3-11 生きる道

「俺は! 俺は! 俺はぁっ!」


 王だぁっ! と打ち込んできた。それをことごとくさばいて見せる。さっきよりはカジルの動きは幾分いくぶん良くなってきた。慢心を抱く余裕すら無くなってしまったからだ。今は自分の限界と戦い始めている。


 今、実は少し楽しい。純粋に剣技を競い合えるのはやはり幸福だと感じてしまう。じわりじわりと上がり始めたテンションに身体が応えてくれる。剣のさばき方が、少しずつ丁寧に、鋭くなっていくのが自分でも分かる。


 一閃。いい斬り込みが来た。危うかったが、むしろ高揚感が増した。


「楽しいだろう?」


 俺がふっと鼻で笑うと、カジルは信じ難いものを見るような目でこちらを見つめた。


「何を……何を言っているんだ?」


 意味が分からなかった? 意図が読めなかったか?


「剣は楽しい。命をした勝負はやはり良い。そうだろ?」


 俺がけらけらと笑うと、カジルが一歩引いた。


「あら?」


 意外と常識人? というか、そっちの気が無いのかな?


「お前等は変だ……! 何故そこまで落ちていける?」

「落ちる? はあ……」


 俺は苦笑して、首を横に振った。


「何だ? 何がおかしい?」


 ご不満のご様子。メンドいがわけを話そう。


「これしかない者に、これをやる理由を聞きます?」

「それしか……ない? まさか、貴様、身寄りが無いうえで、修羅しゅらに落ちたという事か?」


「あ、当たり」


 俺は、花が咲いたようににこりと笑って、歯を見せた。


「く、狂ってやがる……」


 もう一歩カジルが後ろに引いた。


「あんたにとってはな。だけど、世の中色んな視点があって、天才か馬鹿かは紙一重なのよ。これ分かる?」


 聞くと、カジルは首を横に振った。


「あんたには剣の才能がある。でも、それを表現する視野が欠けている。もっと多くを見て、もっと多くに触れるんだな。もったいないよ」


 では、そろそろフィニッシュといきましょう。

 この間合いならば、余裕で放てる。溜めは、それ程必要無いだろう。十分だ。


「まさか、烈風れっぷう

烈風れっぷうだっ!」


 閃光が獰猛どうもうな獣のようにカジルに食らいついた。海が割れ、雲が切れた。カジルは、肩口から斬られ、腹まで抉れていた。


 どさりと落ちた王の姿に周囲の敵兵が、皆、注目した。


「ベイルートキングダム、攻略完了」


 高らかに宣言させてもらった。敵兵が、皆、崩れ落ち、浜に膝をつく。


「……何故、何故だ?」


 カジルが俺を見上げながら疑問を口にしている。

 無言で見下ろして、自分で答えを見つけられるか、俺は静観している。


 そうしてしばらく見守っていたら、しゃり、しゃり、と砂を踏む音がした。そちらを向くと、サングラスを掛けたジャミンがいた。


「カジル、彼にはもう戻るべき時代も、家族も、ない。何も、無いんだ。だから、今この時代で、必死に何かを手に入れようとしている。その信念がある者に勝つ事は容易ではない」


「……そうか。俺には戻る場所が、あった」


 ようやくこのお坊ちゃんも理解出来たようだ。


「お前は、本当に、何も……」


 カジルが俺に何かを言おうとする。続きを聞かずに、俺は陸に向かって歩き出す。何も、無い、か……どうかな?


 ブラムとジュリアンとベルスとヒラリー、アルファ中隊の皆が、にかっと笑っている。

 それで十分なんだと思うよ。迷う事もあるけどさ……これが俺の生きる道って奴よ。

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