2-1 ロシア娘と家出息子

「CIAのコモンズだ。こっちはジョンソン」

「オガミ」


 コモンズと握手。続いて、ジョンソンとも握手。


 二人ともごつい白人の男性で、三十代後半といったところ。

 恐らく両方元軍人だろう。目つきや雰囲気で分かる。


「ホシビトは人間と変わらないというが、君は、何ていうか」

「変わっている?」


「ああ。相当に」


 こいつ等はまだ知らないだろう。ホシビトの中でも新種の類だという事は、コーラスの一部の人間と大統領しか知らないはずだ。

 混乱を避けるため、措置を取られている。


「作戦の概要がいようを聞こう」

「よし。これを見てくれ」


 コモンズがラップトップを開いた。

 簡素なデスクの上のそれを、俺はじっと目を凝らして見る。ここは地下で薄暗いから、視界に少し難がある。


「ロシアから流れたプルトニウムが、ケイヒル・ジャミンの手に渡った。ジャミンは、中東で手広くやっている武器商人だが、表向きは飲料水メーカーの代表だ」


「流通ルートを使って武器を?」

「ああ。知っていて、皆、見過ごしている。奴が流す武器のお陰で持っている国もある。ベイルート周辺はほぼ地獄に変わった。土地を捨てられない者には、奴が救い主に見えるだろう。ジョンソン」


 コモンズに言われて、ジョンソンが別のラップトップを開く。


「ジャミンが手に入れようとしているのは起爆装置。『核弾頭』として問題なく機能する」


「この作戦にCIAが関わる理由は?」

「これは『アメリカ』から流出したものだ」


 ジョンソンに説明されて、俺は彼を見上げた。俺が小さく頷くと、彼が気まずそうに表情を曇らせる。


「こいつをロシア娘とベッドインさせたくない。分かるか?」

「尻拭いだな?」


「済まんがそういう事だ。この作戦には一つ非常に重大な問題があって……」


 ジョンソンが言い辛そうに言葉を濁すと、コモンズが続きを話した。


「このプルトニウムは非常に繊細な奴で、過去に暴発を起こした前科のあるタイプだ。放射能を浴びた人間がまずい状態になった。うちの人間だった」

「……確かに、俺たちホシビトならその問題はスルー出来るな」


 不死者で、放射能等知った事かとたかをくくれる。


「ジャミンとブローカーは今日の午後十時に『フロイド・カット』で接触する」


「ブローカーの特徴は?」

「不明だ」


「どうやって見つける?」

「奴は、ホシビトらしい。人間の中に混じっていれば、君たちには見抜けるだろう? 連絡用に持て」


 コモンズが俺に携帯電話を渡す。


「バックアップはヘルマンがやるが、問題は?」

「無い。二人とも中東でも目立たない容姿で、浮いてしまう事はないだろう。オガミは髪型を少しいじった方が良い。もう少し大人びた感じに」


 元が日本人だったから、やや幼く見える、か。


「物の在り処を掴んだら、ブローカーを連れて、このルートで脱出しろ。我々が車で待機している」


「脱出ルートは他にあるのか?」

「非常時に備えて、ボートとヘリ。予備に車両部隊が四つ。バイクも用意した」


「確認する。回収するのはアメリカの『家出息子』だけでいいんだな?」

「そうだ。『ロシア娘』については、あちらが独自に動いている。互いに不干渉を通す事で話はついている」


「もし、イワンががっついてきたら?」


 ブラムが口をはさむと、コモンズがにやりと笑った。


「その時は、お決まりの事が起こるだけだ」


 皆まで聞くな、といった面持ちだ。

 ブラムが鼻で笑う。まさか遥々中東まで来て、余所のお国の『事情』に付き合わされるとは、よくよく運が無い。


 ここはシリア。俺たちは今、首都ダマスカスにいる。

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