第34話:魔神の代行者
ツクモが帰った後、村長の家では重く暗い雰囲気が流れていた。
その原因は一人の黒いローブを頭まで深くを被った人物。
村長を含めた周り全員が姿勢を低くして畏怖していた。
「それで、お前の息子の目を治した奴が明日来るんだな?」
「は、はい。人魔共存区を設立すると言っておりました。私としては、是非協力したいのですが……」
「却下だ。魔神様はそれを望んではおられぬ。この村にかかった呪いをさらに強力にされてしまうぞ?」
「そ、それは……」
怪しげな者の言葉に、部屋にいる全員が反論できなくなる。
まるで脅されているかのような状況。
そんな中、代行者は不敵に笑っている。
村長は、その代行者を尊敬の眼差しでは見ていなかった。
「明日の儀式の準備を進めておけ。魔神様がお怒りになられる前に、な」
「は、はい。承知しております」
そう答えた村長。だが、怒りを抑えるために強く拳を握りしめていた。
今日もまた疲れた。
ダンジョンに帰ると、16階層でアンナさんがビギナータウンにいたキャット族2人と団欒していた。
あの二人もここに住むことにしたのかな?
「アンナさん、それにそちらのお二人も。ここは気に入ってもらえたかな?」
「ツクモ様、お帰りなさい。ご紹介が遅れましたが、こちらの二人はイスズとシオンです」
アンナさんの紹介に、二人がペコっと頭を下げた。
どっちがどっちか分からないな。
でもステータスを見れば判別可能、か。
「よろしくね、二人とも。それと、アンナさん、ルナルド村の事を少し教えてくれる?」
アンナさんは昔あの周辺に住んでいたみたいだし、確かお友達もいたはず……
そういえば今その子はどうしてるんだろうか。
「ルナルド村ですか? 魔族に抵抗がないってことくらいしか知りませんね。お力になれなくてすいません」
「いやいや。大丈夫だよ、ありがとう」
すると、アンナさんは何かを聞きたそうな顔をしていた。
あの少女のことが気になるのかもな……
「そういえば、今日シンジって青年に会ったよ。カツラギ村長の息子さん」
「シンジ君!? じゃあアカリちゃんには会いませんでしたか?」
お友達はアカリちゃんって言うのか。
会ってないって言うのはなんだか気が引けるけど、正直に話さないと。
「アカリちゃんには会わなかったよ」
アンナさんの顔から希望の光が失われてしまった。
もしかしたらもうこの世にいないのかもしれない。
それも未確定事項だけど。
「そうですか……でもシンジ君はアカリちゃんのお兄ちゃんです。なので、もしよろしければ聞いてみてくれますか?」
「分かった。明日また村に行くから、聞いてみるね。お祭りがあるらしいんだけど、アンナさんも行く?」
僕の何気ない誘いに、イスズとシオンがきゃーっと言ってアンナさんをからかっている。
普通に誘ったつもりだったけど、色々と誤解されてしまったようだ。
「ちょっと、二人とも。ツクモ様に失礼でしょ」
アンナさんがコツンと二人の頭を叩いた。
仲が良いんだなー。僕にもこんな感じのお友達がいたら、地球でも楽しかったかもな。
「僕は全然大丈夫だよ。それで、お祭りは行く?」
「私はまだ街でやることがあるので、ご遠慮させていただきます。今は学校を作ろうとしてるんですよ?」
「学校!?」
「はい。魔族と人族がお互いの言葉を学べて、一緒に技術や算術などを学べるような施設を設立することになったんです。それで少し忙しくなってしまって…… せっかくお誘い頂いたに、すいません」
すごいな。学校か。
僕だったら絶対に思いつかなかったな。
これで人と魔族の距離が一気に縮まるかもしれない。
となると、僕も頑張って人を集めないと。
「いやいや。アンナさんはやっぱり凄いね! 本当に助かるよ。いつもありがとう」
「い、いえ、そんな、私は、その……ど、どういたしまして」
「「きゃー」」
またアンナさんがコツンと二人の頭を叩いた。
仲良しだなぁ。僕もウィンディに叩かれるけど、水槌だし。
もっと優しくなってくれないかなー
「じゃあ、頑張ってね」
「はい! ツクモ様も頑張ってくださいね」
仲良し3人組と別れた後、15階層のライオスの部屋に向かった。
なんだか魔王様に頼み事をするのは気が引けるけど、頑張らないと。
一応扉をノックする。
「はーい!」
と、なぜか女の子の声が聞こえてきた。
部屋間違えたかな? でも扉にはライオスって書いてあるし……
「どうかされましたか?」
「カリン? どうしてライオスの部屋に?」
「え、えーと、それは……」
あ、もしかして二人は……
「ごめん、お邪魔しちゃったかな?」
「い、いえいえいえいえいえ。そんな事は全くもってありません。私はただライオス様のお部屋を掃除していただけですので」
「ん? そうか。ライオスは部屋にいるかな?」
「はい。いますよ。中へどうぞ」
ライオスの部屋は相変わらず綺麗だ。
これもカリンのおかげなんだろう。
そこまで部下に慕われているなんて、なんか良いな。
「これはこれは主人殿。今夜はどう言ったご用件で?」
「急にごめんね。1つ頼みがあるんだけど、良いかな?」
「もちろんです。喜んでお受けいたします」
いやいや、まだ内容言ってないよ。
でもつまりOKなのか。
一応話しておくけど……
「明日、ルナルド村についてきてくれるかな? 武闘大会があるらしくて、それに出て欲しいんだ」
「武闘大会! それはぜひ参加させて頂きたいですぞ。主人殿はご参加なられるのですか?」
「いや、僕は……」
「我は主人殿と手合わせしてみたいのです。今の我がどの程度通用するのか、それが気になって気になってしょうがないのです」
はぁ、ライオスは頼れて良い仲間なんだけど、こういう武闘派なところが玉に瑕だね。
僕はやることあるし、でもライオスのこの子供のような表情を無下にできないし……
「じゃ、じゃあ一応エントリーは、しようかな」
「おお! それはありがたいです。では我は早速鍛錬に向かいます。カリン、相手しろ」
「は、はい。喜んでお付き合いさせて頂きます」
そういって、二人は部屋から出て行った。
あぁ、凄いやる気だ。もし負けたらどうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます