第22話:VS???

 「落雷撃ボルテックス!」


 詠唱が完了すると同時に黒雲が空に立ち込める。

 そして地面に向けて一直線に落下してくる雷光。

 直撃は免れないだろう。これで終わりだ。


 「反魔法防壁アンチマジックウォール


 二人の頭上に落下するはずだった雷が、突然消えた。いや、弾かれたとでもいうべきだろうか。


 「こりゃすげー威力だな。俺の左腕が吹き飛んじまったよ。流石だな、判定不能の新人君」


 聞き覚えのある声。

 そして落雷によって起きた土煙の中から一人の大男の人影が現れる。

 その男は……


 「あ、アンクスさん!?」


 ビギナータウンの冒険者ギルドの総括。

 ギルドマスターにして白金石級冒険者。

 アンクスが僕の最強の一撃を左腕一本を代償に止めた。


 「遅くなって悪かったな。それで、この新人はやっぱ魔族なのか?」

 「は、はい。どうやらそのようです……」


 失った左腕から流れる大量の血を気にもせず、後ろで縮こまっている金石級冒険者二人に問いかける。


 「そうか。それだけ分かれば十分だ。ご苦労さん」


 優しい言葉をかけるギルドマスター。

 だが右腕に持った大剣を冒険者たちの頭上へと持ち上げる。


 「ぎ、ギルマス?……」「あ、アンクスさん……?」

 「本当に大した働きだったぞ。もうゆっくり休んでくれ」

 


 状況を理解できずにいる冒険者二人。だが顔は青ざめている。

 その二人の表情を見て不敵な笑みを浮かべるアンクス。


 「だから。お前らはもう用済みなんだよ。知っちゃいけないことも色々知ってるみたいだしな。それじゃ。死んでくれ」

 「あ、アンク……」


 大剣で二人の冒険者を両断した。


 信じられない光景が目の前で起こった。

 魔族ではなく人間を殺した冒険者たちのリーダー。

 一体何がどうなっているんだ……


 「なっ、なんで、なんでなんですか。アンクスさん」


 血まみれの大剣を肩に担ぎ、僕の声に答えるようにこちらに振り返るアンクス。

 その表情はまるで悪魔そのものだった。


 「なんで? そんなのは魔族のお前には関係ないだろ?」

 「僕は魔族じゃ……」

 「どうやって検査結果を誤魔化したかは知らないが、俺はまだまだ魔族を知らない。というより狩りの対象をそこまで知る必要はないけどな?」


 不気味に笑うアンクス。そして大剣から流れ落ちる血が彼の肩に滴り始める。


 「お前が初日の夜に生きて帰った時は驚いた。なんたって銀石級の6人組が新人一人に完敗したんだもんなぁ?」

 「6人組……ってまさかあの盗賊!?」


 どういうことだ? 何がどうなっているんだ?

 ギルドマスターであるアンクスさんが首謀者?


 「今更か? 普通気づくだろ。魔族のくせに勘が鈍いやつだ」


 目的が僕ならなんで冒険者を……

 

 「で、でも。なんで人間を殺したんですか?」

 「お前がそれを言うか? 後ろを見てみろよ。俺よりも一人多く殺ってるぜ?」


 振り返れない。

 まだ人を殺してしまったことを受け止められていないのかもしれない。

 だが惑わされるな。僕のは正当防衛だったはずだ。


 「僕のことはどうでもいいです。一体何が目的なんですか」

 「だーかーら。目的なんて魔族のお前に話してどうするんだって。学べ、ガキ」


 アンクスさんはもっと男らしい人だったはずだ。

 この男は本物のアングスさんなのか? いや。色々と引っかかるところはあったはずだ。

 魔族が少ないこの土地にいるたくさんの冒険者たち。

 それにほとんどが高級な装備品を身につけていた。

 それに加えて不自然なほどに豪華な宿。

 そして極め付けがこの仕組まれたとしか思えない緊急依頼。


 「何黙ってるんだ? まさか怖気付いたとか言うなよ?」

 「あなたは……」


 だが何を目的としてるんだ?

