第21話:VS金石級冒険者
「グオォー」
僕たちの目の前で雄叫びを上げる「暁の森」の魔獣王。
その姿はライオスのものとそっくりだ。
「な、なんて巨大なんだ。だが俺たちもそこまで弱かねーからな。ゼッテーぶっ潰す」
5人パーティーのリーダーであるノリスが背中の大剣を構えて魔獣王に突進する。
「援護します!
後ろで杖を持っている女性が強化魔法をかけていく。
どうやら支援系の魔法使いみたいだな。
「これでもくらいやがれ!
真正面から炎を纏った剣を繰り出す。
だが動こうとはしない魔獣王。
「
後衛の男が光輝く矢を放つ。
そして炎剣と光弓が魔獣王の顔面へと同時に直撃。
「グオァァァ」
わざとらしい悲鳴をあげる魔獣王。
それもそのはず。あれはただの幻影だ。
本物のライオスにならダメージにもなってないだろう。
「効いたみたいだぞ。ゴルレオ、一発デカイの叩き込んでやれ」
「了解」
ゴルレオと呼ばれた大男が巨大なハンマーを持って突進する。
それに反応するように、魔獣王は右手の爪を横薙ぎにする。
だがゴルレオはそれを華麗に回避、そして高くジャンプした。
「
空中で一回転し、魔獣王の右肩に鉄槌での一撃を加える。
威力的にはウィンディのウォーターハンマーと同等くらいかもしれない。
もしかするとあの男がこのパーティーの要なのかもな。
「グオァァァ」
再度痛がる魔獣王。
いい加減嘘だと気づかれてもおかしくないほどにわざとらしい。
「いいぞみんな。このまま畳み掛ける。ライア、全体に強化魔法を」
「はい!
全体に攻撃系の強化魔法がかかる。
でもおかしいなぁ、僕にはかかってないみたいだ?
忘れられてるのかな?
「これで終いだ! 「
ノリスの持った大剣が一瞬何倍にも大きくなったように見えた。
そして魔獣王の巨大な胴体めがけて一気に振り下ろされる。
どうやら一気に仕留めるつもりのようだ。
「グオァァァ」
血を吹き出しながら倒れる魔獣王。
もう倒れちゃうのか。
イツビも疲れてきたのかな?
「トドメだ! 全員で一斉に攻撃。ツクモ君も手伝ってくれ」
「わ、わかりました」
呼ばれたので仕方なく参戦する。
だけど出すのは「
一応参加している風に見せるために前線まで上がる。
後ろにいるのは支援魔法士と、あれ? あの暗殺者はどこに行った?
「
ノリスが再び炎の剣を魔獣王に振り下ろす。
そして大男はハンマーを思いっきり振り、弓使いが何本も矢を打ち込む。
「グオァァァ」
そして最後に僕が
「ァァァ…………」
僕の攻撃を最後に活動を停止する魔獣王。
どうやら討伐したようだ。
◇◇◇
「やったな! だから言っただろ? 俺たちなら余裕だって」
「そ、そうでしたね」
「勝利の記念に握手してくれよ。最後の一撃はお前の攻撃だったわけだからさ」
「いいですよ」
笑顔で差し伸べられた右手に僕の右手を伸ばす。
そして固く握手を交わした。
「でも勝てたのはノリスさんたちの活躍のおかげですよ」
握手をしながら、なるべく自然に相手を褒める。
「……お前。今何か見えてるか?」
「え?」
物凄く暗い顔をしながら僕を見てくるノリス。
何か悪いことでもしたか?
「何か見えてるかって聞いてんだよ」
「み、見えてません。ノリスさんの顔は見えてますけど……」
「ステータス、は見えねーのか?」
そして不敵に笑い出すノリス。
ステータス!?
そうか。前にウィンディは不思議な方法でステータスを確認できるって……
「は……ははっ。思った通りだ。こいつは「聖」の性質を持っていない。シルビィ。やれ」
シルビィって……暗殺者か!?
「
木々の奥から聞き覚えのない魔法の詠唱が行われる。
だが大体察しはつく。
となるとこの場から……
「やはりな。魔獣王にしては張り合いがないわけだ」
一瞬にして消え去った魔獣王。
巨体があったはずの場所には何もない。
「の、ノリスさん?」
「ああ、試すような真似して悪かったな。だがお前は俺たちの活動の邪魔だ。死ね」
「うぐっ」
右の脇腹に深々と突き刺さる剣。
慌てて回復魔法を発動させる。
「神隠し」
一瞬の隙でもいい。
今は距離を取るべきだ。
「っち。やっぱ人族の技は使わないみてーだな。魔族さんよ」
さっきまでの優しそうな雰囲気は一転。
荒々しい口調で僕を魔族と呼んだ。
誰かに感づかれていたみたいだ。
だが誰に……
「
またか…
これだと妖術は使い物にならないかもしれない。
それに5対1。
意外とピンチか?
「
後ろから!?
