1-6 パパ・ヴァイン

「セイムズ博士、レメク博士、来てくれて、ありがとう」


 ヴァイン技術主任が二人の博士と握手する。二人ともかなり若い女性だ。そして、ヴァイン技術主任が、もう一人の中年男性と目を合わせる。


「……来てくれて、ありがとう。ユベル・ヴァイン博士」


 握手は無し。ハグも無し。素っ気無い。


「コンスタンス、まだ男の格好をしているのか」


 パパ・ヴァイン、ユベルが最初に口にした言葉はそれだった。皆の視線がヴァイン技術主任に集まる。


 短く切った金髪からは中性的な雰囲気を感じるが、スーツで隠し切れない優美なシルエットには確かに女性らしさが出ていた。何よりあの豊満な胸を誤魔化すのは無理というものだろう。


「その事は言わないで、パパ」


 ヴァイン技術主任は困惑した様子で、ユベルと目を合わせようとしない。ユベルの方も困惑した様子で、途方に暮れているといった面持ちだ。


 ……そういう感じ?


 この親子が抱える問題が見えた気がした。


「今日集まって貰ったのは、これを作って欲しいからです。見て下さい」


 デスクの上の広げられた設計図を皆で囲んで見下ろす。


「キリョクを遮断するマントね、これは?」


 セイムズ博士がヴァイン技術主任に聞く。


「そうです。これをホシビトのスナイパーに着せます」

「人間のスナイパーのように?」


「はい、レメク博士。より完璧なカムフラージュを目指しています」

「問題があったようだが、記録映像はあるか?」


 ユベルが質問すると、ヴァイン技術主任が指を鳴らす。部屋が暗くなって、スクリーンに映像が映された。


 俺とブラムの新型ライフルテストの様子。相変らずファンタジーのような映像だ。自分じゃ、そんな風には思っていなかったが、他人からすれば、凄い事をやっているように見えるだろうな。


 映像が終わると、やはり思った通り三人の博士は少しの間黙ってしまった。


「ハイレベルな問題だな。的になったのは彼か?」

「はい。ユベル・ヴァイン博士」


 ヴァイン技術主任が答えると、ユベルが俺の顔を覗き込んできた。


「?」


 何だろうか?


「かなり進行している。ここまでの症例はなかなかない」

「オガミ君、ユベル・ヴァイン博士は、医学、生物学でも博士号を持っている。ホシビト研究の第一人者だ」


 なるほど。


「何か最近身体に不調はあるかね?」


 ユベルが質問する。問診のようだ。


「いいえ」


「食生活において、変わった習慣はある?」

「……はい」


「それは、どんな事かな?」

「……」


 ややためらった。あれをここで話すのはちょっとはばかられるというか。


「大丈夫、ここにいる人間は皆、頭の良い人ばかりだ。下手な偏見は持たない」


「……自分の肉を切り取って、調理して、食べています」


 聞いた後で、何人かのニンゲンが、オーああジーザス神よ……、と嘆くように呟いた。


「なるほど……初めて聞くケースだ。コンスタンス、彼の組織サンプルを取りたいのだが、許可をくれ」

「はい。ここのラボを使って下さい」


「ありがとう。多分、この問題は思っていたよりも早く・・片付くぞ」


 やけに自信たっぷりに言うユベルを俺は見上げた。この長身のおじさんは、温和な表情をした、変わり者といった風貌ふうぼうをしている。


 凄いタトゥーだ。顔や頭全体。多分身体もほとんどタトゥーだらけだろう。聞くまでもない事だと思うが。

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