2-5 四人目の客
「そろそろ話す気になったかね、ミスタ・オガミ?」
流暢な日本語で聞かれ、俺はどうしたものかと思案する。今座らされている。椅子に縛り付けられて、紐でぐるぐる巻き。
「あの、」
俺が言いさすと、男が愉快気に首を揺らした。
「足に釘打つなんて、随分古風だなって……」
何本打ったんだか。和釘みたいなのがもうびっしり脚に刺さっている。
「これなら治りが早いホシビトにも効果が期待できる」
「言えてる」
実際痛いんですけど! 興味本位で自分の肉を切り落として、料理の具材にした時以来記録更新の時来る、かな?
「八火殻の刀は何処にある?」
それが聞きたくて、こんな事をしたらしい。まあ、何でかは察しが付く。
「ホシビトを殺せるなんて話、本当かどうかは分からないよ?」
「あー、ミスタ・オガミ、そういうのは私が決める事じゃない。ただ、保管場所を聞き出せば、私の仕事は終わりなんだ。お互いスマートにいかないか?」
スマートに、ね。じゃ、遠慮なく。
「フランスだな」
「ほう……」
男が興味あり気に俺の目を覗き込む。
「フランスの異界では八火殻は出なかった。アメリカでも、ロシアでも、中国でも、だ」
「何だと?」
男が動揺している。
「あんたが四人目だ。で、あんたが一番酷い」
「というと?」
「他は皆、死ぬまで鉛玉を撃ち続ける。こんな趣味に走った拷問、他ではそうは見ない」
ははははははっ、はははっ、ははっ、と俺は笑う。男は口元を手で押さえ、額から垂れる汗を甲で拭う。ここは蒸し暑い。何処かの船の船倉みたいだが。
「では、何故君は無事だったのだ?」
男が苛立っている。俺は、にやりと笑って、顎をしゃくった。男が振り向こうとする。そのこめかみに静かに死神の唇が添えられた。
「悪いな。うちの子、門限が厳しくてね」
ブラムだ。また、助けに来てくれた。
「ミスタ・ヘルマン、だな? 君はフランス系だろ?」
「だから?」
「祖国に対する愛を聞きたい」
「その程度を? 残念だが、俺は空から来た。まだ漂流している」
「ふぅーんむ、残念だ」
「俺もだ、よっ!」
ガンッ! とハンドガンの台尻で男の頭を打った。手慣れたものだ。もう四度目だものな。倒れた男に目もくれず、じっと俺のやられようを眺めるブラム。
「ひでえ格好」
あんまりな事を言われた。この黒ひげ危機一発のような脚を見て、そんな事。
「あ、そうそう首相から言伝。今回もお仕事ご苦労、ちょっと医者に診てもらえってさ」
「医者? いや、俺は」
「ココロの、お医者さんだ」
「……あー」
そういうの、必要ダヨネ。俺もそろそろ、と思っていたんだ。
「では、王子様、お助けしましょう」
「ありがとう、王子様」
もう四度目になるやり取りを何時も通り平然とこなす。後これが三度あるらしいが、次はどんな事をされるんだろ? 胸が躍って、今夜は眠れない、かもだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます