4-8 五人の誓い
アメリカが持ち込んだものは幾つかあったが、中でも一番驚いたのが、この飛行大型艦だ。
名を『イリノイ』という。
最新型であったアイオワ級飛行戦艦をベースにホシビトの部隊を運用するための改造を
ガトリング群や対空ミサイル、対地ミサイル、キリョク拡散粒子弾、フォースバリアも備え、全方位への攻撃、防御が可能な、全長三百メートルの巨体。正に空の要塞である。
「……」
流石にブラムもこれには参ったようで、呆れて物も言えないらしい。
「これを持ち込んだって事は、本気だな」
誰に言うでもなく、俺は呟いた。
上空をアメリカのライトギアが飛び交っている。まるで鳥の群れだが、部隊の練度は高そうだ。綺麗な編隊を組んでいる。
「凄いだろ? 全機出撃すれば、片付けるのに二時間も掛からないだろうね」
ジュリアンが愉快そうに俺に言う。ずっとこちらに付いてきているが、暇なのだろうか?
「ジュー、ちょっと甘く見積もり過ぎじゃないの?」
女性の声? 振り返ると、赤い色が見えた。燃えるような真っ赤な赤毛。まっすぐで長い。風になびいている。
「ヒラリー、部下たちの面倒はいいのか?」
ヒラリーと呼ばれた少女は、微笑を湛えて、ゆっくりとこちらに近付いてきた。俺の目の前に立つ。……結構たっぱがある。
「ヒラリー・グスタフ中尉。アメリカ空軍のホシビト」
握手しながら、俺も自己紹介した。
「
何となく締まりのない肩書きだと思ってしまった。相手が女性だと尚更。
「写真よりセクシーな男性ね。髪は後天性の変異らしいけど、目はカラーコンタクト?」
「いいえ」
「ゴールドに輝く
じっと目を覗き込まれている。……ヒラリーのブルーの瞳が見える。綺麗だけど、ちょっと恥ずかしいネ。
離れる前にそっとヒラリーに耳打ちされた。
「後で連絡先を教えて」
そっと手に紙切れを渡された。
「そちらは、ブラム・ヘルマンね。狙撃の名手」
「よろしく」
ブラムはヒラリーを握手しつつも、上手く距離を取っている感じがある。
……やるなぁ。
自分が易々と接近されたのに、相棒殿はこれだ。見習うべきところが多い。
「ベルス、彼等にはもう話したの?」
ヒラリーが聞くと、彼は無言で頷いた。
「正式に、アメリカ政府から日本政府に要請があると思うけど、マイアミキングダムを潰すために、日本のホシビトを徴集するの。各国のキングダムを潰す連合軍の、まあ、手始めという事なのだけれど」
「連合軍?」
初耳だが?
「これを見て」
ヒラリーがバッグからパッド端末を出す。五人でそれを囲むように立つ。
「これが二か月前のマイアミ異界。で、これが現在」
赤く染まったエリアが拡大した。
「うわ……広がるの早くなってるわ」
ブラムがいち早く気付いた。
「そう。そして、これが一年後の予想図」
エリアが爆発的に広がり、内陸まで一気に赤く染まった。
「アトランタは全滅。シャーロットもナッシュビルも陥落は目前。更に三年後には東海岸全てが異界化する」
赤いエリアがアメリカの右三分の一程度を支配する予想図が液晶画面に映っている。
「ちなみに新宿の異界だけど、一年程で日本全土を飲み込むと思うわ」
「……」
頭の中が真っ白だ。馬鹿な……。
「現場に情報が下りて来ないのは、やっぱ情報統制か」
ブラムが指摘する。ジュリアン、ベルス、ヒラリーが、ブラムを指差す。
「大混乱が起きる前に、速やかに国外に国民を移さないとか」
ブラムが頭を
「その移送先を探しているのよ。フィリピン、インドネシア、パプアニューギニア、オーストラリア。でも、受け入れにも限界がある。今太平洋上に巨大な海上都市を建設中。極秘だけど」
「……日本でも千九百八十年代から話だけはあった」
俺が話すと、ヒラリーが俺を指差す。
「日本の海水淡水化技術が、実は海上都市の鍵だったの。ここにアメリカ、日本がまるごと引っ越す」
「何処から必要な資材を?」
「あらゆる手段を用いて、使えるものは全て集めたの。お陰で二か月後には建設資材関連のハイパーインフレが起こり、それに伴い他の物価も深刻な程に上がる。でも、その頃には、海上都市での生活構想が広告されて、それどころではなくなる」
「俺たちにそれを話したという事は、すでに
「ご明察! 日本国は以後太平洋海上都市、エリア
「……」
俺は口元を押さえて、眉根を寄せた。ナナが生きられるなら、協力を惜しむ理由は無い。
「ここにいる五人は、アメリカ、日本のトップガンに入れると思うの。お互いに協力関係になる事だし、情報交換出来る体制を整えない?」
随分と性急な事を言われたが、嘘をついて得をするとも思えない。
俺は頷いた。
「じゃ、俺も」
ブラムも同意した。
「良かった! よろしくね、キセ、ブラム!」
ヒラリーがあどけなく笑う。歳は十四くらいで、やはり俺たちと同じだ。でも、最初から気になっていたが、信じられない程胸が大きい。
「なあ、
ブラムがそっと俺に耳打ちする。それは俺も思っていたところだった。
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