第18話:魔獣王との面会

 ドッカーン、と訓練場に爆砕音が鳴り響き、大きな槌で作られたようなクレーターができる。 

 それを作り出しているのは身長10センチほどの湖の精霊。

 狐の少女が必死に躱しながら応戦しようとするが、「幻影刀」での攻撃はことごとく外れていく。

 対象が小さすぎることに加えて、一瞬で姿を消すその戦法にイツビはかなり苦戦していた。


 「イツビちゃん、もう終わり?」

 「ずるい! それずるい!」


 あーあ。ウィンディは完全に遊んでるな。

 なんだかんだ言って精霊って信じられないほど強いんだな。

 きっと超広範囲で空気中の水分を飛ばしきれば多少はダメージになるんだろうけど。

 火魔法か雷魔法が使えないと無理そうだよな。

 てことは僕も勝てない。さすがは精霊様だね。


 「もうちょっと鋭く刀を振ってごらんなさい? そうすれば当たるかもよ?」

 「当たんない! 当たんないって絶対!」


 そして更に繰り出される水槌。

 あんなに何発も「ウォーターハンマー」を使われてるのに全部避け切ってるイツビもなかなかだ。


 「これは終わらなそうだね、フレイヤ?」

 「そうですね。もうやめにしますか?」

 「いや、面白いからもうちょっとだけ……」


 イツビが機嫌を損ねるまで続けてもらおう。

 忍耐力の特訓だと思えばちゃんとした訓練になっている。

 でも実際は僕がもう少し休憩したいのが本音。

 そこまで体力的には疲れていないけど、戦うのには随分と頭を使う。

 それに、スキル同士を組み合わせられそうな気がして、それをずっと考えている。


 「もうやだ! 当たんないよ!」

 「あら、もう諦めちゃうの? じゃあ私の勝ちでいいかしら?」

 「いいもん! ウィンディの勝ちでいいもん! だから次はツクモとやる!」


 あ、もう諦めた。

 そして早速僕の順番か。

 せっかくだから色々と試してみようかな……


 ◇◇◇


 「はぁはぁ……もう終わりでもいい?」

 「えー。 私はもうちょっと訓練したいなー」

 「明日にしよ。今日はもうそろそろ夕暮れだし、帰らないと」


 あれから何時間もぶっ通しで訓練を続けた。

 もはや使える技は全てマスターしたと言っても過言ではないだろう。

 かなり慣れてきて、それにとっておきの技まで完成した。


 「ツクモさん、もう少しだけここにいましょうよ?」

 「ウィンディ? 珍しいね。どうかしたの?」

 「あ、そのー……もう少しでお客さんが来るかもしれません」

 「お客さん?」


 ウィンディがそう言うと、通路の方からウォルが走ってやってきた。


 「ツクモ様。キャットソルジャーが会いたいと言っておりますが、どうしやすか?」


 キャットソルジャー? 魔族か?

 にしても初めての客人だな。

 ここのダンジョンも魔族間で噂になってたりして……

 それなら好都合だ。


 「分かった。今行くよ」

 「それでは私も行きますね」


 ウィンディが肩に乗ってくる。

 どうやら何かを知っているみたいだけど、さっきいなくなってた間に何かしてたのかな?


 「ウィンディは何か知ってるの?」

 「それは後で説明します。それと、まだ戦えますか?」

 「え? 多分大丈夫、かな?」

 「それなら良かったです。じゃあ早速向かいましょ?」


 戦うのかな? そのキャットソルジャーって魔族と。

 イツビは知ってる技しか使わないから相手できるけど、未知の相手っていうのはまた違う感覚なんだろうし。

 少し緊張するな。


 そして内側から扉を開ける。

 いつもやってることなのに、今はすごい緊張しているや。

 そして目の前に現れたのは……


 「アンナさん?」

 「え? アンナとは誰ですか?」


 剣を腰に差した猫耳の美しい女性。

 よく見ると少し毛の色が違うかな?

 赤茶色な髪と耳、それに尻尾がある。

 もう少し色が薄ければほとんどアンナさんと同じ容姿をしているな。


 「君がキャットソルジャーかい?」

 「はい。ライオス様より言伝があり、参上致しました」

 「ライオスって、あの魔獣王の?」

 「はい。「暁の森」の戦士です」


 なんで魔獣王が?

 後日こっちから行く予定だったのに、向こうでも何かあったのかな?


 「それで、どうしたの?」

 「はい。お前の力を見せてみろ。とだけ伝えろと言われました。それと森への案内も任されております」


 お前の力を見せてみろ?

 てことはライオスは僕の存在を知ってるんだね。

 誰が教えたんだろう……ってウィンディか?


