祝100話 再戦の誓い


 のんびりと宿で朝風呂をし、斜め向かいの餃子バーの鍛冶場で何となく杖の強化メニューを見るまでは気分が良かった。北海道らしい涼しげな午前の風で天気も良かったのだ。


 『獄怨の杖』の強化メニューには『重量軽減』しかなかった。



 とりあえず叩いてみた。100回。

 午前中から店はやっていないので店の外でだ。


 +1になり、重量が65から63に減少した。


 少しムキになり、もう200回叩いた。


 +2になり、重量が63から61に減少した。


 かなりやけになり、もう300回叩いた。2回ほどすっぽ抜けてスマホが飛んでいった。


 +3になり、重量が61から59に減少した。


 大分、軽くなった。気が付けば昼だ。




 ということで、創成川を渡ってややススキノ方面にあるスープカリー屋にやってきた。


 こんな気分を変えるには刺激的スパイシーなのが1番だ。


 この店の特徴として、黄色いターメリックライスにレモンが添えられている。ライスに搾りかけるのが正しいのだろうが、これをわざと辛めのオーダーにしたスープに搾るのが好きだ。


 後、ゴマがふりかけ放題だ。


「お一人様ですか? こちらへどうぞ」


「ヘルシーハンバーグ4番ライス普通で」


 スープカレーといえば揚げた具材を入れるお店が多く、とても油分多目オイリーなのだがここはそんな油で誤魔化さない数少ない店だ。



 しかし……この『獄怨の杖』は性質が悪い。


 ロストするリスクのある+5以降で追加効果を出してからでないと、まともに強化ができないとは……。


 重量軽減など……ちょっと腹が立ってLCも90から100に上げてしまった。自省しよう。


「お待たせしましたー。ヘルシーハンバーグです」


 金色こんじきに輝くスープにゴマを振りかけていく。スープが見えなくなるまでこれでもかと振る。いや、右腕が限界だ。


 スープをすする。


 相変わらずスパイスが調和している。各個尖りすぎずコクのある出汁を盛り上げている。塩味も辛味と喧嘩せず丁度良い塩梅だ。


 ライスと合和する。約束された勝利のライス。


 湧き上がってくる辛さに早くも額に汗がにじむ。


 からい。


 ここでレモンが救出レスキューだ。辛味と相克する酸味が辛さを抑え、深みを与えてくれる。鶏肉を混ぜたヘルシーな豆腐ハンバーグも舌の一時退避を助けてくれるのだ。


 攻める。


 ライスの弾数が心許ない。想定より減りが早い、戦線は保つのか。


 カボチャだ。炭水化物勢はジャガイモもまだ残っている。


 汗が滴る。朝にサウナで搾ってきたというのに前からも後ろからも吹き出している。


 このままでは減量中のボクサーのように痩せ細ってしまうのではないだろうか。


 しかし、ギリギリで完食。


 勝負には勝ったが、許容量を超えた辛味は後で腹が痛くなるだろう。気にするな想定通りだ。


 とりあえず宿に帰って風呂に入ろう。



 清々しい気分で歩き始めるとゲップが出た。ゲップまでスパイシーだ。


「Heavenly……」


 また戦いに来る。そう誓った。

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