第38話:VS水竜3姉妹


 「ん? どうしたのお姉」

 「あと5分……」


 前方からもう二人の眠そうな女の子の声が聞こえてくる。

 そして真下にいるお姉ちゃん水竜がゆっくりと起き上がった。


 「で、デカイ」


 全長30メートル以上はあるんじゃないだろうか。

 リアス湖はかなり深いはずだけど、もう少しで水面に届いてしまいそうなくらい大きい。

 そして僕を怖い顔で睨んでいる。

 蛇睨み、とはこの事だ。 

 少しだけ竦んでしまっている。


 「あんたが私を無理やり起こしたの?」

 「え―えと……」

 「もう誰でもいい。死んで」


 え? と思った瞬間に巨大ヘビのような水竜が大きな口を開けた。

 白い光線のようなものが溜まっていく。でもその正体は水。つまり……


 「ツクモさん! 避けて!」


 ズパン! と水しかない水中で水を切る威力。

 それが僕をめがけて一直線に向かってくる。

 超高圧縮された水のレーザービーム。

 これは、普通に死ねる。


 「獄炎槍ヘルランス


 慌てて発動した黒炎の槍。

 敵の攻撃を真似て濃縮して作った。

 これで相殺できなければ死ぬ。


 頼む!

 

 投擲した獄炎槍に水のレーザーが直撃。

 水中で大爆発を起こして両方とも消え去った。


 「危なかった。本当に寝起きが悪いんだね」

 「ツクモさん、そんな事言ってないで、さっさと反撃してください!」


 そ、そうか。反撃しないと。

 なんだかこの戦いは戦闘な感じがしない。

 多分この子達が魔神じゃないとわかってるからなんだろうけど、でもちゃんとやらないと死んじゃうもんね。


 「お姉、この人間?」

 「そうよ。3人でさっさと殺すよ」

 「後5分……」


 まだ寝てる子もいるや。

 2匹のうちにさっさと終わらせないと。

 3匹同時にあのレーザーを撃たれたらシャレにならない。


 向こうからの攻撃を待ってるのもウィンディの言う通りバカバカしいので、「雷鎧ライトニングアーマー」の威力を高めて、お姉ちゃん水竜の巨体に急接近する。


 「戦わなきゃダメ、かな?」

 「しね!」

 

 あぁ、ダメそうだ。

 少し気がひけるけど、「雷爪ライトニングネイル」を発動させて、本気で肉を抉りに行く。

 やはり威力の高いこのスキル。

 水竜の硬い外殻も紙のように切り裂く。


 「っち、人間のくせに私に傷をつけるなんて。傷跡が治らなかったらどうするのよ!」

 「え、えーと、ごめんね?」

 「あーもう、しね!」


 再度口からレーザーが発射される。

 二度目なので流石に避けられた。

 でも急発進した先には大きな尻尾が待ち受けていた。

 しかも段々近づいてきて……


 「尻尾剛撃テイルブロー


 「ぐっ……」


 妹水竜がなぎ払った巨大な尾を両手で受け止める。

 でも少なくない衝撃が体全体に走り、回復魔法なしだったらかなりのダメージになっていたかもしれない。

 

 すると背後からあのレーザーを溜める音が聞こえてくる。

 お姉ちゃんの方が再度僕を殺しにかかってきているようだ。

 

