第36話:武闘大会
「第一試合、開始!」
ゴーーン、と大銅鑼が鳴らされる。
舞台周辺の観客は大熱狂だ。
「主人殿、頑張ってください!」
「ツクモ様ー 頑張ってくださーい」
「旦那! 応援してます!」
こうなることは分かっていた。
ライオスとシンジは、決勝戦でしか当たらない。
そして僕とライオスは準決勝で当たってしまう。
どうすればいいんだろうか。
と考えている僕は、第一試合に出ている。
対戦相手は村で3番目に強い戦士。
大会のルールで防具が禁止なので、相手は皮鎧と木剣のみを持っている。
ちなみに僕はいつもの服。
敵を殺すとその場で失格、そして村からの追放。
敵を戦闘不能、もしくはどちらかが降参するとその時点で試合終了。
いつもイツビにやっている感じで戦えばいいって事だな。
「あんた、ダンジョンの主を名乗ってるんだろ? 今村では噂になってるぜ。まぁ俺は信じてないけどな」
あー。やっぱりバカにされてしまう。
少し予想はできてたけど、信じてくれている人は意外にも少ない。
まぁ村長が信じてくれてるし、いいか。
「本気できてくれよ。そうじゃないと、どれくらい加減しなきゃいけないか分からないからね」
「っだとー このホラ吹きが」
挑発すれば自然と本気を出してくれる。
あまりいい気分ではないけど、これくらいしか方法はない、と思う。
そんな、村で3番目の戦士は鬼の形相で駆けてくる。
「おりゃー」
と言いながら、木剣を振るってくるが遅い。遅すぎる。
イツビの速度の10分の1位だ。
人間はこんくらいの力なのか?
アンクスはなかなかいい動きをしてたけど、でもあの時より僕はだいぶ強くなってるし……
まぁいっか。
特に何のスキルも使わずに、相手の足を引っ掛けて、背中に一突き入れる。
「ぐはっ」
バタン、と一撃で地に伏せた。
なんか骨が軋む感触がしたから、一応回復魔法をかけておく。
あんなに軽いパンチで骨が折れるのか。
これはライオスに相当手加減するように言わないと、楽しいお祭りが血祭りになってしまう。
「勝者、ダンジョンの主!」
「「「「「うおー」」」」」
会場の熱気が照れ臭い。
みんなの視線を集めるのは、やっぱり苦手だな〜
まぁ、嬉しいけどね。
「さすがは我が主人。一撃で敵を沈黙させるとは、感激いたしました」
「いやいや。そんなことはないけどさ。ライオスも、加減は忘れないように、ね?」
「はっ。心得ております」
本当に大丈夫かな。心配だけど、まぁライオスは紳士だし、ここは魔王様を信じてみよう。
みんなのいる所に行くと、フレイヤ達が色々褒めてくれた。
シンジはただ僕の顔を見つめているだけで、何も言ってこない。
好きな子に話しかけられない女の子みたいになっている。
なんか可愛いな。
「次はライオスだよね。殺さないといいけど……」
「大丈夫ですよ。ライオスさんは優しいお方ですから」
フレイヤがそう言った。
だけど、僕の視界の端で、純粋な感想を述べた白い天使を睨みつけている
フレイヤはきっと、気づいてないんだろうな〜
ダンジョン内でいざこざが起きなければ良いけど……
「さあー お次は第二試合! 森の戦士、ライオスの登場だ!」
「「「「「うぉー!」」」」」
大熱狂にも動じないワイルドなイケメン。
かっこいいなー 僕もあんな感じに太い肝があればなぁ。
「対戦相手はこの大会の優勝候補、村の英雄にして戦士長。ヤマダタロウ!」
「「「「「「うぉー」」」」」」
や、ヤマダタロウ……
何とも一般的な名前だろうか。
いや、これは日本に住んでいた僕の偏見か。
でも戦士長がヤマダタロウって……っぷ。
そんな僕をカリンが不思議そうに見ている。
「ツクモ様、どうなされました?」
「いや、何でもないよ」
人の名前は笑っちゃいけないな。うん。
それにしてもフレイヤはさっきから周辺をキョロキョロと見ている。
何かあるのかな。
「フレイヤ、どしたの?」
「いえ、何だかあのお屋敷の辺りの人の出入りが多くてですね。少し気になりました。それに……」
「ん? どうした?」
「感じたことない魔力を感じます」
「フレイヤの言う通りです」
するとウィンディが突然現れた。
精霊がいなかったことにも気づけなかった。お祭りの雰囲気の流されて、少し気が緩みすぎていたかな。
「ウィンディも何か感じるの?」
「はい。あの魔力の性質は過去に感じ取ったことがあります。集中しないと感じるのが難しいほどに隠蔽されているようです」
どれどれ。屋敷の方か。
意識を向けると、確かに変な性質の魔力を感じた。
昨日この村で感じた物と同じだ。
一応確認してみるか。
「ウィンディ、付いてきて。フレイヤはこの周辺の警戒を頼む。何かあったら連絡してくれ」
「了解しました」
武闘大会を一時離脱し、村長の家へと向かう。
でも中には入らない。
外で待って、ウィンディに中を見てきてもらう事にした。
僕って、あんまり役に立たないな……
しばらく待っていると、肩に精霊が現れた。
「ツクモさん、どうやらこの武闘大会の後に生贄を捧げる儀式が行われるようです」
「生贄!? それはまた何で?」
「魔神に捧げるためだ、と言っていました。生贄を年に1回収めないと、魔神が呪いを強めるらしいです。今年は村長の娘が選ばれた、とも言ってました」
村長の娘……それってまさか。
「アカリって名前、聞かなかった?」
「アカリ……聞きました。名前だったんですね。それにしても魔神って誰のことでしょうか……」
「その話は聞かなかったんだ?」
「はい。魔神様とは聞きましたが、誰とまでとは言ってませんでした」
魔神、か。
でも信仰対象がいるなら、それを祀っている場所があるはずだ。
僕の場合は特になかったけど……
神としてはダメダメだったなー
ってそんな事を考えてる暇じゃないか。
その魔神は生贄を求めているらしいし、実際にいるのかもしれない。
てことはその根源である魔神を訪ねるのが一番良いか……
「よし、シンジに聞こう」
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