第72話 イースト攻略前哨戦


 遊具で遊ぶお子様達を尻目に、大人達は広場で円を描くように配置する。外周は盾職の皆さん、中心部にロリッ子眼鏡のモモカに俺、マスター、ルイさんのアタッカー勢だ。


 モンスターが主の界でEPを垂れ流す乗っ取り行為を行うと、全方位から敵がやってくるらしい。最終的に界の主が現れるそうな。


 主の権限は「界に最もEPを捧げた者」になるため、界の主を倒すと次点のモモカに権限が移る。そんな仕組みらしい。


「モモちゃん! やっちゃって!」

「は、はい!」


 慌ててスマホ操作を行うモモカを眺めつつ、みんなを見渡しながらアイコンタクトを行なっているルイさんに頷きを返す。


「北、鷲2!」

「おでましねぇ」

「こっちもワシ1っス!」


 前衛の索敵情報に、緊張感が迫り上がってくる。


「じゃーがんばりますかー。ルイ、そっちよろしく」

「さいとーさん、足の速い連中の後に狐が出てきたら耐火バフお願いね」

「了解です」


 飄々とサポート組のアタッカーに加わるマスターには無駄なりきみを感じない。年の功だな。ルイさんは若干入れ込んでいるようだ。


 慣れない全方位バトルだが、こちらもMPを使い過ぎない程度に援護していこう。


「……アロースタンバイ」



◆◆◆



 MP即時回復ポーションも持ってきてはいるが、念のためMP8割キープで火矢ファイアアローを撃ちまくること小一時間。鷲に狼と40体は倒しているだろう。詠唱破棄なのだが元々イヤホンマイクなのでバレてはいない。センセーショナルな詠唱短縮の発表が覆い隠してくれている。


 スキルモーション入力で動き続ける物理アタッカーの2人にも疲労の色が見えてきているが、今のところ大きなミスもなく順調に経過していた。


「いや、これでも大分楽な方だけどね。さいとーさん様々だわ」


「マスターもよくそんなに動けますね」


「明後日もお休みしたいね筋肉痛で」


 息は乱れているが、軽口を叩くくらいの余裕はあるようだ。


「狐! 出ました!」


 サポート組のノッポ君が声を上げる。


「さいとーさん!」

「了解です」


 耐火レジストファイアは消費MP18の10分間火属性の耐性向上(ダメージ・状態異常確率を50%OFF)だ。詠唱短縮がある今なら一気に全員に付与できないことはないが、MPが枯渇してしまうので1分毎に2人ずつ付与していく。


 10分後には最初の人達のバフが切れてしまうため、バフの維持だけでもMPに余裕はない。1分毎にMPは5%しか回復しないためMP200弱の現在ではフローが赤字でMP即時回復薬ポーション頼みだ。


 バフの維持だけでざっくり20分毎にポーション1つ使用するペース。


 ポーションの残数は30。15,000円也。


 10時間は戦える計算だがはてさて……。



 初見の狐は、赤い狐だった。狸もいるのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る