第25話:「序の主」
水分身と黒炎魔法の混合魔法、爆弾人形による大爆発。その爆発の中心部では、いまだに黒煙立ち込めている。
そして次第にひらけてくる視界。
大穴の中で、一人の男が傷だらけになって地面にうつ伏せになっているのが見えた。
「体が吹き飛んでるかと思ったんだけど……」
おそるべしギルドマスター。かなり距離をとっていた僕でさえ鈍器で殴られたような痛みがあったのに、直撃したその体は原型を保っている。
「き、きさ……ま……」
残っている右腕を少し上げるアンクス。まだ生きているとは正直驚いた。
だがこっちにも聞きたいことがある。
「アンクスさん、いえ、アンクス。あなたたちの目的はなんだ?」
「ま、魔族……を滅ぼす……」
呪いの言葉のようだ。そこまで嫌われるほど魔族は悪い奴らじゃない。
というより魔族のほうが人間よりもイイやつらだ。
今日改めてそれを実感した。
「喋る気がないならトドメをさす。何か話すなら助けてやってもいいぞ?」
「だ…だまれ……貴様なんぞの低級…魔族は……上のお方が……か…な…ら…ず…」
その言葉を最後にビギナータウンのギルドマスターは絶命した。
◇◇◇
上のお方か。どうやら黒幕はアンクスだけじゃないのかもしれない。
でもとにかく一件落着か。慣れてない魔法を使うのはやはりダメだな。
全然上手く動けなかった。きっと今ならライオスの方が強いかもしれない。
ってそういえば、ダンジョンの方は大丈夫なのかな?
僕の行動を怪しんでたってことはきっとダンジョンにも手が回ってるはずだし……
でもライオスとフレイヤがいるから大丈夫か。それにカリンたちもいるし。
はっきり言って僕一人よりだいぶ強いだろう。
「さて、これからどうすればいいのか……」
「ツクモさーん」
お、ウィンディが帰ってきたみたいだな。相変わらず姿は見えないけど。
「ツクモさん!」
「おっと、びっくりした」
突然肩の上に現れる湖の精霊。いつものことなんだけど、なかなか慣れない。
「ツクモさん。お仕事終了いたしました」
てことはアンナさんがもう……
いやいや。敵だったんだ。後悔しちゃいけない。
「ツクモー! 終わったよー」
遅れてイツビが登場する。そしてその右手の先に誰かの手が……って、アンナさん!?
いや待て。もしかしたらカリンかもしれない。前も間違えたくらいだし……
「カリンも来てたんだ。「魔」の魔力を3つ感じたから誰かと思ったよ」
「つ、ツクモ様。私は……その……あ、アンナです」
「え、え、えええ? 本当にアンナさんなの? 受付嬢のアンナさん?」
「は、はい。実は……」
アンナさんの謝罪から始まった長くも短い説明。
なかなか泣ける話だ。それに魔族だったなんて、逆に僕はなんで気がつかなかったんだ?
にしてもアンナさんが敵じゃなくてホッとしたよ。
それに色々と事情を聞けそうだし。
「分かりました。僕はアンナさんを歓迎します。それが仕事ですからね。それに魔族はみんないい人ばかりだし、だから仲間になってくれるなら嬉しいですよ」
「あ、ありがとうございます……」
泣き始めてしまったアンナさん。
辛かったんだろう。うんうん。
5年も隠し通してきたんだもんな。
「そ、それと。私に対しては普通に話して頂いて構いませんよ。ツクモ様の従者となる身ですので」
「そう? じゃあそうさせてもらうけど、従者ってのは少し嫌だな。仲間にならなってほしいけど」
すると再び泣き始めるアンナさん。確かカリンも進化して泣いていたけど、進化する前に泣かれるのは少し抵抗ないな。
「お、お願い致します」
「分かった。じゃあ儀式的なものをしてもいいかな? 僕にとってもアンナさんにとってもいいことなんだけど?」
「儀式? ですか。大丈夫ですよ。ツクモ様のことは信頼していますので」
いつも美人で癒されていたアンナさんに信頼してもらえてるなんて……
異世界に転勤してからはいいことだらけだ。死ぬ思いもたくさんしたけど。
特に今日は1日で3回も。
でも考え方を変えれば、意外と早いスピードで事が進展してるのかな?
