第31話:人族との交流開始

 ギルドから外に出た頃にはもうすっかり夕暮れ時になっていた。

 そして今からこの人たちの今後について話していく。

 たった50人でこの街を運営していくのは、ハッキリ言って相当過酷だろう。

 もしかすると魔族を何人か派遣して再興しなきゃいけないかもしれない。

 まぁとにかく話し合いで決めようかな。


 「ガンジさんはこの集団のリーダー、でよろしいですか?」

 「はい。わしが一応長という事になっております。年長者ですので」


 地下牢にいた時はそこまで目立っていなかったが、ガンジさんの腰はかなり曲がっている。

 やはり人間の78歳というのは体に多大な影響を与えるようだ。


 「これからどうしたいですか? 何か望みがあればできる限り支援させていただきますけど……」

 「それはありがたい申し出ですな。しかし我々は奴隷の身。自分たちで何かをしようとしたことがないのです。そのためこの放棄された街で何をすればいいのかが……」


 確かにその通りだ。もともと奴隷だった人に何かを自由にやれ、と言ったところで思いつかないだろう。

 自由は欲しかったんだろうけど、その先に何が待っているかは雲の上の世界、つまり何もわからない、という事だ。

 ここはどうするべきだろうか?

 僕はあんまりこういうことに関して詳しくないからな……

 ただ誰か技術のある人に色々手伝ってもらえたら、と。


 「僕から1つお願いがあるのですが、まず先にそれをいいですか?」

 「はい。何なりとお申し付けください」

 「僕は今から人族と魔族が共存できる地域を作ろうとしてるんだけど、それに協力してくれないかな?」

 「もちろん、いいですとも。アンナさんや他の二人の魔族はいい人たちですので、我々は他の者たちのような偏見は持っておりません」


 そうか。なるほど。アンナさんの言ってた通りだ。

 てことは奴隷の人たちを集めればこの計画は上手いこと進むのかもしれない。

 まずはそういう地域があるってことを周知してもらわないといけないし、もし本当にそんな夢のような場所ができたら弱い魔物や魔獣はここに集まってくるかもしれない。

 そうなったら僕の方から迎えに行かなくても済むか……


 「それは良かったです。そうしましたら、この街の長になってもらえませんか?」

 「長……わしがですかな!?」


 驚きのあまり腰がまっすぐになった。

 あまり無理して動かすと体に良くないらしいから気をつけてほしいよ。

 そっと無言で回復魔法をかけておく。


 「はい。僕はダンジョンの管理がありますので、流石にビギナータウンまでは管理しきれないと思うのですよ。それに他の皆さんもガンジさんが街の長になってくれたら安心すると思いますよ?」


 僕に言われてガンジは周りを囲んでいる元奴隷の人たちを見回す。

 全員が笑顔で頷いているのを見て、少し決意が固まったようだ。


 「わかりました。老いぼれの身ではありますが、我々の恩人であるツクモ様の頼み、この命が尽きるまで全うさせていただきます」


 胸に手を当てて誓ってくれたガンジさん。

 やっぱり人間も魔族も同じだな。

 

 そしてまずは1つ目の課題を達成。

 次は技術保持者の派遣と、この街の食糧問題についてだけど……

 ハッキリいうと、食糧面がかなり辛い。

 魔族のみんなは長い間食べなくても平気らしいし、僕もフレイヤの部屋に生えてる果実を食べてれば問題はない。お腹は空くけど。

 でも50人の人間となると、かなりの食糧が必要だろう。

 どうするかな……


 「ねぇアンナさん。どうやってここ数日分の食糧を確保しようか?」


 隣に立っているアンナさんにアイデアを求める。

 すると小声で返事をしてくれた。


 「まだいくらか街に残っていると思いますよ? それに農作物はきっと今週中に用意できるんですよね? でしたら心配は要りません。元々奴隷はろくな食事を与えられてませんでしたから、どんな物でもご馳走ですよ」


 少しの間は持つか。でもどうせならお肉とか栄養のつきそうな物を食べさせてあげたいよね。 

 農作業もどの程度のスピードで進行するか未知数だし……


 「ガンジさん。この中に建築や畜産の知識を持っている方はいませんか?」

 「おります、そりゃたくさんおりますとも。若い連中はみんなその為に買われた奴隷でしたから。おい、アレク、ちょっと来い」


 ガンジさんが集団の中から一人の若い男を呼んだ。

 筋肉質な中年のおじさんだ。

 

