第8話 買い物


 NPCの猫の人をタップし、購入のウィンドウを開く。

 魔導書はリアルマネー決済の目立つタブに即時回復アイテムと一緒に並んでいた。


「三千円って言ってませんでしたっけ?」

「ん? 今いくら?」


「初級の火の魔導書で五千円なんですけど」


「⋯⋯あいつ、ボリやがって!」


 言葉使いが汚くなってきたルイさんを放置して決済に進む。界の主同士はあまり仲が良くなさそうだ。


「とりあえず火を買えばいいです?」


「⋯⋯そうね。火は必須だけど。いいの?」


「19時から会社の飲み会があるんで。時間ももったいないですよね?」


「うーん。確かに他の界まで行くのも時間も交通費もかかるけど」

「なら、オッケーです。買います。他にイースト攻略で必要なのあります? 」


「火の中級ね。いくらになってる?」


「⋯⋯四万円ですね」

「うーん。ちょっと高いけどホクダイでもその位かも」


 行き場のない思いを抱えつつもポーカーフェイスを装い決済ボタンを押すと、しばらく経ってからスマホのアプリ決済の音が鳴り響く。俺のステータスに初級と中級の火魔法が追加された。


―STATUS―

 Name: さいとー

 HP: 30 / 30

 MP: 30 / 30

 LC: 10

 EP: 0

―Skill―

 火球 cost: 8

 消火 cost: 10

 火矢 cost: 15

 耐火 cost: 18


「後は⋯⋯MPの即時回復ポーションが欲しい所だけど」


「一個五百円ですね。もう、十個買っときます」

 半ばヤケクソに決済ボタンを押した。

「あっ。ちょっと待って」


 鳴り響く決済音。


 俺のLCはそれだけで枯渇し、行動ペナルティが表示されていた。


 ⋯⋯普通、課金アイテムって無制限に持てるもんじゃないの? 運営アホなの?


「とりあえず、エーテルで買える魔法使いの杖は私が買うからMPポーション6個渡して」

「⋯⋯はい」


「このゲーム、レベルが足りなくても物を持ってくれるポーターが意外と重要なのよね」

「⋯⋯でしょうね」


 火魔法使用時のcostを1点下げる効果のある炎術の杖と、何故か一個あたりLCを2も使うMPポーション6個をルイさんとトレードする。やはりと言うか、トレードも近くにいる人としかできない仕様だ。


「イースト攻略でのお兄さんの役回りは、耐火レジストファイアバフと消火ファイアファイティングがメインだから」


「攻撃は不要です?」

「メンバー10人、耐火レジストファイアバフを切れない様に運用できてMPが余るなら考えてもいいかな」


「なるほど⋯⋯金に糸目をつけずにMPポーションをジャブジャブ使えば現状でも不可能じゃないんですね」


「いや、流石に今のままだと死ぬし」


「流石に無理ですか」

「リスク高過ぎ」

「⋯⋯お金もかかり過ぎですしね」

「そういうこと。メンバー集めるのだって意外と大変なのよ」


 さもありなん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る