ズドーン! と先ほどよりも明らかに威力が込められた鉄槌が地面に叩きつけられる。
「
「暗殺剣」
そして逃げた先で背後を取られる。
この技は前に盗賊に襲われた時と同じ……
「岩肌!」
カキーン! と僕の背中で弾かれる短剣。
この剣技は背後から急所をつくものだ。
わかっていればどうってことはない。
「
次は遠距離攻撃!?
仕方ない。襲ってきたのはこいつらだ。
こうなったら殺す気でやる。
「
詠唱とともに僕の周りで漆黒の炎が渦を巻く。
これはさっきライオスから借りた「黒炎魔法」だ。
そして雷を纏った矢は漆黒の炎に焼かれて焼失する。
「なに!? こいつは魔王クラスかもしれん。全力で叩き潰せ」
魔王か。神様だった僕が魔王と呼ばれる日が来るとはね。
でも嫌な気分じゃない。
元々魔族を助ける救済者となるつもりだったのだから。
そして僕は雷の鎧を発生させる。
ライオスから借りた「
俊敏力と攻撃力が底上げされる。
そしてまず狙うのは暗殺者。
地面を深く踏み込み、対象に向けて直進する。
「く、雲隠れ!」
影に紛れる暗殺者。
だがそれは視覚情報をごまかすだけのもののようだ。
右前方の木の陰から暗殺者のものと思われる魔力を感じる。
直進を開始し、方向転換が難しいため、右手に黒炎と水が入り混じった球を作り出し、暗殺者のいる場所へと発射する。
「きゃあっ」
激しい爆発音とともに、木々が吹き飛ばされ、地面には大きな穴が出来上がる。
今のはライオスとの戦闘で使用した自爆剣の応用、
超高熱の黒炎を無理やり水球と混同させる。すると少しの衝撃で爆発する超強力爆弾の出来上がりだ。
「シルビィ!」
今ので生きていたら逆に凄い。
威力的にはライオスに直撃させたものと同等かそれ以上だろう。
恐らくだが、初めて人間を殺した。
だが罪悪感はない。こいつらは敵だ。
「ッチ、シルビィを殺りやがって。魔族はゼッテーに殺す」
ノリスか。明るくていいやつなのかもしれないと思った僕が馬鹿だったな。
次はこいつ。
「
黒炎で右手を包み込む。
これもライオスがやっていた技だ。
雷と黒炎を同時に纏い、殺傷力を底上げする。
直進していた先にあった木を足の裏で蹴り、ノリスのいる方向へと進路を変える。
「ちょ、ちょっとまっ……」
そんな言葉は聞きたくないな。
僕も襲われなければ何もするつもりはなかったのに。
助けを求める金石級冒険者の顔面に黒炎拳を直撃させる。
そして拳の方向を地面へと向け、叩きつける。
血が飛散し、同時に大きな凹みが地面にできたところで、男は生命活動を停止した。
「
僕の背後から繰り出される鉄槌での一撃。だがそれは分かっていた。
あんなに大きな鎧を着けて、音を出さずにここまで来れたら賞賛に値する。
「
黒炎の槍を後方に発動。
槌技の発動のためにジャンプしていた大男の腹に深々と突き刺さった。
「グアああああああ」
流れ出る大量の血。
そしてその体は黒炎によって燃え尽きていく。
断末魔は気持ちのいいものじゃない。
そして訪れるひとときの静寂。
「もうやめにしない?」
目の前で立ち尽くしている後衛の弓使いと魔法使い残りの二人に向けて問いかけてみる。
「ば、化け物め。人の形をしやがって、お前ら魔族は狩られるべきなんだよ!」
震えながら答える弓使い。
なんで魔族が目の敵にされるのか僕にはよく分からない。
それになんでこんなに必死で僕を殺そうとするんだ?
何かの邪魔になるってノリスが言ってたけど、作戦か何かか?
「分かった。じゃあもう終わりにするよ」
1つ大きく息を吸う。殺意を持った敵だとは言え、人を殺すのは気持ちのいいことではない。
気持ちを切り替えてから、体の魔力を一箇所に集中させ、魔法の発動準備をする。
発動するのは僕が持っている最強の雷魔法。レベル20で会得可能な雷撃。
超広範囲に最大の威力の落雷を浴びせる魔法。
そして雷操作により一点集中型の雷撃にすることが可能。
遠くで隠れているはずのイツビに当てないためにも、範囲は最小限に抑えなければならない。
電気鎧の上からさらに大きな電気が迸る。
「最後に1つ、君たちの目的を聞いてもいいかな? そしたら助けてやってもいい」
「ま、魔族はだまってろ。
弓使いが今までにない程の巨大な矢を引きしぼる。
だが口調とは裏腹に震え続ける体。
最後のチャンスを逃したんだ。文句はないだろう。
指先を敵に向け、狙いを絞る。
雷魔法の無詠唱ができても、詠唱を必要とする強大な魔法。
それではさようなら。何かを企む冒険者さん。
「
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