 これは終わりが見えないな。地形が不利すぎる。


 「尻尾剛撃テイルブロー


 妹が再度尻尾を繰り出してきた。

 そしてお姉ちゃんは水のレーザー。

 2つ避けるのは難しいし、もう少し強引だけど範囲攻撃を使うしかないか……

 まだ寝てる子を起こしたくはないけど……


 「はぁ、「爆雷ライトニングパーティー


 両手を二人の水竜に向けて伸ばす。

 手のひらから落雷撃ボルテックスよりも少し弱い威力の雷撃を繰り出す広範囲殲滅魔法。

 雷魔法レベル21で使える発動の早い強力な攻撃魔法だ。


 お姉ちゃんの方に向けて放った雷は水のレーザーを余裕で突き抜けて、巨体へと突き刺さる。

 妹の方へ飛ばした雷は尻尾の一撃を止めて、貫通して巨体へと届いた。


 「「ぎゃーーー」」


 と二人の悲鳴が聞こえてくる。

 なんかやっぱりかわいそうだよな。虐殺している気分になってくるよ。

 できれば対話して終わらせたいんだけど……


 「お、お前― 私の体に穴をあけやがって。殺す! 絶対殺す!」


 ですよねー。体に大穴開けても倒れないって、どんだけ生命力が高いんだか。

 多分水竜ってくらいだから、水から何かしらの恩恵を受けているはずだし、やっぱ場所がなぁ。


 「ウィンディ、この子達は水中で回復したりするの?」

 「はい。確かそんな感じのことを言ってましたね」


 あぁ、もう終わらないんじゃないか、これ?

 一回地上に出れればいいんだけど……


 「ルージュジョーヌを起こして」


 ルージュ? ジョーヌ? 名前かなんかか?

 すると妹水竜が寝ているもう一体を起こしに行った。

 つまり妹がルージュで、寝てた子がジョーヌ、か。

 お姉ちゃんはブルーとかかな?

 なんだか信号機みたいだ。


 「ほら、お姉が起きろって。だから起きて」

 

 べしべし、と尻尾を使って寝てる黄を起こすルージュ

 

 「んん? なに? どしたの?」

 「今私たちを起こしたやつを殺してるのよ。でも強いから、手伝って」

 「んんー しょうがないなー」


 のろのろとジョーヌが起き上がった。

 にしてもなんだか戦っているとは思えない雰囲気だよね。

 ライオスとやり合った時はもう少し緊張した雰囲気だったけど……

 

 「あのー 1つ聞いたら好きなだけ寝てていいからさ、話を聞いてくれないかな?」

 「うるさい、しね!」


 まだ機嫌が悪いのか。

 もうこうなったら魔族の掟である力を見せつけるしかないか。

 3匹一気に怪我を最小限にして倒すとなると、やっぱり落雷撃ボルテックスしかないんだけど……


 そう考えていると、また水のレーザーと尻尾がこっちに向かってくる。

 今回は突進してくる巨体もいるけど。

 

 「ねぇ、ウィンディ、どうすればいいかな?」

 「とにかく避けて、避けてください!」


 水面に向けて急上昇する。

 ビュン! と耳元で全ての攻撃が通り去っていく轟音が鳴り響いた。

 ハッキリ言って、もう適当にやっていても負ける気はしない。

 でもなるべく怪我をさせないで、1撃で沈めるとなると……


 「ウィンディ、湖の水って、割れるかな?」

 「え? どういうことですか?」


 まぁやってみないとわからない、か。

 ウィンディが今僕の周りの水を除けてくれているように、水操作を使えば湖の水を割れるんじゃないだろうか? 

 やってみるか。


 「3姉妹さん、本当に僕と話す気は無いの?」

 「「「無い!」」」


 と元気の良い返事がきた。

 同時に3匹とも僕に向けて突進してくる。

 好都合だ。


 さらに水面に向けて上昇。

 僕の真下に3匹が集中するように誘導する。

 そして全力で水操作を使用。 

 頭がかち割れるほど痛い、だけどこれくらいしか思いつかない。

 全力の魔力を行使して、僕の周り1キロ水を全て取り除く。


 「うおおおおおおおお!」


 「すごいです! 水が無くなっていきます!」


 ブチブチ、と頭の血管が切れている音が聞こえる。

 魔力の操作を無理にすると体に悪影響があるようだ。

 でも回復魔法があれば多少の自傷ダメージは許容範囲内。

 湖底がむき出しになった湖。

 3姉妹は突然水がなくなったことに驚きを隠せずにいる。


 これでいい。これでやっと終われる。


 「落雷撃ボルテックス


 魔法の詠唱と同時に、空に黒雲が立ち込める。

 そして次の瞬間には巨大な一筋の雷が、湖底めがけて一直線に落ちた。


 「「「ぎゃーーーーーー」」」


 「ごめんね」

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