第9話 魔法の使い方


「じゃ、私は帰って寝るから」


「あっ、はい。お疲れ様です」


「あ、魔法詠唱は軽く練習しといた方がいいかも⋯⋯まだ数を唱えられないだろうけど」


 そう言い残してフード&マスク姿の不審女性は去っていった。まだ午前中だったのでレベル上げでもするのかと思っていたら肩透かしを食らった気分だ。


「魔法詠唱か⋯⋯」


 魔法の使い方をヘルプで参照してみる。


 動かない状態でスマホを地面から垂直に立てて1秒で、モーションセンサーがコマンド入力モードを感知する。ここまでは他のスキルと同じだ。

 魔法の場合は、魔法によって異なる起動ワードあり、その起動ワードを唱えると毎度異なる詠唱文が表示され音声で入力していく。

 他のスキルはスマホを振ったりなんかして、モーションセンサーに動作を入力していくのだ。


 魔法は起動ワード前に、画面上の敵をクリックする事で攻撃する敵を指定でき、発動すれば自動的に当たる。他のスキルが発動位置から攻撃範囲分しか当たらないのに比べるとかなり有利に思える。


 ヘルプを閉じ、ベンチに座ったままスマホを地面から垂直に掲げる。


 画面の外枠がチラチラと黄色に染まり、垂直位置をガイドしてくれるが意外と難しい。

 ひねったり傾けたりした時点でコマンド入力モードが解除されてしまう。攻撃する敵をクリックして指定するのも簡単な事ではなさそうだ。


 やがて画面の外枠がイエローからグリーンに変わるとコマンド入力モードだ。起動ワードの一覧が表示される。


「ウェイクアップて⋯⋯」

 火球の起動ワードにはwake up!と表示されていた。どこかの魔法少女ノリか何かに毒されているのだろうか。この先の詠唱を想像し、軽く血の気が引いてゆく。


 独り言に反応し、詠唱文が表示される。


『redder redder redder 赤き存在、赤き力、赤き衝動。

 redder redder redder より紅き奔流となりて顕現せよ。火球ファイアボール


 呆然と恥ずかしいポエムを眺めていると詠唱失敗のアラートが鳴り響き、MPが7減った。



 じっとりと嫌な汗が脇を伝う。


 いい大人がこれを公衆の面前で音読するだと⋯⋯。


 こんなのは色々拗らせた魔法使い30歳童貞くらいにしか⋯⋯。


「はあッ⋯⋯!」

 魔法使い30歳童貞に思われていたのか? いや童貞ちゃうし。彼女くらいいたことあるし!ここしばらくいないけど!



 小一時間ほど見えない敵と戦っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る