している。ここまでを予想出来なかったという事だ。剣技だけなら東京キングダムの王灰羽かいばレイにも手が届くと思うが、慢心が過ぎるせいで、応用まで手が回っていない。それは幸運だった。


 はっきり言って、カジルは強い。

 今は、まだ、実力を発揮するに至っていないだけ。俺たちがついていただけだ。


「王よ、戯れで始めた事なら、戯れで終わりにしよう。剣を構えよ」


 俺は、灰羽レイの真似をして、顔の前で閃光剣を立てた。


「くっ……」


 カジルは冷静さを欠いているようだ。もう作法さほうすら守る気は無いと見える。なりふり構わず斬りかかってきた。浅い。


 するりとかわして、剣をくるくると回す。調子合せも、今日は良い感じだ。では、始めよう。ベイルートキングダムの終わりを。


「お覚悟を」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る