第42話:VS代行者①
「それでは今から表彰式を行います! 武闘大会優勝者のライオスさん、舞台上におあがりください」
「我が主人も舞台上にいてもらって構わないか?」
「特例として認めましょう。ダンジョンの主様は今日のビッグゲストですので」
司会のお兄さんが僕の舞台上での滞在を許可してくれた。
少しの間、目の前にいる代行者のことを観察した後、ライオスに場を譲る。
アカリちゃんは代行者の腕の中で眠り続けている。
今行動すると確実にアカリちゃんを危険に晒す。
村長が言っていた、優勝者が祝福を授けられる瞬間が狙い目だ。
すると、代行者が初めて口を開いた。
「村で最強の戦士よ。魔神様は汝を褒め称えている。祝福を望むか?」
若い男の声。だけど確か、代行者は50年前から変わっていないはずじゃ……
「もちろんです」
ライオスは僕の意を汲み取ってくれている。
そして今が行動を起こす時。
「では汝に……」
「フレイヤ!
「
「了解!」
村全体が優しい光で包まれる。
そして瞬時にして代行者の手元から消えた少女。
第一段階はひとまず成功した。
「な、貴様ら何を!?」
「悪いけど、アカリちゃんを生贄にするわけにはいかない」
右手に水刀を形成する。
3姉妹から受け継いだスキルの効果でかなり威力が上がっているはずだ。
そして
「フレイヤ、村のみんなを守って」
「承知しました」
突然の出来事にざわつき始める村人たち。
だが、フレイヤの
そのまま上手いこと誘導してもらって、村人の安全を確保する。
作戦の第二段階もいい調子に進んでいる。
「貴様ら、これは何の真似だ? 魔神様の意に逆らう事は、万死に値する」
口調は荒いが、代行者は変わらずに冷静な態度を見せている。
青に黄、そしてライオスと僕に囲まれたこの状況でもしらを切るつもりらしい。
「魔神様なんてリアス湖にはいなかったよ。それに君はもう囲まれている。だから諦めて、事情を話してくれないか?」
「そんなはずはない。リアス湖には私にしか呼べない魔神様が眠っておられる。上のお方から授かった、代行者という使命を全うするため、魔神様の怒りを沈めるために生贄を捧げなければいけないのだ。だからその娘をよこせ。今なら魔神様はお許しくださるだろう。」
何を言っているんだこの代行者は?
言っていることが矛盾しているじゃないか。
魔神様の為なのか、それとも上のお方とかいう連中の命令で動いているだけなのか。
どうも裏がある気がする。
「ウィンディ、出てきて」
「はい!」
ちょこん、と肩に現れた湖の精霊。
その姿を見た代行者は一瞬停止した。
「この子はリアス湖の本体だ。そしてリアス湖に魔神様、いや、この世界には神はもう存在していないと言っているんだけど、それでもまだ言い張るのかな?」
「そんな、バカな。私は代行者。魔神様の代行者としてこの村の安全を……っぐ、グァぁぁぁぁぁぁ」
代行者が突然苦しみ始めた。
何が一体どうなっている? だけど事情を全て聞く前に死なれると困……
「障害を確認。殲滅行動、開始」
突然、代行者の口調がロボットのようになった。
数秒前までもがき苦しんでいたとは思えないほどの様子。
そして、顔を覆うようにかぶっていたローブをゆっくりと脱ぎ捨てた。
黒髪短髪の高校生くらいの少年。頬に赤い天使の羽のタトゥーがある事以外はいたって普通の男の子だ。
五十年前からこの代行者だという話だったから、恐らく、何らかの特殊能力か技能によって老化を防いでいる。
そして
「
無表情で魔法の詠唱をした代行者。
その右手には空間を喰らって唸っている、漆黒の剣が握られている。
剣先の部分から、宇宙空間のような、違う空間が覗き出ている。
魔法名通り、空間を切断する剣のようだ。
「ライオス、離脱!
「「「了解」」」
一度距離を取る、大きく後方に飛んで、舞台から降りたものの、着地地点のすぐ横で代行者が剣を構えていた。
「邪魔をするな! 異教徒どもが!」
空間を切断する剣が目の前に迫る。
水刀での応戦は不可能。
左手で糸術を使い、体を無理やり地面に接近させて、スレスレのところで剣を躱す。
代行者の剣が通過した部分は、黒い宇宙空間のようなになっていた。
あれじゃあ物理防御力も何も関係ないな。
「
顔スレスレのところを
「
これは本当の本当にまずい。
「
眠そうな声と共に、
竜のように肥大化した右手で代行者の背中に一撃を食らわせる。
大きく飛ばされた代行者。村長の家に激突して止まった。
「攻撃目標、司令塔」
と言いながら、壁から這い出てくる代行者。
それに攻撃目標司令塔って……僕じゃないか。
「だがやるしかない。「
黒炎の槍が、ただ立ち尽くしているだけの代行者に一直線に進んでいく。
だが、代行者にではなく、村長の家に着弾した。
あいつは一体、どこへ……
「ぐはっ」
代行者の姿を確認できたのは、僕の体が蹴りによって吹っ飛ばされる直前だった。
剣での攻撃じゃなかったのが不幸中の幸い。
だが、その代償として左
慌てて回復魔法を使用し、折れた骨を修復。
体に痛みが残るが、気にしている暇はない。
代行者の移動手段は恐らく転移系の魔法。
乱発してこない辺り、発動に少し時間がかかるのかもしれない。
1、2、3、4、5……
「
五秒か。意識をしていれば、避けられない攻撃ではない。
糸術と水縄を使い、緊急離脱。
先程の数倍は威力が高いであろう剣の一撃は、僕の近くにあった家を丸ごと別空間へと葬り去った。
「みんな、合図をしたら僕に攻撃して」
危険な賭けかも知れないけど、これしか方法がない。
「ツクモ、眠いの?」
率直に質問してきたのは
他の子達も同様に疑問視している。
「本気だ本気。全力の一撃をお願いね」
「
来ると分かっている攻撃を避けるのはもう容易だ。
ズズズズズ、と鈍い音を立てて空間を切断していく代行者の剣。
機械的な攻撃パターンだが、攻撃の度に威力が増していっている。
当たったら本当に死んじゃうな。
そしてカウントダウン。
5、
全力で、なるべく家屋のない方向へと走る。
4、
僕の言葉を信じて、みんなが付いてきてくれる。
3、
もしかしたらみんなの攻撃を避けられないかも知れない。
2、
でも、魔族を守るためには命をかけないといけない。
1、
だから、やれるだけやってみよう。
「今だ!」
「
激雷と水砲撃による同時攻撃が轟音を立てる……筈だった。
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