『通信』 テーマ:繋がる
暗い船内に電子音が鳴り響いた。
私は冷たいカプセルから強制排出され、床に降ろされた。
体内から冷凍液を吐き出して、ふらつく足をなんとか床に固定して立ち上がる。
本当なら冷たいはずの手すりすら温かく感じられるほどに体は冷え切っている。
三度目の覚醒だった。
それが意味する事はこの脱出艇が信号を受信したということだ。一度目は付近を通る民間船の無線を受信したとき、でもこちらの遭難信号が弱かったのか気づかずにどこかに行ってしまった。二度目の受信は何かの残骸から発せられた信号だった。そのたびに私は冷凍カプセルから起こされて確認するのだった。
私の乗っていた大型船は事故で大破。なんとか脱出したものの生存者は私一人。もしかしたら他にもいたかもしれない。でも確認しようにもレーダーは故障しているし、航行も不可能なほどに損壊していた。
辛うじて空気と何年かの食料はあるけども……。
三度目の受信。何か話しているようだった。スピーカーのスイッチを入れると声が聞こえた。男の声だ。
「もしもし、だれか聞こえますか?」
「聞いてます。ここにいます。お願い助けて!!」
「聞こえますか?……お互い信号は受信されているはずだ。返事をくれ」
故障しているのか私の声は相手には届かない。
「助けてくれ、遭難しているんだ」
どうやら彼は救助隊ではないらしい、それどころか私と同じ遭難者だ。
「返事が欲しい……。いや、無くてもいい。聞いてくれ」
彼は話しだした。返事のできない私に向かって。
それはまるで下手なラジオ。落ちもないし、盛り上がりも無い。はっきりいえばつまらない話ばかりだ。それでも人の声を久々に聞けたと言うだけで私には十分だった。
私のいる救助艇に彼の声だけが響いている。返事がしたい。でもエンジニアでもない私には何もできなかった。
そうして何週間か経った。
「もう、死んでいるのかもしれない相手に話しても仕方がないか……」
「お願い話して!私は聞いている!」
彼の声が聞こえなくなってしまう。この孤独の宇宙で聞こえた声が聞こえなくなったら今度こそ孤独に潰されてしまう。
私は何かないか必死に方法を探した。こっちが受信していることは相手に分かっているのだ。なんとかしないと。
私は思いついた。スイッチを弄ればいいのだ
ONとOFFを繰り返して、なんとか覚えていた“はい”のモールス信号を送った。
「なんだ……そのにいたのか」
声は繋がらない。でも通じた瞬間だった。
救助隊がいつ来るか分からない。もしかしたら来ないかも。
それでも今この瞬間だけは救われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます