第73話 イースト攻略ボス戦1

 

 大きな尻尾を炎のように揺らし、たたずむ三頭の紅い狐。ピンと張られた耳が敵意を示していたが、すぐには襲ってはこない。


「き、狐さん初めて見ました」


炎狐ほむらぎつねね。あいつらこすっからいから単体じゃ襲ってこないし、普段なら近寄りもしないの」


 順次、耐火レジストファイアを詠唱していると、ルイさんとモモカの会話が耳に入る。狡っからいとかきょうび聞かないな。


「出るわよっ! 前衛はローテでねっ」


 前に出ていくガイさんに、何も言わず付き添うカオルさんの背中が頼もしい。2人への耐火レジストファイアは既に終えている。


 全方向戦闘を解除して、敵を足止めする前衛メンバーがローテーションで交代しながらボスと戦うようだ。



 やがて狐の後ろに炎が巻き上がり、地に伏してた獣が姿を現した。


 ゆっくりと立ち上がり咆哮を上げるその炎の巨体からは、熱など感じないゲームのエフェクトであるはずなのに背中がチリチリと感じる。


「あれが……ヒグマ?」


火熊ひぐまのブレスか炎狐きつねで燃えたらルイかさいとーさんのとこへ。攻撃を受けたら各自ステータスチェックよろしく。じゃ炎狐きつねから行くでぇ」


「「おう」」


 マスターの掛け声で戦端が開かれた。火熊に対してはガイさんとカオルさん、三頭の炎狐に対してはサポートメンバーが各2人掛かりで交互に抑えて、盾1人の一頭だけにアタッカーのルイさんとマスターが集中する布陣だ。


 開幕から火熊のブレス。3mを超す巨体から火線が左右になぎはらわれる。

 範囲内にいたのは炎狐をあしらっていたガイさんとカオルさんだ。


 2人が炎に包まれた後、カオルさんが燃えている。耐火レジストファイアの状態異常耐性は100%ではなく50%だから致し方ないとしても、これでは忙しい。


「ショーカスタンバイ。

 ヒーデルデル、デラデリデルヒーデリ。消火ファイアファイティング


「……ありがと。でも急がなくても大丈夫」


 ちらりと振り返るカオルさん。


 なるほど、燃焼状態の継続スリップダメージも軽減されている。落ち着こう。焦らず確実にだ。


 深呼吸を一つ。


 視点を高く、視野を広くだ。



 ……おや? 敵が全員、こっちを見ている?



 背中をひとすじの汗が伝っていった。

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