第17話:「暁の森」の戦士
とある森の深部。巨大な魔獣王が周りに生えている木々を根こそぎ倒していた。
「忌々しき人間どもめ。私利私欲のために我が森を荒らしに来るとは、いい度胸だ」
怒りをあらわにしているその魔獣王の名はライオス。
ウルイオンという狼とライオンを混ぜたような容姿をした獣。
その牙や爪は並の大剣よりも大きく、刀のように鋭利だ。
さらに2つに分かれた細い尻尾。それらは2属性の魔法を司っている。
何よりもその大きな体。全長15メートルほどはあるだろう。
その巨体が怒り狂って木々をなぎ倒しているのだ。
「ライオス様。怒りをお沈めください」
魔獣王の足元で一人の猫獣人のような見た目の女剣士が膝をつき、頭を下げた。
「キャットソルジャーか。森の周りを探り回っている人間どもはどうなっている?」
一時的に怒りを鎮める森の戦士。
だがその大きく鋭い目はキャットソルジャーを威圧し続けている。
「今のところは森の深部まで進行しようとする輩はいないようです。ですが1つご報告が……」
「なんだ? 早く言え」
「「霜月の森」の守護者が不在のようです」
「なんだと!? あの幻獣はこんな時に何をしているのだ?」
「それが……」
「それは私から説明するわ」
突如として現れた身長10センチほどの水色の羽衣を纏った少女。
湖の精霊がライオスの前に立ちはだかる。
「貴様は何者だ?」
「私はリアス湖の精霊よ。そう言えばわかるかしら?」
「な、精霊だと!? てっきり絶滅したと思っていたが……」
驚きのあまりその巨体でもう1本の木を不意に倒してしまうライオス。
そして巨大な目から鋭さが失われた。
「しかけてた、わね。でも寸前のところで実体に戻れたわ」
「少々信じがたいが、目の前の存在を見て信じぬわけにはいかないだろう」
「物分かりが早くて助かるわ。ちょっと気になって見に来て正解だったみたいね。周りにいる冒険者は一体どういうことなの?」
「分からぬ。今日突然現れおった」
「……なるほどね。あんたはそれでバタバタと木をなぎ倒してたのね。でもその慌て様、守護者としてどうなのかしら?」
精霊の少女、ウィンディが指をさしてライオスを説教する。
それに少し戸惑ってしまう森の戦士。一歩後ずさんでしまった。
「そうであるな。我としたことが取り乱したようだ」
「それはいいとして、「霜月の森」の守護者のことよね?」
「ああ、教えてくれ」
「あそこにいた幻獣、いえフレイヤは私の主人の従者になったわ。異世界から来た元神様の人間よ」
ライオスはあっけにとられたような表情を浮かべた。
だが現状をいまいち理解出来ていない様子のようだ。
「では幻獣は今どこにいる?」
「今は「序のダンジョン」にいるわよ。私の主人があそこを復活させようとしてるわ」
「人間がだと!? それは理解出来ぬ話だ。それに幻獣はなぜそいつに付き従っている?」
「それは私の主人が「神」の性質の持ち主だからよ。それにちゃんと力もあるわ」
「「神」!? それはもう滅ぼされたはずじゃ……」
「だから言ったでしょ。異世界から来た元神様だって。私だって信じられなかったけど、こうして私を現出させる力を持っていたんだもの。疑いようがないわ」
ライオスは終始驚きを隠せずにいた。
だが未だ、話を半信半疑で聞いている。
「だが我は貴様を信じきれていない。いくら精霊だとしても我よりも強力な力無くして権力なし。証拠を持ってこい」
「めんどくさいわねー。あ、後、私はあの冒険者たちの正体わかるけど、知りたい?」
「なに!? ならば教えていただきたい」
態度を一変して再び下手に出る。
その度に森が激しく振動し、木に止まっている鳥たちは勢いよく飛び立っていく。
「じゃあ、私の主人の従者になってくれる?」
「それは其奴の力次第だ。だが機会は与えてやらんこともない」
「そお? じゃあ冒険者達の正体が知りたくなったら「序のダンジョン」まで来て頂戴。別にこっちからここに来ても構わないから、好きな時に連絡よこして。じゃあ私は行くわね」
そう言ってウィンディは姿を消した。
「精霊か。それに幻獣をもつき従える人間。興味深い」
「いかがなさいますか?」
「少し待て。今はこの森のことが最優先である。弱き魔物たちを深部周辺まで集めろ。そして人間どもの監視も怠るな。夜になったら「序のダンジョン」へ行ってくれ。そしてこう伝えろ。お前の力を見せてみろ、とな」
昼下がりの「暁の森」、その最深部で圧倒的な強さを誇っている魔獣王はこれからやってくるであろう
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