 「こいつはアレクと申します。建築のことならこの男に聞いてください」

 「よ、よろしく、です」


 照れ臭そうに軽く頭を下げるアレク。

 流石に見た目高校生の僕に頭を下げるのは嫌だろうな。


 「よろしくね。僕はツクモ。「序のダンジョン」の主をしてる者です」

 「だ、ダンジョンの主ですか!? ご、ご無礼をお赦しください。魔族のお偉い方だとは思っておりませんでしたので」


 膝をついて頭を下げたアレク。

 どうやら魔人か魔王だと思われてるみたいだ。


 「僕は魔族じゃないよ。ちゃんとした人間だ。訳ありだけど……」


 異世界から来たことは黙っていよう。

 神様! とか言われて無駄に神聖化されてしまうと困るのは自分だからね。

 

 「そ、そうですか。ですがダンジョンの主になられる方は世界の理に認められた者のみ、と昔母から聞いていたので、人間でも魔族でも尊敬に値するお方です」


 人間なのに魔族みたいな物言いだ。

 逆にどちらも似てるから同じになるのかもしれないけど。


 「ありがとね、でもあんまり堅苦しいのはなしにしようよ。これから僕のところで色々と教えて欲しいしさ」


 そういえば僕はガンジさんには敬語になっちゃうけど、アレクにはそうならないな?

 ガンジさんはなんとなく尊敬すべき雰囲気がするから、かな?

 まぁ、見た目的にも僕が長老にタメ口ってのも微妙だ。


 「喜んで、お受けいたします」

 「よかった。助かるよ」


 これでダンジョン内の施設がより便利になりそうだ。

 ベッドとか色々作って欲しいよね。


 「ガンジさん、僕たちはまた明日ここにくるので、それまでは大丈夫そうですか? ご希望ならダンジョンに連れて行く事もできますが」

 「ワシ達は街の整備から始めますぞ。今晩から早速取り掛かりたいので、今日はアレクだけ連れて行ってくださいますか?」

 「分かった。じゃあまた明日」


 家、じゃなくてダンジョンに帰ると、15階層のボス部屋にストンガーズ達が並んで待っていた。

 

 「おかえりなさいでやんす」

 「うん、ただいま」


 普通の挨拶を交わす僕たちをみて、アレクは少し驚いている。

 ああ、確か人間は魔族の言葉が分からないんだっけか……って、それはまずくないか!?

 このままだと夢の技術提供ができなくなってしまう。


 「アレクはみんなの言ってること、分かる?」 

 「い、いえ。申し訳ないのですが……」

 「そうか、じゃあひとまず僕が仲介人として……」


 「ツクモ様、私が教えますよ」


 隣に立っていたアンナさんが名乗り出てくれた。

 確かに、アンナさんなら人族語も魔族語も理解できるし、街の運営側にも興味を示してたし……


 「じゃあ頼むよ。できれば、街のみんなにも教えてくれるかな?」

 「はい! もちろんです」


 助かったー これで言語の心配はなさそうだ。

 そしたら次は下の階層の事についてウォル達と相談して……あ、あのアラーアネ達とトレント達に指示を出さないといけないから、とりあえずそっちを優先か。

 やることが多すぎて困ったもんだ。



 その後は、ウォルと少しだけ話をしてから、アラーアネ代表のアラクネ達に会いに行った。

 ウォルが17階層にアラクネ達の作業部屋を作ってくれたから、場所の問題は解決。

 住居もそこに作ってもらう事にして、アレクが主導で作業台やら作業道具も作成してもらう事になった。

 アラーアネ達の部屋は広い。60人もいるんだ。作業部屋と住居を合わせると15階層のボス部屋が4つ分くらいになった。

 彼女達の部屋の横にはデスシープを飼うスペースを確保して、材料への効率の良いアクセスを確保。

 デスシープ達も快諾してくれて、ダンジョン内に羊牧場が出来上がった。

 ちなみに、デスシープ達の面倒はアラクネがしてくれる事になり、僕の仕事がまた1つ減った。

 

 人数が増えすぎて大変かと思ったけど、その分増えた仕事はみんなで手分けしてやればいい。

 地球にいた時はずっと個人作業だったから、仲間が多いとなんとなく嬉しいな。



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