2-7 修羅へ
南極に来てからひと月。ずっと剣を振っている。
答えはまだ出ていない。
ただひたすらに技の練度を高め、ついに百メートル威力を維持するに至ったが、速度はマッハ3程度。
速さが……足りない。
動きが……悪い。
何故だ? 何故……。
足元を見た。抉れている。既に三十万を超える抜刀故に、だが――。
何かが……おかしい。
違和感が、あった。
同じ剣の振りなのに、軸足の踏み込み位置にずれがある。意図的にそれをやっていたわけではない。明らかに体の軸がぶれている。
「……」
分かった、気がした。
剣を鞘に納め、雪の大地を歩き出す。今日は風もそこそこで天候も悪くない。どっちに行けばいいか、はっきりと分かる。
三時間後、海に出た。目当ては氷。割れた氷の足場、である。
それに飛び乗り、腰を落とした。
「……やっぱり」
氷が傾く、ぐらりと僅かに揺れる。
「バランス、だ」
つまり身体の使い方がなっていなかった。
無駄な力が入り、剣の振りにぶれが生じる。では、どうするか? 根本と幹と枝、これらが一切の妥協を許さず、力を葉に伝える。
この一連の動作を神が瞬く間に行う。誰もが見逃し、何の手立ても打てぬまま、倒れるだろう。
やり方は、分かった。後は修めるのみ。
腰を落とし、柄に手を添え、抜く。
ぐらり。大きな傾きがあった。下半身の体重移動が特に悪いと感じた。動きを精査する。もう一度最初から。
動作の修正。実行。
ぐらっ……。
顕著に効果が表れた。前よりも遥かに少ない揺れ。明らかに技の切れも良くなった。もう一度最初から。
動作の修正。実行。
くらっ……。
揺れが極端に少なくなった。だが、技の切れが悪くなる。力を抜いたためだ。失敗だ。もう一度最初から。
動作の修正。力はきちんと伝達する。バランスも注意する。実行。
くらり……。
少し揺れが大きくなったが、技の切れは良い。
「……」
糸口を、掴んだ。
――南極は冬を迎えた。俺は相変わらず剣を振っている。
烈風は未だ完成を見ないが、威力を一キロ持続するに至り、速度にしてマッハ十を超えたと思われる。
尾神キセ、ゼロ歳。極寒の南極で、修羅へと歩を進める。
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