第40話:魔神教の真実

 3姉妹を連れて、ルナルド村に向かった。

 青と赤は楽しそうに話ししてたけど、黄が眠い、と言って、僕がおんぶしていくことになった。

 ウィンディはずっと文句を言ってたけど、黄はそんなに重くないし、別に僕としてはかまわないんだけどね。


 終始賑やかなまま、村に到着。

 中心部がまだ熱狂に包まれているあたり、武闘大会は終わっていないんだろう。

 相当参加者がいたもんな。  

 時間があればライオスの試合を見てあげたいんだけど、行動を始めるべきだよなぁ。


 「お帰りなさい、ツクモ様。そちらの方々は一体?」

 「ただいまフレイヤ。この子達はリアス湖にいた魔神様だよ」


 と言った瞬間に、周囲の視線が一気にこっちに向いた。

 一応作戦通り。とにかくこの3人が魔神であることを知ってもらわなきゃいけない。


 「勝者、門番シンジ!」

 「「「「「うぉー」」」」」


 でも大会の熱狂の中で、全員の注目を集めるのは難しかった。

 今の試合は準々決勝。無事に勝利を収めたシンジが舞台から降りてきた。


 「旦那、本当に魔神様を?」

 「うん。一応ね。この3姉妹がリアス湖の主にして君達が魔神様と崇める存在だよ」


 試合が終わったためか、より多くの人の意識がこちらに向いた。

 いいぞ。いい調子だ。


 「こいつらが俺の妹を……」

 「違う違う。この子達は生贄なんて望んでないよ。それは僕が保証する。なんたって、彼女たちは僕の仲間になったからね」

 「仲間!?」


 周辺がざわつき始めた。

 側から聞けばなんとも信じがたい話だろう。

 実際、これでことが収まるとはこれっぽっちも思っていない。

 狙いはあの代行者が出てきてくれること。でも長年宗教で村を支配してきた頭のいいやつだ。

 僕なんかが考え付く程度の作戦じゃ釣れないだろう。


 「その話、詳しくお聞かせ願えますかな?」

 

 思った通り、表の顔である村長が出てきてくれた。

 僕は意外と策士なんじゃないだろうか? 

 

 「カツラギ村長、今の話は本当ですよ。信じられないなら、この子達の力をお見せしましょうか?」


 するとブルーが耳打ちしてきた。


 「ちょっと、私たちは何をすればいいの?」

 「大丈夫だって。いざとなったらあのレーザーでも適当に打ってくれればいいからさ」


 「どうかされましたか?」

 「いえいえ。こっちの話です。それで、どうされますか?」


 すると村長がうーん、と悩み始めた。

 僕としては生贄の儀式が止められれば別に後はどうでもいい。

 街への人員勧誘も大切だけど、アンナさんの友達にしてシンジの妹であるアカリちゃんを助けるのが最優先だ。

 それに、アカリちゃんはカツラギさんの娘だし……


 一応、カツラギさんの耳元で囁いてみる。


 「村長さん、生贄の話、あれは嘘です。リアス湖に生贄を求めるような連中はいませんよ」

 

 すると村長も小声で返事してくれた。


 「それは先程、ダンジョンの主様がリアス湖にそのような存在はいないと明言した時点で、確定事項だと考えてもいいと判断しました。ですが、村の呪いが懸念でして……」

 

 この村長は宗教に対しての信仰心が薄いようだ。

 そして怯えた口調。昨日ウィンディが感じ取ったのはこのことか。

 それにシンジの目の呪いの事も。後もう一歩で真実に辿り着けそうなのに……


 「一先ず、どこか二人で話せる場所に移動できませんかね? 僕はあなたの娘さんを助けたいんです」

 「でしたら、村の外にある小屋に10分後に来ていただけますか? 林の方にあるので、いけばわかると思います。村の中ではこのような話はできないので……」


 相当怯えている。

 きっとあの代行者のことなんだろう。

 魔神がいないとわかった今、村の人たちにかけられているであろう呪いはその代行者がかけていると考えて間違いない。

 でもこんな村をそんな形で支配して何か得することがあるんだろうか?

 こんな大掛かりなことが出来るのなら、もう少し大きな町なんかでやったほうがいいだろうに。


 「分かりました。では10分後、魔神の3人とそちらに向かいます」

 「本当に、ありがとうございます……」


 村長は村の出口とは反対方向に向かって行った。

 隠し通路かなんかがあるんだろう。

 それに、最後のお礼。本当に苦しんでいるみたいだ。

 娘が今日の儀式で殺されてしまうんだ。無理もない。


 「ブルールージュジョーヌ、僕たちも行くよ」

 「「「はーい」」」



 ライオスが決勝の試合を見て欲しいということなので、早めに帰ることを約束してきた。

 村で怪しい動きがないかをフレイヤに監視してもらうことにし、ウィンディと3姉妹を連れてルナルドの林へと向かう。

 竹のような木がたくさん生えていて、林全体は太陽光によって明るくなっている。

 ここは確か、アンナさんたちが昔に住んでいた場所だったはず。

 林の中にも魔族の子達がたくさん発生していて、フォックス族や小さいキャット族なんかがたまに顔を出して挨拶してくれた。

 ここでも僕の存在は知られているらしい。


 そして少し奥に入ったところに、まるで銀閣寺のような小屋があった。

 これはもう日本人がいたとしか思えない。

 でも神様はかなり昔に滅ぼされたって聞いたし、何千年も昔だったら、焼き鳥も銀閣寺もないような気がするんだよね。

 似てるだけ、か。


 「ウィンディ、悪いけど、外で見張っててくれないかな?」

 「別にいいですけど……このバカ姉妹たちとは一緒じゃないですよね?」


 ウィンディの言葉に、黄以外の二人が怖い顔をした。

 あーもう。仲良くしてくれよ。


 「それは僕としても望んでないからね。3人は中に入ってもらうよ」

 「分かりました! ではお任せください!」


 いつものごとく、空気中に姿を消した。

 

 「あの精霊は生意気よね!」

 「お姉の言う通り。精霊だから威張ってる」

 「寝たい……」


 「まぁまぁ、仲良くしてくれよ?」


 「いやだー」と3人口を揃えて言った。

 みんな見た目は大人の女性なのに、精神年齢的にはイツビと同じくらいなんじゃないか?

