1-5 コーラス・テストプレイ1
『オガミ君、準備はいいかね?』
技術主任にチェックされる。
「はい、ヴァイン技術主任」
俺は指定されたポイントで待機中だ。ライトギア、フォーミュラ、完全装備。武装もフルで積んでいる。
『では、始めよう』
ヴァイン技術主任がスタートボタンを押した。電子音が通信で聞こえる。
来る!
瞬時に右に移動して、脇を通り抜ける光の弾丸を一瞬目で捉えた。
次!
左、右、と横に瞬時に移動する。光の弾丸が二射続けて外れる。
『どうした? 新型のライフルを使っているんだぞ?』
ヴァイン技術主任が
『……事前に撃つのが分かっている相手に狙撃を成功させる事は難しい』
静かに射手が事情を説明する。
『それがオガミ君の特性だったな。だから、このテストに招いたんだ。君は、その上を行く性能を見せるべきだ。我々に見せてくれ』
ヴァイン技術主任が期待を寄せるが、呆れたようなため息が聞こえるだけだ。
そして――
急に歌が聞こえなくなった。
「……」
冷や汗が額から落ちるのを感じた。まるで死の静寂だ。この荒野に生命は自分一つ。そんな錯覚があった。
そんな事はない。確かに向こうに一つ生命があった。それが急に姿を消した。まるで影で身を覆ってしまったように、何も聞こえない。何も感じない。
まずい。
直感で横に瞬時に移動した。間一髪光の弾丸をかわす事が出来た。
『今のはまぐれだ。今アルファワンにこちらはばれていない』
また嫌な予感がした。横に連続して三度、点から点の瞬時の移動をした。ちょうど三度、相手の狙撃が残像を射抜いた。
『まぐれで三度もかわせるものか! どうした?』
ヴァイン技術主任が動揺している。
『あのな、ヴァインさん、キセは、そういう奴なの! 冗談みたいな事が出来るんだよ!』
とうとう狙撃手が音を上げたのを見て、俺はそっとヴァイン技術主任に言ってやった。
「ヴァイン技術主任、今のは直感だった。後、アルファツーのカムフラージュは確かに後半ずば抜けていた。まったく生命の歌が聞こえなかったんだ」
この告白にヴァイン技術主任以下スタッフから感嘆の声が上がった。
『どうやら、日本のホシビトのレベルを見誤っていたようだ。一度戻ってくれ。アプローチの方法について相談しよう』
「アルファワン、了解」
『アルファツー、了解。キセ、なかなかいい動きだったぞ』
等と抜かした。ブラムめ、手札を隠していたのに、その言い草はあんまりじゃないか?
キリョクを用いたステルスなんて――。コーヒーでも飲みながら話を聞いてみよう。
「では、ステルス能力を発揮していたのに、勘だけで読まれたと?」
ヴァイン技術主任がブラムに聞く。ブラムは指を宙で踊らせながらぼんやりと答えた。
「空気というか、気配を読むというのは、ニンゲンでも同じでしょう? どれだけ技術が進んでも、ニンゲンかそれに似た生き物が扱う以上その問題をクリアするには鍛錬が要る」
俺はそれに補足を加えた。
「でも、誤解しないで下さい。決して、彼の能力が低いわけじゃない。レベルが上がれば上がる程、その見極めが高度になってくる」
ヴァイン技術主任が笑い出した。冗談だろ? と周りのスタッフも
「別に担いでいるわけじゃない。俺は本気で殺すつもりで狙撃した。本気だった……」
ずずっとコーヒーを
「……」
ヴァイン技術主任以下スタッフ全員が黙ってしまった。
「ライフルは悪くない。精度も高い。問題はそれ以外だろう」
「というと?」
ヴァイン技術主任が身を乗り出して、ブラムの答えを待つ。
「狙撃手のキリョクを隠ぺいする装備品一式の必要性」
「マントのようなものか?」
ブラムがヴァイン技術主任を指差す。
「そこはニンゲンと同じ。キリョクを
「……心当たりがある」
ヴァイン技術主任が指を鳴らす。スタッフの女性がリストを持ってくる。
「セイムズ博士とレメク博士……捕まるか微妙だが、ヴァイン博士を」
ヴァイン技術主任の顔が一瞬曇るのを俺は見逃さなかった。
「親族ですか?」
ブラムが遠慮なく聞く。
「ああ……父だ」
如何にもわけありといった面持ちでヴァイン技術主任がため息をつく。何処の国でも親子関係というのは面倒なものらしい。俺も身に覚えがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます