1-2 地獄の縁
フォーミュラが変形しながら垂直降下体勢に入った。
船首が左右に割れて、両腕に装着される。シートが後ろに下がり、船尾ブースターに引き上げられながら背面にかちりと装着された。
ミドル級ライトギアである俺の外装は想定上のスペックで音速を超えるのに約七秒掛かる。微細な加速、制動もやや苦手とするところがある。だが、フォーミュラを装着する事でその問題をクリアしている。
ここでは必要な性能だ。
『スキャンに感あり。数六。ブルラットと想定される』
狙撃戦用にレーダーが強化されているブラム機が早速お客さんを見つけた。
「了解。司令部、これより交戦を開始する。繰り返す、交戦を開始する」
『……アルファワン、アルファツー、交戦を確認。ただちに脅威を排除せよ』
命令が下った。俺は腰部に装備されたP2OプラズマライフルとE5アサルトライフルを両手に持たせ、ブースターを吹かした。猛烈な加速が秒間を抜けるような速度へと俺を押し上げる。
「ぐぐっ!」
身体を押し潰さんばかりの加速Gに耐えながら、ビルの側面から回り込む。眼下のビル根本にブルラットが群れているのが、見えた!
急制動! 空中から敵を牽制する!
E5アサルトライフルを主軸に弾丸をばら撒く。反動でがたつく腕を何とか立て直し、同時に右手に持たせたP2Oプラズマライフルの照準を修正する。こいつは威力が高いが、弾丸が磁界で封じられている性質上微妙に着弾点がずれる傾向がある。視界に映る補正データが腕と連動して、自動で標的へと修正してくれているので問題無いが。全てフォーミュラの人工知能がやってくれている。
「!」
不意に幻視が見えた。いや、これは未来予測! フォーミュラの人工知能『
銃撃! 隠れていたブルラットからだ! 背角の連続発射。直径三センチ程度の針が超音速で脇を通り抜ける。直前に微細な急加速、急制動の連続動作で最小限の移動距離ながら全ての攻撃をかわしていた。ファントムと呼ばれる高度な回避技術だ。傍目に見ると、まるで幽霊のように消えて見えるからそう呼ばれるが、実際目に映らない程の強烈な加速と制動をやってのけている。
「くっ!」
それ故に身体に掛かる負荷が高い。そろそろバックアップが動いていると思うが。
『お待ちぃっ!』
銃声が聞こえた。連続して三発。着弾は……見事。全弾命中したな。急所だ。FATAの見せる映像が脳内にイメージとして伝わってきている。目が複数あるような感覚だが、慣れればそれ程苦にはならない。
『スキャンに感なし。アルファワン、調査活動に合流されたし』
「アルファワン、了解。合流する」
降下しながらビルを回り込んでいく。小さなビルの屋上でブラム機が手を振っている。灰色に変色した装甲はカムフラージュ率が抜群でスキャン無しには見抜けないだろう。俺たちが纏うライトギアは光の粒子を織って形成した鎧だ。イメージした通りに形を変えたり、色を変えたりも出来る。最も進んだ光学迷彩としばしば称されるが、これは人類が開発した技術ではない、らしい。俺たちがそもそも人類によって作られた生命体ではないからだ。記憶は過去の通り、しっかり現実世界とリンクしているが、俺が死亡したのは今から五十一年前の事で、地上に落下するまでの出来事をまるで覚えていない。何も……覚えていなかった。
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