第35話:魔神祭

 翌朝、いつものように横で寝ているイツビを起こして、朝支度をする。

 ウィンディは今日も僕を窒息させなかった。

 たまにいなくなるけど、一体どこにいるんだろうか。

 前回は何かを手回ししててくれたけど、今回はウィンディが行けるような所はないし……


 「我が勝つ!」

 「流石です、ライオス様!」

 

 僕の隣ではカリンがライオスをおだて続けている。

 こんなにやる気のライオスを見るのは久しぶりだ。

 昨日までは魔族の厳選というほとんど事務作業をさせてたから色々溜まってたのかもしれないな。

 そして思ったよりも人数が多くなった。

 イツビとアンナさんは街に行ったけど、ライオスとカリン、それにフレイヤが一緒に来ることになった。

 フレイヤは意外だったけど、どうにも様子が気になるんだとか。

 シンジの呪いのことを話したら凄い怖い顔をして、私も行きます、と言ってきた。

 何か心当たりがあるんだろうか。


 「じゃあ行こうか。でも、あんまり騒ぎは起こさないようにね?」

 「「「「はい!」」」」



 まるで引率の先生のような気分でルナルド村に到着。

 昨日と違って村の中が騒がしい。お祭りムードなんだな。

 これはもしかしたら、良い方のお祭りなのかもしれない。

 色々と心配しすぎたか。


 「おはようございます、ツクモの旦那」

 「おはよう、シンジ君。案内頼めるかな?」

 「もちろんですよ。お仲間の方々も、ついてきてください」


 笑顔のシンジ。でもライオスは少しだけ機嫌が悪そうだった。

 理由はあんまり聞きたくないけど、だいたい察しがつく。


 「あのガキは我が主人を旦那などと呼びおって、八つ裂きにしてやりたいわ」

 「ら、ライオス、良いんだよ。僕は気にしてないから、ね?」

 

 男らしい手に雷を纏わせている。

 本当に怒っているみたいだ。

 別に旦那ってのは悪い言い方じゃないんだけどな……


 するとフレイヤがライオスを宥めるように言った。

 

 「ツクモ様が良いと仰るなら、私どもは何も言いません。ですよね、ライオスさん?」

 「あ、ああ。そうだな」


 やけに聞き分けが良いな。

 それに少しだけ顔が赤いし……

 まさか、ライオスは、そういうことなのか?

 いやいや、でもそんなことは聞けないし、それに何やらカリンがライオスを凄い目で睨んでいるし。

 ここは知らないふりをしておこう。 

 


 その後、無事に武闘大会にエントリーした僕とライオス。

 シンジもエントリーして、大会開始まで他の屋台を回ることにした。


 祭りを見て一番興奮してるのはカリン。

 クールな感じかと思っていたけど、やはり女の子のようだ。


 「こ、これはなんという食べ物ですか?」

 「これはムッファーの串焼きですよ。このタレにつけて食べるんです」


 シンジはもはやツアーガイド。

 ムッファーの串焼きという、どうみても焼き鳥な食べ物を物欲しそうなカリンに手渡した。


「お、美味しすぎます! この口の中でとろける肉。それにタレの味付けも絶妙です」


 大絶賛だった。

 しかし僕の知ってるのはケルンのお肉だけだし、今思えば料理なんてしたことなかったな。

 フレイヤが野菜を料理してくれるけど、野菜だけだし。たまには肉も食べたいな。

 もし料理できる人がいれば色々と助かるし、カリンみたいに魔族の子達も喜んでくれそうだ。

 今回はいろんな意味で失敗できないな。


 そして大興奮のカリンは僕の服をチョンチョンと引っ張ってくる。

 

 「次! 次に行きましょう、ツクモ様!」

 「はいはい。じゃあ行こうか」


 その後はイカ焼きやじゃがバター、それに焼きそばの屋台に寄った。

 名前は違ったけど、どう見ても僕が昔見たことある食べ物ばかりだった。

 やはり日本人がいたとしか思えない。神様は何のために日本人を連れてきたんだろうか。


 「人間との交流はいいことですね、ツクモ様! 私も精一杯努力します!」

 「う、うん。ありがとね、カリン」


 イツビ並みの食欲だ。

 そして行動動機も食べ物。女の子はみんなそんな感じなのかな?

 いやいや、そんなことを言うとみんなに怒られてしまう。

 偏見はいけないな。


 村を回っていると、街の中心の広場に武闘大会用の舞台ができていた。

 そしてその近くに、何やら処刑台のようなものが……


 「シンジ君、あの処刑台みたいなのは何かな?」

 「処刑台じゃないですよ。あれは……」


 「これはどうも、ツクモ様。それにお付きの皆様も、魔神祭は楽しんでいただけてますかな?」


 話を遮るように、村長がやってきた。

 昨日よりも明るい表情だ。いいことでもあったのかな。


 「はい。うちの子達も喜んでいますよ。それと、武闘大会にも参加することにしました」

 「それはそれは。今年は例年以上の盛り上がりを見せることでしょう。大会の後に、昨日の話の続きをする、と言うことでよろしいですかな?」


 昨日の件、か。この感じならいい返事がもらえるかもしれないな。

 期待しておこう。


 「はい。それではまた後ほど」


 村長は会釈して去っていった。

 すると舞台の方から大銅鑼の音が鳴り響いてくる。

 

 「武闘大会参加者の方はお集まりください。間も無く予選を始めます」


 「主人殿、我々も早く行きましょう。遅れてしまってはいけません」

 「う、うん。焦らなくても大丈夫だよ?」


 ライオスはやる気満々だ。

 そしてそんなイケメンをシンジが敵視している。

 そういえばライオスに勝ったら弟子にしてあげるって言ったんだっけ。

 この大会はトーナメント式だし、もしシンジがライオスと当たらなかったらどうすればいいだろうか。 

 

 ゼウス様、僕に幸運を与えてください。

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