2-1 キリョク

「ふぅー……」


 息をゆっくりと吐きながら気を集中させる。鞘に納まった刀の柄にそっと手を添えた。


「はっ!」


 高速で抜刀し、気を発した。目の前のコンクリート板がバリッと割れた。奥に続く五枚まで割って見せた。


「はぁ……」


 ゆっくりと残心しつつ、刀身に目をやる。虹色にきらきらと光るそれは太刀の部類に入るだろう。刃長は約八十センチ。反りはそこそこで、抜く時の速さが印象に残る。


「何? 訓練?」


 訓練場に金髪の少年が入ってきた。ブラムだ。今日は髪をポニーテールにしている。


「総理から贈り物があって……」


 俺は太刀を見せて、気を静める。


「凄いな……業物じゃないか」

「新宿異界で採れた希少鉱物を精錬して、打たれたものらしい。当代最高の職人による一点物なんだと」


「で、あれは?」


 ブラムが割れたコンクリート板の方を見る。


「厚さ三十センチだけど、今の力だと五枚くらいかな」

「ふーん……」


 感心したのか、呆れたのか分かったものではないが、興味はあるようだ。


「『キリョク』って奴さ。ホシビトが持つ力」

「輝きの力って、前に教練で聞いたっけ。その力の強さで、ホシビトのランクが決まってさ」


「ランク……俺は三等星だったかな」

「奇遇じゃん! 俺も同じ同じ!」


 ブラムは何だか嬉しそうだが、俺の関心は別のところに向いていた。


「自分に向いているキリョクの使い方を研究したりとか、ちょっとやってたけど、俺はどうもこれらしい」


 すっと音も無く刀を鞘に納めた。


「いいなぁ! 俺も新しい武器欲しいわ」

「あ、それね。総理からブラムに」


 俺が足元を指差すと、ブラムがそれを覗き込んだ。


「んん? ギターケース……? 何で?」


 ブラムがギターケースを開ける。かちゃりと開いた蓋の下にギターが入っていた。


「え?」


 困惑するブラムの目の前でギターケースの二つ目の蓋が開く。偽装された蓋の下から物騒なのが顔を見せた。


「……」


 ブラムがそれ等武器を一つ一つ点検する。


「オートマチックハンドガンが二つ。リボルバー一つ。これは、オートマチックマグナム? 後、ソードオフのショットガン?」


 カチャリ、とショットガンの銃身が折れる。


「ボーンの骨格から作られた弾丸だって。キリョクを込めれば威力が上がるとか」

「ふーん……でも、何でだろ?」


 ブラムが腑に落ちないといった面持ちで首を傾げる。


「何が?」


 俺が尋ねると、ブラムがふと疑問を口にした。


「全然現場に持っていくって感じの装備じゃないんだよね? 妙だと思わないか?」

「確かに……」


 言われてみればそうだ。


「で、これ、携帯してもいい事になってるの? 何か街中に持ち込むって感じだけど?」

「それは何故かいいって言ってたんだよね……」


 何となく、不吉な予感がした。ブラムの顔を覗くと、俺と同じように顔をしかめている。俺たちは、次に何と戦うのだろう? ボーン? それとも――。

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