詩集 『道』その2
阿達 萬
筏 「遠いおさない日々」
筏 「遠いおさない日々」
轟音とともに降り続いた雨が去り
田畑の区別がなくなったにわかづくりの池に
仲間と流木を集め浮かべた粗末な筏
長靴をはいた小さな船長が何人も出てきた
母親たちの制止もきかずこぎだしてしまい
岸からもう大分離れてしまった
まるで大海へのりだした気分となって
奇声をあげて水しぶきをあげて
必死にこいでいる
あちこちに浮かぶ木片やポリバケツなどの
ゴミをしたがえてこの船団の航海は
希望に満ちていた
どうせ漂流するための筏船
気ままに行ったり来たりが続いても
誰にも責任がなく泥水とたわむれていた
時間を止めることすらそこではできる
少年達は魚になった
えらやひれはないが見事な魚になった
うすめられた栄養にはじめて気がついた
生命
生命を受ける前は何と称するのだ
また死は終わりといえるのか
種の生命をまっとうしていく権利しか与えられていない
自分が腹立たしい
人間に始まりがあるなら種の義務を果たす任期があるはずだ
争い傷つき また平和を訴える事だけで終っていた生命たちが
自己の手でその能力を超えるものを創り出す事が可能となり
その化物の手で一息に飛ばされる予感を
どうして持つ事になってしまったのか
生命あるうちに力をみようとする本性はすばらしい
それなくしては何も創造されない事はたしかだ
しかし生命の幸せはそこにはない
有機的社会的結合に
体温の入り込む余地が永久に続かなくては
地獄だ
詩集 『道』その2 阿達 萬 @mu-minn
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