 「ウィンディ、さっきいなかったのはこういうこと?」

 「……はい。御察しの通りかと」


 やっぱりか。

 でも早めに事を進めてくれたんだね。


 「ありがとね。助かったよ」


 僕がそう囁くと、ウィンディは少し驚いた顔をしていた。

 知らないふりを突き通すつもりだったのかな……


 「それで、「暁の森」で何かあったのかな?」

 「それは……後ほど説明いたします。ライオス様はそれをお望みですので」

 「ん? まぁいいか。で、今から行くことになるのかな?」

 「出来ればそうしていただきたいです。ご都合はよろしいですか?」

 「ああ。多少時間は遅くなっても大丈夫だとは思うし。魔族のピンチみたいだからね。急いで向かうとするよ」

 「精霊様のお話は本当だったのですね……いえ。ありがとうございます。それと、出来れば幻獣様もご一緒願いたいのですが……」


 フレイヤ? 確かライオスと知り合いだって言ってたよね。

 だったら連れて行った方が色々と楽かな?

 となるとイツビは……


 「イツビは留守番でもいい?」


 後ろからついてきていたイツビに問いかける。


 「えー。でもいいよ。ツクモの迷惑になっちゃうんでしょ?」

 「もしかしたら、だけどね。でも助かるよ」


 そしたらフレイヤとウィンディだけ連れて行くか。

 にしても魔獣王と今から戦うのか。

 せめて後2日は欲しいところだったな。


 「じゃあフレイヤとウィンディ、ついて来てくれる?」

 「もちろんでございます」

 「わかりました」


 「じゃあ、キャットソルジャーさん。案内お願いできる?」

 「はっ。では参りましょう」


 ◇◇◇


 「序のダンジョン」の北東に位置する「暁の森」。

 この森は「霜月の森」と違って荒々しい雰囲気を醸し出している。

 流石は矛である魔獣王が管理している森なだけはあるね。

 そして魔力の量も桁違いだ。

 微かではあるが、所々に魔物や魔獣の気配がする。

 ほんの3キロほどダンジョンから離れただけで、これほどの魔族が生息できているのは、真魔獣王に最も近い魔獣王の存在のおかげだろう。

 深部に近づくに連れて、巨大な「魔」の魔力が増大して行くのが感じられる。

 単純な魔力量なら今のフレイヤと同等かそれ以上だろうか?


 「そろそろ到着です。いきなりは襲ってこないのでご安心を」

 「そうか。わかったよ」


 どうやら対話を求められているらしい。

 でも最終的には戦闘になるんだろうけど。


 森の最深部に着くと、15メートルほどの巨大な怪物が待ち受けていた。

 いや、これが魔獣王なんだろう。

 歴戦の雰囲気だ。


 「貴様が幻獣の主人か?」


 禍々しい牙をむき出しにして問いかけてくる。

 きっと昨日辺りにあっていたらビビっていたかもしれない。

 フレイヤに色々聞いておいてよかった。


 「そうだけど、君がライオスかな?」

 「人間の分際で我と対話できるのか。どうやら噂は本当らしい」


 ウィンディは一体どんな話をしたんだ?

 過剰評価になってなければいいけど。

 

 「で、今日はなんの用で呼ばれたの?」

 「そこの猫が伝えた通りだ。お前の力が見てみたい。そこにいる精霊と幻獣を従えたその力を」


 フレイヤの姿を見て幻獣だってわかるのか。

 見た目だけだったら全く違うのに、すごいね。


 「戦う前に君に1つ問いたい」

 「なんだ?」

 「僕が勝ったら仲間になってくれるかな?」

 「仲間だと? 従者ではなくてか?」

 「実際には従者だけど、僕はその呼び方が嫌いだ。出来ればみんな対等な関係でいたいんだよ」


 するとライオスは大きな口で豪快に笑った。


 「なかなか面白い人間だ。あながち元神というのは嘘ではないのかもしれん」

 「だったら……」

 「だが、この森を守るものとして貴様の力を見極める。我に勝てたら付き従ってやらんでもないぞ?」

 「そう? じゃあ頑張ってみるよ。今日はいっぱい特訓したからね」

 「生意気な口をきく人間だ。興味深い。いいだろう。我も全力でいく。殺す気でこい」

 「もちろんだよ。どうやら僕は夢中になると止まらなくなる癖があるみたいだからね」


 なんだかすごいやる気が出てきたぞ。

 もし、この魔獣王が仲間になったらどんなに頼もしいだろうか。

 僕のお仕事が一気に進む。それに魔族のみんなをもっと救えるかもしれない。


 「では生命の危機だと判断した場合には私が止めさせて頂きます。よろしいですか?」

 「ああ、幻獣よ」

 「よろしく頼むね」


 フレイヤはいつでも冷静だ。

 こういう時も頼もしい。

 

 「じゃあいくよ!」

 「来い。全力でな!」


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