第43話:VS代行者②
「い、痛い……」
身体中から血が流れ出ている。
回復魔法を使用しても、失った血は戻ってこない。
貧血で少しフラフラする。
それにしても、3人の攻撃の余波は凄まじかったようだ。
だが、攻撃による爆発音はしなかった。
その答えは、現在の僕の状況を見れば分かる。
ここは、ルナルド村じゃない。
どこかの森の奥地。夕陽もささず、動物の鳴き声も聞こえない。
そして肝心の代行者は目の前で血だらけになって倒れている。
「緊急転移、完了。敵の殲滅、再開」
ボロボロの体の代行者が立ち上がった。
左腕は骨折してぶらりと垂れ下がり、右足首が反対方向に曲がっている。
そして、滝のように流れ出る血。普通に考えれば、こんな体で動くことは不可能だ。
だが、代行者はゆっくりと歩み寄ってくる。
「君は、日本人なんじゃないのか?」
そう問いかけると、代行者が動きを止めた。
動こうとしているが、何かが邪魔をして体が動かせない、というような感じだ。
「た……けて」
「今助けてって言った? 日本語だったよね? 一体何があったの?」
「……殲滅再開」
その瞬間、代行者の姿が消え、真横から代行者の尽きかけている魔力を感じた。
代行者は、まだ動かせる右腕を、鈍器を使うかのように横薙ぎし、僕の頭部を攻撃しようとしてくる。
だが、攻撃速度が遅い。イツビなら避けきれないかもしれない。でも、今の代行者ならライオスでも余裕で倒せる程に弱っている。
敵の弱体化を見越して、『竜鱗』を使用し、敢えて右腕で攻撃を受け止める。
弱り切った代行者の攻撃は、僕の腕を砕く威力などなかった。
「君は、君は日本人なんだよね? 僕も日本にいたんだ。だから力になってあげられる……」
「ころ……して……」
腕での鍔迫り合い。
代行者の右腕からは未だに血が流れている。
治してあげたいけど、代行者は殺して欲しいって……
でも代行者に攻撃の意思がないことは、腕を通して伝わってくる。
何か助ける方法があるはずだ。
一度代行者から距離をとり、意識を集中させて様子を観察する。
だが、代行者はただただ血を流しながらフラフラと僕に向かってくるのみ。
「俺を…………ころせ」
代行者が転移を使用する直前、力を振り絞って声を出した。
そして再び代行者が目の前に現れる。
右手の先に『空間切断(ディメンションカット)』を発動し、僕の顔めがけて、一突きした。
だが、代行者の右手は僕の顔に当たらなかった。
必死に何かに抗うように、代行者、いや、日本人転移者が僕を傷つけまいと、必死に攻撃を外したように見えた。
「グアああああああー」
視界の端で、代行者の右手が空間魔法によって飲み込まれていくのが見えた。
さっきまでは自傷ダメージなど発生していなかったのに、代行者は自分の魔法で自分を傷つけ始めた。
もしかして……
「ダメだ! 自分を攻撃しようとするなんて。今僕がなんとかするから、そんなことやめてくれ!」
「……もう、嫌なんだ……だから……」
体に傷を負うごとに、日本人転移者は自我を取り戻し始めている。
ならば、致命傷を与えて、急いで回復すればもしかしたら助けられるかも知れない。
「今僕が助けるから、安心して」
そう言うと、日本人転移者は自傷行為をやめ、その場で停止した。
しかし、かすかに残っていた目の光が完全に失われ、再び僕を抹殺するために歩き始める。
僕を信じて、何かの力に抵抗することをやめたようだ。
なら、僕はその信頼に応えるしかない。
人差し指を代行者の垂れ下がった左腕に向け、3姉妹から借りた高威力のレーザーを持って切断する。
「竜水刃(ドラコレーザー)」
ビシュン、と鋭い空を切る音とともに、水のレーザーは代行者の左腕を肩から切断した。
だが、代行者は悲鳴をあげる事もなく、痛がる素ぶりを見せる事なく、ただ血を流して歩き続けてくる。
「これでも足りないのか。ただ体を傷つけるだけじゃダメなのか?」
「敵の危険度設定を変更。制御に支障を及ぼす存在として認識。殲滅開始」
先程までよりも機械的な喋り方だった。
制御に支障、ってことは外傷を与え続ければいずれ動きを止める。
もしかしたら、死ぬまで止まらないのかも知れない。
でも、希望は捨てちゃダメだ。この少年に、助けるって約束したんだから。
すると、代行者が再び目の前に現れる。
だが、動きがさらに遅くなっており、空間切断のような攻撃魔法は全くと言っていいほど使用してこない。
かなり限界のようだ。
軽々と右腕での攻撃をかわし、水刀を使ってその右腕を斬り飛ばす。
飛び散る血飛沫が顔にかかり、同時に代行者も動きを止めた。
代行者は、ガクッと地面に膝をつき、膝立ちの体勢で力を失っていく。
出血が多すぎて、顔が青白くなっていった。
だが、代行者の目には光が戻り始めている。
すると、代行者からではなく、何処からともなく声が聞こえてきた。
(代行者、制御不能。リアスを放棄し、新敵勢力として認識。これより情報と共に帰還します)
頭の中に直接語りかけられているような感覚。
そして、代行者の背中から不思議な白い光が抜けていった。
バタン、と地面に倒れた日本人転移者。
慌てて駆け寄り、回復魔法を使用する。
だが、失われた両腕は再生しない。
これが回復魔法の限界。おそらく過去の神様たちが自然の摂理を壊さないために設定したリミッターなんだろう。
血を失いすぎた日本人転移者は、苦しそうな寝息を立てて、昏睡状態に陥ってしまった。
早くどうにかして助けてあげたいけど、ここが何処かよく分からない。
僕の頭の中に地図が自動的に浮かび上がってこないって事は、まだ来たことのない場所のはずだ。
今はとにかく転移者に回復魔法をかけ続け、火魔法を使って体を温める。
もう陽が落ちて、森の中はかなり暗くなってきている。
魔族の子達がいれば場所を聞けるんだけど、みんな隠れちゃってるみたいだし。
てことは、ここはリアスじゃないのか。
リアスの魔族なら、だいたい僕のことを知っている。
だとすると、他のダンジョンの主の管轄地域って事になる。
これは困ったぞ。
「おい、怪しいやつ、お前は魔族か? 人族か?」
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