「分かった。じゃあやるよ」
いつも通りに「生命授与」を発動させる。
300年やっているこの作業が一番落ち着くかもしれない。
そう考えている間にも光り続ける僕の右手。そしてアンナさんの細い手をそっと握る。
深夜の森に灯る1つの明かり。そしてすぐに消え去っていく。
目の前にいるのは……
「どうですか、アンナさん?」
「今のは……って、このむ、胸は……」
目の前に現れたのは以前と変わらない美人のアンナさん。
でも1つだけ違う所がある。
それは……
「お、おっきくなってる!」
イツビが羨望の眼差しで見つめる2つの山。なぜか胸がフレイヤ並になっていた。
「つ、ツクモ様? これは胸を大きくする魔法なのですか?」
「ち、違いますよ、アンナさん。ステータスを見てみてください!」
一応手で目隠しをする。
だけど指の間からこっそりとステータスを確認。
ライオスの時もそうだったが、名前がもともとある魔族には名付けはいらないらしい。
個体名:アンナ(魔人) レベル25 MP200
種族名:キャットメイジ
性質:魔
スキル:身体強化レベル5、支援魔法レベルMAX
パッシブスキル:魔力隠蔽、サポーター、主従(従)
あれ、なんだか妙にレベルが高くないか?
これだとウィンディと同じくらいのレベルだよな……
ちょっとウィンディのも見てみよう。
個体名:ウィンディ(精霊) レベル35 MP390
性質:魔
スキル:水魔法レベル13、水操作レベル18
パッシブスキル:水の女王、主従(従)
前よりも上がってるぞ?
何が起きたんだろうか?
僕のステータスも……
性質:神
スキル:火魔法レベル8、水魔法レベル 16、風魔法レベル1、
氷魔法レベル1、雷魔法レベル20、土魔法レベル6、
黒炎魔法レベルMAX、雷撃レベル10、剣技(初)レベル7
支援魔法レベルMAX、回復魔法レベル18、守護魔法レベルMAX
雷操作レベルMAX、治癒操作レベルMAX
水操作レベル18、火操作レベル10、土操作レベル3、
身体強化レベル21、妖術レベル13、岩肌レベル9
固有スキル:生命授与
パッシブスキル:爆弾魔、序の主、スキル借用、異種間交流、主従(主)
すごいことになってるな。
いろんなスキルのレベルが限界値を超えてる。
しかもパッシブスキルが2つも増えてるや。
「爆弾魔」って言うのはあながち間違いではないよね。
それと「序の主」っていうのはダンジョンのことかな?
となると僕は「序のダンジョン」の主になれたみたいだ。
でも何が達成条件だったんだろう?
仲間の数かな?
「え、すごい上がってます! なんだか色々と上がってますよ。ツクモ様」
そういえばアンナさんと話してる途中だった。
気がそれてたや。
「喜んでくれてよかったよ。形式では従者ってことになってるけど、それは全然気にしないでね」
そう言うと、僕の手を握って上目遣いをしてくるアンナさん。
「全然従者でも構いませんけどね?」
つい、ドキッとしてしまう。
こういうのは慣れないなぁ。
「そ、それだと僕が嫌なんだ。だから、ね?」
自然に手を離す。
人間の体は極端に異性に弱い。
昔はあのビィーナス様を見ても、綺麗だなーとしか思わなかったのに。
「分かりました。ですがこれからよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくね、アンナさん」
美人の仲間が一人増えて、ダンジョンの主にもなれた。
異世界にきて今日で4日目だっけ? 5日目だったっけか?
どちらにしても1週間以内でここまでやれたのはやはり仲間たちのおかげだろう。
そして残るダンジョンはあと6つ。あ、でも大陸が3つもあるんだっけ?
これはまだまだ時間がかかりそうだ。
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