第95話 餃子バーにて

 

「マスタぁー。スキルの維持コストランニング、キツくない?」


 餃子バーのカウンターに突っ伏したルイが不機嫌を隠さずにマスターに愚痴る。一緒に飲みにきた盾役のアタシはそれほど上級の物理スキル数を維持していないけど、物理アタッカーのルイとマスターはスキルが生命線なので維持コストが厳しいのだろう。


「イーストも近接には稼ぎやすい界じゃなくなっちゃったからねぇ……」


「やりやすくはないわよねぇ」


 マスターのため息混じりの意見にはアタシも同意だった。


 EPで購入できる物理スキルは、毎週日曜日の朝に購入EPの10%が維持コストとして引き落としになる。30万EPの上級スキルなら週に3万EP。EPの残高が足りなければ使用頻度が低いスキルを一つ失ってしまう。

 わざと安い下級スキルを犠牲にするにしても上級スキルの維持はそれなりにコストがかかるため、身の丈に合わないスキル保持は推奨されないのだ。


 超級の敵の討伐作戦もあり、ある程度のダメージで自爆してしまう獄岩石オンリーとなった創成イースト界は、近接物理職には鬼門となってしまっていた。


「スキル絞ろうかなぁ。ママ助けてぇー」


「そうねぇ……獄岩石が危なくなってきたらアタシが範囲防御使って、アタッカーは一撃離脱作戦かしらねぇ」


 とは言え、盾役の範囲防御スキルの範囲はさほど広くなく、精々が大人が3人並んだくらいの範囲しかない上に後ろしかカバーできなかったりするので位置取りが大変だったりする。


「マスター向きな作戦だー。私は手数重視構成なのにー」


「自爆されないようにダメージコントロールしなきゃね」


「そういうの苦手」


「意外と脳筋だよねルイは。一撃必殺ロマン派にいらっしゃいな」


DPSマニア派のスキルしか使ってきてないー」


 マスターとルイは同じ物理アタッカーではあるものの思想の違いがある。スキル発動のモーションもスキルツリーによって似通ってくるため、別系統の習得は買うだけではすまず、新たなモーション練習が必要なのだ。体に叩き込まないと発動成功率に大きく影響する。


 創成イースト界も変わったけど、チーム札幌イーストも変わりつつある。


 戦い方も、そしてチームメンバーも。


 もう1人の盾役のカオルも前衛の盾役ではなく、物持ちポーター寄りの魔法使いとなり、売買や交換などのギルド仕事をやっていくらしい。


 アタシも……密かに魔法の練習を始めていたりする。こう見えても初級魔法なら何とかなりそうな気がしている。


「さいとーさんも最近忙しそうだし……。ここは、モモちゃんに頼るしかないかなー」


「界主メイン盾!」


「つおい!モモちゃんつおい!メインアタッカーもいける!」


 あらあら、盛り上がるのもいいけど寄生プレイよそれ。


「さいとーさんかエンプレスりっちゃんをメインアタッカーに……かしらねぇ。エンプレスりっちゃんの魔法の仕上がり次第だろうけど」


「さいとーさん、さりげなくソロ狩してるからなぁ」


「えっ、マジで?」


「マジマジ。泊まってるホテルとかで近くにいる敵を一体だけ倒してるみたい。ちょいちょい暇見て」


 マスターでなくとも驚きである。上級界をソロとは……。


「お手軽だな……。まぁしょっちゅう拉致監禁されてるしなぁ」


「魔法使い、いいよね……」


「詠唱しなくていいなら魔法使いたい」


「それな!」


 ほんと、詠唱がネックなのよね魔法……。アタシ、魔法少女パターンと厨二ポエムパターンはともかくシステムパターンの詠唱とかできる気がしないわ。


 早く、詠唱破棄とか見つからないかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る