3-9 影の一団

 ティアマトの神殿を通り過ぎて、ベイサイドに近付いてきた。ここらには高級ホテルらしき建物が多いが、敵兵の気配がある。


『よし、投下開始』

「スターダストマイン投下」


 ジュリアンの命令で、スターダストマインを投下した。

 久しぶりに使ったが、これはライトギアの装甲であるスターダストのカスだ。極高温で数十秒燃焼する性質がある。こういう放火に使う事も出来る。強烈に迅速に燃やすにはもってこいの兵器だ。


「敵襲か? 敵襲! 敵襲!」


 ぞろぞろと敵兵がい出してきた。同時に他の場所でも同じようにスターダストマインが投下されたはずだ。火の手があちこちで見える。


「本隊を呼び出せ! もうここまで来てるんだぞ!」


 思った通りになった。カジル・ジャミンは、恐らくベイサイドの何処かに潜んでいるはずだが、自分の護衛を本隊に直接させているとジュリアンが踏んでいた。


 こうやってベイサイド近くで火事が起きれば、本隊から幾らか兵が出されるだろう。後は、ビーコンを切っている二人に上から見つけてもらう。実にシンプルな作戦だ。


 お、来た来た。


 文字情報とともにウィンドウに本隊の出発地点が表示された。ビーチの近くのホテル。そこに奴がいるはずだ。


『アルファワン、ゴールに付いたら、キャンドルに火を灯せ』


 文字情報でジュリアンが伝えてきた。キャンドルに火を灯せ、ね。

 俺は仮面の下でにやりと笑った。そいつは愉快だ。痛快だネ。


 音も無くその場から去った。まっすぐビーチ近くのホテルを目指す。順路は敵が通った道だ。ここらにもトラップが多数仕掛けてあるはずだ。俺たちはジャミン・グループの流した武器を甘く見ていない。


 敵がすぐ目の前を通り過ぎる。本隊の連中だろう。ご苦労な事だ。


 いなくなったら、歩いて進む。敵兵がまだそこら中にいる。もう本陣が近い証拠だ。警戒レベルが高過ぎて、物音一つ立てただけで命取りだ。


 ひやひやするが、顔には微笑が浮かんでいる。こんな境遇になっても、やる事が鬼ごっことは、笑える話だ。子供の頃と何も変わらない。何も、変わらなくなってしまった……。

 っと、いけない。また鬱になりそうになった。今は、我慢、我慢、と。


 敵の本隊が道いっぱいに広がっている。壁のようだが、あそこを通らなければならない。さて……


 俺は尻を向けて、思い切りスターダストマインを投下してやった。瞬間、綺羅星きらぼしが如く敵が輝いて、一気に燃え始めた。


「あああああぁぁぁぁぁぁー!」


 絶叫が聞こえる。どうせ死にやしないが、ありゃ気の毒だ。でも、もうちょっと追加でスターダストマインね。投下投下。


 足した分で更に燃え上がった。もう絶叫も聞こえない。俺はフォースバリアを張って、その真ん中をするりと通り抜けた。


 ごめんネ。こういうの仕事だから。


 舌を出しながら、歩き出す。前だけを見て、敵の増援が慌てて放火現場に駆けつけていくのをするりするりと抜けていく。


 はい、ご苦労さん。はい、お疲れさん。皆さん、さようなら。


 スターダストマイン投下である。増援もたくさん燃えて頂いた。

 スターダストマインはスターダストのカスが燃焼する性質上ライトギアとの相性が極めて良い。同じスターダストで構成されるライトギアが強制的に反応させられてしまう可能性が高いという事だ。


 非人道的な兵器ではあるが、そもそもニンゲンではないので、モラルもルールも無い。どうせ死なないしネ。


『盛大にキャンプファイアやってるのがいるな。どうせキセだろ?』


 文字情報でブラムが冗談を飛ばしてきた。


『当たり』


 俺が文字情報を打ち込むと、『はよ、ゴールに行きなさい』と文句が飛んできた。


 はいはい、ゴールね。


 では、あのお坊ちゃんのところに。

 キャンドルに火を灯しにいきましょう。

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