 魔族の殲滅も目的なんだろう。だけど他にもあるはずだ。

 そして街全体が裕福な事には説明がつかない。

 それに仲間を殺したことも……


 「もうそろそろいいか? 我慢は苦手な方なんだ。ギルドマスターとして振る舞うのでもう精一杯なんだよ」

 

 やはり本人。だがそうなると、ギルドにいた冒険者たちはこのことを知らないのか?

 いや。金石級の5人組は何かを知っていて、探ってきた様子だった。

 だがこのパーティーは他の街から来たって言ってたし……


 「あー、もうなんなんだ? こっちも情報が欲しかったから待ってやっていたが、もう我慢の限界だ」


 大剣を肩からおろすアンクス。

 そして前傾姿勢になる。


 「アンナ、援護頼んだぞ」


 アンナ!? まさか、アンナさんまで……


 「「特回復エクスヒール」、「俊敏強化スピーダー」、「攻撃強化ストレングス」」


 一瞬にして左腕の切断部の傷が閉じ、流血が止まる。

 それをやったのは僕が毎日癒されていた女性。

 姿は見えないが、聞き慣れた声が森に響く。

 やるしかないのか?

 しかもアンナさんも……


 「立ち止まってるとは随分と余裕だな。だが容赦はしねぇ!」


 物凄いスピードで間合いを詰めてくるアンクス。

 だけど僕よりは遅い。

 多分ライオスのスキルを借りる前なら劣っていたかもしれない。

 でも今は違う。


 「神隠し」


 森全体の景色を変えるイメージで幻術を発動する。

 誘う先は暗黒。でもすぐに破られるだろう。

 横に大きく跳んで、アンクスの突進の進路から逃れる。 


 「幻術突破イリュージョンブレイク


 アンナさんの声が森に響く。

 やはりサポート系なのか。

 でももう距離はとった。


 「っち。変な技を使いやがる」


 僕のいた位置に大剣を突き立てているアンクス。

 分かってはいたが、殺しにきてる。

 もう覚悟を決めないと、そうしないと魔族のみんなに被害が及ぶかもしれない。

 それは絶対に防がなきゃならない。大切な仲間を守るのが僕の役目だ。

 

 気持ちをさらに切り替え、雷鎧を纏った水分身を5体出現させる。

 他の系統の魔法と同時に使うと、これが限界なようだ。

 そして手には水刀。多数で一気に片をつける。


 アンクスに向けて4体を走らせる。

 それぞれ違う動き、違う方向から攻撃をさせ、敵を錯乱する。


 「また見たこともねー技だな。だが関係ない。「豪炎斬ファイアブレイカー」」


 刀身よりもよりふた回り大きい炎が大剣を包む。

 そして豪快に繰り出される回転斬り。

 一見すると、隙が多そうだが、炎が壁となって全方位の攻撃から使用者の身を守っている。


 蒸発していく水分身。やはりギルドマスターともなると簡単にはいかないらしい。

 

 「攻撃強化ストレングス


 またアンナさんの強化魔法。

 どうやら重ねがけが効くタイプのようだ。

 にしても支援を続けられるとこっちも危なくなってしまうかもしれない。

 ここは二人に探してもらうとするか……


 「ウィンディ、イツビ。もう一人を片付けろ」


 大きな声で森にいるはずの二人に命令する。

 そして動き始める「魔」の魔力。行動に移ったようだ。

 その数は……3つ? 

 いや、もしかしたらフレイヤもいるのかもしれない。

 今は戦闘に集中しないと。


 「今のは魔族の言語か? 面白い。お前が死ぬ前に教えてくれよ?」


 またこの気持ちの悪い笑い方。

 どうやら僕は知らないうちに魔族の言葉でウィンディたちと会話をしてたらしい。

 知れてよかったよ。


 「死ぬのはあなたですよ。ギルドマスター。「獄炎槍ヘルランス」」


 アンクスの頭上に3本の巨大な黒炎槍を出現させる。

 そして一気に投下!


