第23話:ライオスVS???

 ツクモが5人の金石級冒険者と戦闘を始めた頃、「序のダンジョン」に望まぬ来客者が訪れた。

 その男は2本の剣を背負い、純白の戦闘衣に身を包んでいる。赤色の髪の毛と整った顔立ち。自信に満ち溢れた表情でダンジョンの最深部へとたどり着く。


 「この先が奴らの根城だな。アンクスからの報告が正しければ、だが」


 ギルドマスターを呼び捨てにできる男。つまりアンクスと同格かそれ以上であることを示している。

 細くも鍛えられた腕でボス部屋へと繋がる岩扉に手をかける。ゆっくりと開かれる重厚な扉。そしてにやける男。


 「これで俺も金剛石級に……」

 「雷爪ライトニングネイル


 扉が開いた瞬間に襲いかかる金色の爪。巨大な雷爪が訪問者の腹へと深く突き刺さる。


 「ぐはっ」


 岩でできた地面に飛び散る血反吐。そしていつもは誰もいないボス部屋で待ち構えていた者。

 灰色の短髪に鍛え上げられた体。タンクトップのような短い服装に破れた長ズボン。一見すると荒くれ者のようだが、まるで歴戦の戦士のような風格を持つ男。


 「我が主人の城に侵入するとはいい度胸だ。気楽に死ねるとは思うなよ?」


 男の名はライオス。かつて森の戦士と呼ばれ「暁の森」を守護していた魔獣王。


 「き、貴様……」


 地面に倒れていく来客。だがその目から闘志は失われていない。


 「「特回復エクスヒール」。「攻撃強化ストレングス」」


 瞬時に塞がる腹にあいた風穴。そして力強く立ち上がり、背中にある2対の剣を手に取る。

 

 「楽には死なせないと、言っただろ?」

 立ち上がった直後の男の腹に強烈な蹴りを放つライオス。

 「雷鎧ライトニングアーマー」のよって強化されたその脚は男の骨を砕くには十分すぎる威力だった。


 「……がはっ」


 蹴り飛ばされて岩壁に背中を強く打ち付ける男。だがライオスは追撃の手をやめない。


 「獄炎拳ヘルブロウ


 冷徹に詠唱される魔法。

 雷と黒炎を纏ったその拳が吸い込まれるようにして男の胸部に食い込んでいく。


 「…………ぁぁ」


 バキバキっと音を立てて砕けてゆく胸骨。そして力を失っていく男。壁から地面へと落ち、再び地面に顔をつける。


 「まだ生きてるか?」


 死にかけて倒れている男にも無慈悲に声をかけるライオス。


 「お、俺は……水晶級の……イラベル様……だぞ……こんな……名も知れてない魔人なんぞに………」

 「我は魔王だ。貴様など相手にならん」

 「ま、魔王だと!? ゲホッゲホッ」


 力を振り絞り必死に言葉を続ける侵入者、水晶級冒険者のイラベル。

 不意打ちとはいえ、白金石級よりも1段階高いランクの冒険者を一瞬で沈めた魔王ライオスの力は計り知れない。


 「ああ。だから悔やむことはない。だから安心して死んでくれ。お前の魔力は良い養分となってダンジョンに吸収されるであろう」


 終始冷然としているライオス。そしてその前でだんだんと呼吸を失っていくイラベル。


 「き……貴様ら……魔族なんぞ………上のお方たちが………………………」


 呪禁を残すようにして生命を落としたイラベル。ダンジョンへと侵入者は一瞬にして排除されたのであった。


 ◇◇◇


 「ライオスさん。大丈夫でしたか?」


 隠し扉から現れたのは白銀の長髪の美女。フレイヤだ。


 「ああ、問題はないぞ、幻獣、ではなくフレイヤ」


 未だに呼び方になれないライオス。それもう無理はない。まだここに来てから3時間ほどなのだから。


 「来ていただいたばかりなのにお疲れ様でした。それで、この男は?」

 「分からぬ。だが水晶級の冒険者だと言っておった。それに扉の向こうでアンクスがどうとか言っていたな」


 ダンジョンに吸収されていく死体をただただ眺める二人。

 その背後から大きな岩が歩いてきた。


 「フレイヤ様にライオス様。どんな状況でやんすか?」

 「それがよく分からないのですよ。どうやら冒険者が侵入してきたみたいのですが……」

 「そういえば狐の娘が精霊に連れてかれてたな? 外でも何かあるんじゃないのか?」


 ライオスがふと思い出したように呟く。


 「だとするとツクモ様が危ないのでは?」


 急に不安に襲われるフレイヤ。だがライオスはそんな様子を全く見せていなかった。


 「我が主人なら問題はない。我よりも強いのだからな。それに魔族の守護者を目指されているお方。ならば従者としてその拠点を守るのが我らの役目であろう?」

 「そうですね。ライオスさんの言う通りです。ツクモ様ならきっと大丈夫でしょう」

 「じゃあここで待つでやんすか?」

 「そうだ。だが警戒は万全にする。フレイヤ、ダンジョン全体に結界を張れ」

 「言われなくてもそうしますよ。「聖域セイクリッドフィールド」」


 ダンジョンの壁から木の根飛び出てくる。そして全体が柔らかな光に包まれていった。


 「おいらたちも一応壁に紛れておくでやんす。上層の警戒はお任せでやんすよ!」

 「ああ。頼んだぞ。では我は主人が帰るまでここにいるとしよう。フレイヤは中で休んでおれ」

 「え? 私もお手伝いを……」

 「いいから。我だけで十分だ。足手まといはいらぬ」


 少し照れた顔を必死に隠すライオス。


 「ふふ。ではお言葉に甘えさせて頂きますね。信頼してますよ、ライオスさん」


 小さく笑うフレイヤ。

 そしてウォルはその様子を端から見て驚愕の表情を浮かべていた。

 

 「ら、ライオス様は……フレ………」

 「だ、黙って警戒に当たれ。引き裂かれたいか?」

 「ごめんなさいでやんす。行ってくるでやんすよ」


 色々な意味で気迫のこもった声に怯えて、慌てて壁に潜り込むウォル。

 最強の魔王にも弱点はあるらしい。

 

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