 


 小屋、と言ってもそこそこの大きさの家に入ると、村長がただ一人畳で正座していた。

 

 「遅くなりました、すいません」

 「いえいえ。どうぞお好きにおかけになってください」


 村長の前で正座をする。

 3姉妹も僕を真似て正座したけど、なんだか足がプルプルと震えている。

 頑張れ、みんな。


 「いきなりで悪いんですが、村長は魔神教をどこまで信じておられますか?」

 「私は……全くと言っていいほど、信じておりません。魔神教と言うのは、元々、魔族を統べる魔神様の怒りを沈めるためのものでした。お供え物をし、魔族を許容する事で、魔神様の庇護下に入れる、と言うものです。逆らえば災いが降り注ぐと伝えられています。」


 なるほど。となると魔族とは嫌々付き合っているのかな?


 「それだと、魔族とは交流をしたくない、と言うのが本音になるのでしょうか?」

 「いえ。1000年以上前にこの周辺に住んでいた先代たちはもしかしたらあまり気が進まなかったのかもしれませんが、我々は魔族の方達が心優しいと知っておりますので」


 1000年か。その時までは魔神も生きていたのかもしれないな。

 神は信仰心によって生まれて、民の願いを叶えている。

 だったら本当にいた可能性の方が高い。


 「昔は生贄などは要求されなかったのですか?」

 「はい。生贄を要求するようになったのは、ちょうど50年前からです。現在の代行者がここに来てからですね……」


 50年前って人魔大戦が起きた時期じゃないか。

 その時までは魔神が生きていたのかもしれない。

それなら急に要求内容が変わったのにも説明がつく。

 魔神は、ほんの50年前までは生きていた。


 「ちなみに、村の人たちは魔神教についてどこまで信じているのでしょうか?」

 「私と村の幹部の者、そしてシンジとアカリ以外は、魔神教に心酔していると言っても過言ではありません。彼らは取り憑かれたように代行者を神格化しています。なので、我々も何も手出しすることができずにいるのです」


 これはもう代行者が呪いをかけているのは確定だろう。

 それにしても一部の人達だけ呪いをかけないとは。

 村の上層部だけ正常にしておいて、周辺地域に怪しまれないようにしていたとしか思えない。

 頭のいい代行者のようだ。


 「さっき言っていた、呪い、とは、具体的にどう言うものなのですか?」

 「種類は様々です。シンジのように目に呪いがかけられていたり、私のように村内では監視される呪いをかけられたり、おそらくですが、村の連中には代行者が生贄を要求する事が正しい事だ認識させる呪いをかけているのだと思います。皆、喜んで若い娘たちを生贄として捧げているのです」


 村長はだいぶ分かっているようだ。

 にしても生贄を求める理由が分からないな。

 若い娘ってのも気になるけど、それ以上に代行者の目的が理解不能だ。

 僕の知らない何かの力が働いているとしか思えない……

 

 「その、代行者は一体何者なのでしょうか?」

 「……分かりません。代行者は100年周期程で変わるのですが、その正体に触れてはいけないと言い伝えられています。村の建物や料理などは2世代前の代行者が発案したものだと聞いたことがあります。とても使い勝手が良く、料理は味がいいので、正体を知らずとも、皆、代行者を慕っております。それは呪いによるものではないと思いますね」


 それってつまり、代行者が日本人って事か?

 でも日本人の平和ボケした、いや、50年前か。

 戦後の日本なら過激な思考の持ち主がいてもおかしくはない。

 でも、日本人は物をよく捨てるけど、悪い人じゃなかったはずだ。

 僕は日本に住んでいてとても居心地が良かったし、戦後では神と率先して協力してくれた人達もいた。

 だとすると、代行者はやはり、日本人じゃないのかもしれない。


 「今、その代行者がどこにいるかって言うのは、分かりますか?」

 「分からないのです。いつも一瞬で現れて、一瞬にして消えてしまいます。ですが、夕方の儀式では必ずあの祭壇に現れると思います。私の娘を連れて、そこに来るはずです」

 「娘さんは今代行者の元にいるのですか!?」

 「……はい」


 これはまずいぞ。

 先手が打てなくなった。完全に向こうを待つしかない。

 そして、もし日本人なら、何か特別な力を持っているはずだ。

 異世界に渡る時に必ず生じる謎の現象。

 神の間ではそれを祝福ギフトと呼んでいる。

 ナポレオンの統率力も祝福ギフトだった。だとすると、この魔法やスキルがある世界では……

 

 「分かりました。では村長さんは怪しまれないよう、普段通りに振舞っていてください。僕が必ず娘さんを救います」

 

 そう約束すると、村長は少しだけ涙を流した。

 ありがとうございます、と何度も何度も頭を下げている。


 でも僕は、本当に勝てるか分からない。

 狂った転移者の力は未知数だ。

 ここは一騎打ちではなく、確実に勝てる方法を取らないといけない。

 それに、できる事なら事情を聞きたい。

 僕には、日本人がこんな残酷なことを進んでするとは思えないから。

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