1-1 出撃

 エンジンに火が入り、カウントが始まった。二十、十九、十八、……、


「コントロール、こちらアルファワン。発進体勢に入った」

『コントロールよりアルファワンへ。発進を許可する。ハッチ開放。リニアカタパルト入電開始。カウント合わせ』


 計器に合わせて、リニアカタパルトのボルテージが高まっていく。

 三、ニ、一、ゼロ!


 脳髄をハンマーで打ち抜くような加速が掛かり、コンマ三秒で一気に射出された。目の前に……空が、見えた。


 俺は今マシンに跨っている。


 ライトギア専用支援機。これは現行の標準的な機種で、CHI‐F3、通称フォーミュラと呼ばれている。


「……」


 流石コーラスヘビィインダストリーが送り出した制式採用機。良い加速だ。


 バイザー越しに腕をちらりと見下ろし、前方に向き直った。白亜の外装は安定している。体調不良で強制解除されたら、空中で身体がばらばらになる事もあるから。教練で習ったチェック項目が今も習慣になって活きている。


『新宿グラウンドゼロ到達まで六〇〇ろくまるまるセカンド』


 眼下には廃墟と化した元都心がある。新宿に落ちた柱を中心に異界化したのはもう二十三年も前の事だ。以来有史において最も甚大な天災が広がり続けている。ゆっくりと、確かな歩みで。


『異界領域に入ります』


 オペレーターの案内の数秒後に巨大な壁が見えてきた。その先に青い世界が広がっている。異界に自生するアオツノゴケが栄華を誇っているんだ。猛毒で人体を腐食させる特性を持っている。


 第五層の壁の上を通り過ぎた。目が痛くなる程の真っ青な世界が広がっている。


『うっわ、相変わらずぞっとするわ……青いねぇ』


 僚機として随伴しているブラムがぼやいている。確かに目が痛くなる程の真っ青な世界だ。だが……、


「綺麗だ……地獄そのものだな」


 そんな感想が口を突いて出てしまう。


『言えてる。これから降りるんだけどね、地獄に』


 ブラムの重いため息が鼓膜を刺激する。通信感度良好。今日は電光系のボーンと出くわす事はないかも知れない。あれは電磁波の障害を起こす厄介な個体だが、二週間前の大規模調査の際に特務『黒の旋風ブラックゲイルズ』小隊にあらかた刈り取られたというのは記憶に新しい。


『アルファワン、アルファツー、降下体勢へ』

「了解。アルファツー、遅れるな」

『アルファツー、了解。降下体勢』


 フォーミュラがゆっくりと減速しながら降下していく。青い大地が近づいてきていた。

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