 「奇妙な技だ。黒い炎とは魔族らしい。だが貧弱だ。「反魔法防壁アンチマジックウォール」」


 見えない壁がアンクスの頭上に現れる。

 そしてその壁に当たった黒炎槍は一瞬にして消失した。

 だが槍を投下したのと同時に走りこんでいた僕と残りの水分身。

 隙をついて敵の懐へと潜り込む。


 「幻影刀ファントムブレード


 右手に幻影刀ファントムブレードを持ち、アンクスの左脇腹を狙う。水分身は右脇腹。

 死角から繰り出される幻影刀ファントムブレード水刀ウォーターブレードが同時に鮮血を飛散させた。


 「なっ、「回復ヒール」」


 回復魔法まで使えるのか。

 傷が段々と塞がっていく。だがこれで終わりではない。

 剣を持っていない左手で魔獣王のスキルを発動させる。


 「雷爪ライトニングネイル


 人間の手から電気でできた巨大な爪が生える。

 そしてそれを深々とアングスの背中へと突きたてる。

 だが肉を貫いたような感触はなかった。

 代わりに感じるのは何か硬いものに弾かれる感触。

 それはアンクスの大剣だった。


 「惜しかったな。「極炎斬マグナブレイカー」」


 先ほどよりも小さな炎、しかしその威力は濃縮されている。

 大剣に焼かれ、手に残る火傷のような痛み。

 すぐに回復魔法を発動させ、距離をとるために地面を強く蹴る。


 「そんなんじゃ逃げられねぇよ?」


 距離をとったはずが、逆に距離が縮められている。

 さっきの「攻撃強化ストレングス」が身体能力を大幅に上げているんだろう。

 そして僕の右肩めがけて振り下ろされる「極炎斬マグナブレイカー」。

 壁代わりに配置していた水分身が炎剣に近づくと、一瞬で蒸発。

 このままでは直撃する。

 

 「い、岩肌!」


 避けきれない。そう判断した僕は右肩に集中させて岩肌を発動。

 だが「極炎斬マグナブレイカー」は鉄のように硬化した肌を切り裂き、浅く肩に食い込んだ。


 傷口から流れる出る血、そしてその傷が一瞬にして炎剣に炙られる痛み。

 だが回復魔法でなんとかなる。

 しかし剣は刺さったまま。このままでは身動きができない。


 「しめぇだ。「天断絶スカイブレイカー」」


 この剣技はノリスが使っていた……

 不味い。確かかなり威力のある物理攻撃だったはずだ。

 だがここで死ぬわけにはいかない。

 

 傷口の辺りに水刀ウォーターブレードを発動させる。

 自分で形成した青い刀身が肩をさらに抉る。だが敵の大剣は弾き飛ばせた。


 「っち。頭いかれてやがる」


 自分でもそう思う。でも回復魔法があるからこその自傷覚悟の緊急離脱だ。

 ここからが勝負。敵に攻撃魔法はあまり効果がない。 

 てことは物理攻撃で攻めないと……

 いや待て、得意の爆発なら……


 「神隠し」


 一瞬の隙を作るために幻術を作り出す。

 かなり距離をとって、念のために雷鎧を再度発動。そして普通の水分身を15体作成。

 僕の魔力量は従者を増やすごとに確実に上がっている。


 「獄炎ヘルファイア


 黒炎魔法を発動する。だが攻撃が目的ではない。

 その炎が向かう先は水分身の体内。2つが接触しただけでもう爆発寸前だ。

 だがそれらを無理やり動かす。向かわせる先は幻術によって錯乱されているギルドマスター。

 「幻術突破イリュージョンブレイク


 やはり使えたか。だったらアンナさんに使わせなくてもよかったものを。

 だが遅い。すでに15の爆弾は接近済みだ。


 「またこいつらか。豪炎……」

 「獄炎ヘルファイア!


 攻撃の隙を与えずに黒炎魔法を打ち込む。もちろん狙う先は爆弾人形たち。

 そしてアンクスを中心として巨大すぎる爆発が起こった。

 

 僕もかなり距離をとっていたものの、爆発の衝撃によって体が吹き飛ばされる。

 咄嗟に水壁で盾を作ったが、体全体が鈍器で殴られたような痛みに襲われる。

 でもそれは回復魔法で処置。10メートルほど飛ばされた所で無事着地できた。


 立ち込める爆煙で視界が悪い。だがアンクスが動いている気配はない。


 「僕の勝ち、かな?」

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