第101話 エコロジー


「マスター。強い奴をください」


「竹鶴でいいかい? スピリタスもあるけど」


「竹鶴をロックでください」


 流石に消毒用エタノールより度数の高いウォッカを飲む気にはなれない。無難に今や絶滅危惧種のジャパニーズなウィスキーをオーダーした。


「何があったんだい?」


「……呪われてしまいました」



 ……



 スープカレーによる汗を宿で流したあと、俺は再び餃子バー鍛治場に舞い戻った。


 明日は久々にチームイーストの狩りがあるのだ。まだ『獄怨の杖』の情報は流していないのだが、ある程度杖の強化を形にしておきたい。具体的には+5の追加効果を確認したい。


 そんなこんなで早速『獄怨の杖』の強化メニューを開いてみると『重量軽減』の強化最低EPは400、成功率70%と表示されていた。


 強化EPを倍の800にすると成功率は85%になり、3倍の1200にすると90%になった。失敗確率が使用するEPの倍率で下がるようだ。


 半ばロストしてもいいかくらいの気持ちでEP800を投入して叩き始める。400回だ。


 ロストしたらアイテム作成で1000回かと思いつつ腕を振るう。


 左手でPCを操作しニュースサイトを巡っているうちに完了音が鳴り響き+4強化が成功した。もちろん、重量は57に軽くなった。



 この不毛な作業にも少し慣れてきたかもしれない。


 次なる『重量軽減』の強化最低EPは500、成功率は60%だ。ここで失敗はしたくないので、EP2000を投入し成功率90%にして500回叩いた。


 強化開始から休み休み小1時間。時間にしてみるとそれほど経たずに+5が完成した。


 『獄怨の杖+5』(被ダメ軽減無効、最後の一撃ファイナルストライク、重量55、装備変更不可)


 追加効果ファイナルストライクの詳細は未知であるが既に不穏である。


 情報サイトで調べてみてもそんな特殊効果はなかった。


「いや、一発で壊れる奴だろう」


 空虚な1人つっこみが漏れる。



 もう心の中では決まっていた。


 もう使ってロストしてしまおうと。


 1000回がナンボなもんじゃいと。



 ぐるりと見渡すと哀れな獄岩石が目に止まる。

 俺もお前を怨んでいる!


土槍アースランスッ‼︎」


 通常なら6、7発必要な獄岩石が、追加効果ファイナルストライクを発動した土槍アースランスの一撃であっけなく沈んでゆく。


「……ふはは」


 やってやった。怨みを晴らしてやった。欲しかったのはこういうことだろう? ユニーク装備があっさりとロストする。そんな絶望感が欲しかったのだろう?



 だが、俺が欲しかったのは使い勝手のいい装備を状況によって使い分けることだ。


 そんな、最後の一撃ファイナルストライクを放ち、空になった装備欄には……あれ?



 『獄怨の杖』(被ダメ軽減無効、重量65、装備変更不可)



 絶望した。

 こいつは恐らくロストしない。



 強化分と最後の一撃ファイナルストライクが飛ぶだけだ。



 ……



「……ということがありまして」


「え、さいとーさんユニーク持ってんの?」


「はい。呪われてます」


「いやいや、壊れないなんてサイコーでしょ」


「でも鍛えても1発しか使えないのですよ?」


「これはもう+10までいってみるしかないしょ」


「でも1発しか使えないのですよ?」


「また使えてエコ」


「エコ……」


 からりからりとグラスの氷を回しながら、そういう発想もありなんだなと考える。



 しかし、そこに横たわるのは苦行だ。何かある度に叩く。叩かざるえない状況に追い込まれる。


 吐いたため息には、モルトのふくよかな香りが感じられ、まあいいかと気持ちが軽くなった気がした。



 ……いや、よくないだろ。



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