4-7 星条旗を掲げて
「はあ? じゃあ、朝まで剣術について話していたわけ?」
「ああ」
「で、朝方タクシーに彼女を乗せた、と?」
「万札三枚運転手に渡してね。新東京までは足りると思うけど」
「それでよく場が持ったな……」
「お互いの鍛錬について話に花が咲いてさ、彼女、キリョクを使って、太平洋を歩いて横断したらしい。途中で集中力が切れたら、最初からやり直しをしたって言ってたわ」
「……は」
ブラムは気の抜けたように息を吐いて、俺をじとっとした目で見た。
「お前等やっぱ変だわ」
「そう? 自分じゃ普通なんだけどな……」
ホント……ん? 誰かハンガーに入ってくる?
「凄いなっ! 日本のハンガーって割と広いじゃないか!」
騒がしい声がした。入口の方だ。覗いてみると、見慣れない連中だった。日本人ではない。
「あー、来たわ」
ブラムが鼻白んでいる。
俺は、きょとんとした顔で、その集団を一人一人確認している。
白人、アフリカ系が半々といったところ。栗毛、黒髪、金髪、赤毛、スキンヘッド、流石にアフロはいないが、濃緑色の服装を見るに軍属らしいから、そもそも長髪がいなくて当然か。皆、きちんと髪を切り揃えている。
「で、キセ・オガミは何処? お!」
オールバックの白人少年が、こちらに気づいた。ずんずん近付いてくる。何だか笑っているみたいだが、愉快な事でもあったか?
「分かる?」
オールバックの白人少年が俺に聞く。
「テストの時、太平洋上で」
「そう! 俺は、ジュリアン・マクマーソン! 階級は中尉! アメリカ空軍正規軍人だ!」
「尾神キセです。傭兵です」
ジュリアンと握手した。力強い。熱意が伝わってくる。
「感激だなぁ! 世界で唯一の魔剣の使い手! この前、新東京でも使ってたよね?」
何処で見る機会があったのか、暴動の件を聞かれた。
「あの時は休暇中で……公式にはスクランブルになっていますが」
「ふーむ……日本人にしてはパンクだし、かといって礼儀は弁えている。これって、どう思う?」
隣に並んだアフリカ系のモヒカン少年にジュリアンが尋ねる。
「彼は、後天性の身体的変化が見られる」
「ああ、彼は、ベルス。生前は医者をやっていたんだよ」
「ベルス・アムニスだ。部隊のアタッカーを務めている。階級は同じく中尉だ」
俺はベルスと握手した。
「ふむ。キリョクの流れがまったく違うな……日本人だからか、または……大自然に教えを受けたか?」
びくりとした。今ベルスは何をした?
「怖がらせたなら、悪いね! ベルスはキリョクを診る事が出来るんだ。医者が触診するように、触れる事で相手の気の流れを感じる事が出来るんだよ」
ジュリアンに説明されて、俺は少しほっとした。そういう使い方が出来るホシビトにただ読まれただけだ。もっとまずい事が出来るかと一瞬疑っていた。相手のキリョクを奪ってしまったり、とか。
「キリョクの使い方は人それぞれだが、ミスタ・オガミのそれは、極めて強力だね。魔剣を託されたのも頷けるというものだ」
「ベルス、言ってあげればどうだ?」
ジュリアンがせっつく。
「我々は今回の任務で成果を求められている。君と、君の相棒を、今度はアメリカに招いて、マイアミのキングダムを潰す仕事を手伝ってもらいたい」
「それは……」
「あくまで非公式の話ではある。だが、もう悠長に構えていられる程、ニンゲンたちに残された時間が無いのも事実だ。この星が完全に異界化してしまった後、ニンゲンはフロンティアを求めて、宇宙に生活圏を求めなければならない」
「俺たちは、その手助けをする。そういう約束をプレジデントとしているのさ」
「そういう事だ」
なるほど頭が良い。日本と違って、即行動している辺り、力があるのも事実だ。だが、一つ大きな問題を見過ごしている。
「俺たちには国籍が無いんだ。つまり、法的には存在しない事になっている」
「それは今法案が出ている通り、解決するんじゃないか?」
ジュリアンが指摘する。
「そのための法律を用意しなければ、他国の軍事行動に参加する事は許されない」
俺が回答すると、ベルスが唸った。
「ふーむ、この御仁はインテリだ。アメリカでも十分通用する。が、まずは東京キングダムを潰してからの話だ。その後で話をしよう」
ベルスが俺の肩を叩き、ブラムにも一言言った。
「ミスタ・ヘルマン、君もまた良き兵士のようだ。我々は戦力として期待している」
「そりゃ、どうも!」
陽気に答えるブラムは、しかし、目は笑っていなかった。分かっている。どうもこの連中は信用出来ない。他に何か目的があるようだ。
ずっと俺の近くをじろじろ見ている。
こうなる事を見越していたようだが、
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