第16話:魔人との戦闘訓練
ウォルが訓練所を建築し終えるまで、みんなでフレイヤの部屋でくつろいでいた。
「ねぇ、フレイヤ。ダンジョンっていくつあるの?」
「私の知る限りでは7つです。この大陸の外のことは知りませんが、この大陸には7つあるはずですよ?」
アンナさんに見せてもらった世界地図には大したことは記載されてなかったから基本的に何もわかっていない。
こういうことは魔族のほうがよく教えてくれるものだ。
「この「序のダンジョン」もそのうちの1つな訳だよね」
「そうですね。でも機能していないダンジョンが大半です。ここもその1つなんですよね?」
「うん。ダンジョンの主がいないらしいんだ。でもどうやったらその主を探せるのかもわからないし……」
「それならツクモ様がダンジョンの主になられてはどうですか?」
「え、僕!?」
そういえば前にウォルが僕のことをダンジョンの主になられるお方、って呼んでたな。
でも具体的にどうやるんだろう?
「はい。ダンジョンの主というのは所謂魔族を従える者のことです。元々はダンジョンの核となる強力な魔族がいるはずなんですけど、討伐されてしまいますともう復活はいたしません。なので代わりに魔王など配下の多い魔族が派遣されてくる訳です」
「ダンジョンが機能しないってのはそんなに悪いことなんだ?」
「そうですね。魔界から魔王が派遣されるくらいですから、重要なことだと思いますよ」
確かにそうだな。
でも今は魔王の数がかなり減っているみたいだし、代わりの主を派遣できないんだろう。
まだ残ってるダンジョンもあるみたいだし、なるべく早く手を回さないとな。
「じゃあ僕はダンジョンの主を目指すよ。でもずっと地下にいるわけにはいかないし、森とかもちゃんと機能させたほうがいいんだよね?」
「出来るならそうですね。ですがダンジョンが機能すれば森などにも魔物や魔獣が自然発生するようになりますよ?」
「え!? それはなんで?」
「ダンジョンは元々「魔」の魔力の流れの源ですからね。この「序のダンジョン」は私がいた「霜月の森」へと直結しています。ですが魔族が自然発生するとなると、その地域も守護するのがダンジョンの主の役目となります」
責任重大だ。
でも、元々魔族全体を救うつもりでアスカルシスに派遣されてきたわけだし、このくらいで怖じ気付いちゃいけないな。
「分かった。それも踏まえてダンジョンの主を目指すよ」
「やはりツクモ様は頼もしいですね」
フレイヤが優しく微笑みかけてくれる。
イツビが懐くのもわかるなぁ〜。
◇◇◇
「こんな感じでいいでやんすか?」
「おお! 十分すぎるよ!」
通路の一番奥に広がる大広間。
その空間がまるでギルドの訓練所のようになっていた。
短時間でここまで仕上げられるなんて、やはりウォルはすごい。
「そうでやんすか? それなら良かったでやんすよ」
「うん。ありがとね」
そしてフレイヤと一緒にイツビがやってきた。
「ここで訓練? するの?」
「そうだよ。準備とかは大丈夫?」
「うん! ちゃんと訓練するよ!」
そう言うと、イツビはフレイヤから離れて僕の目の前に立った。
やる気満々だ。
「じゃあとにかくなんでもありの勝負にしてみようか? 出来る限り実戦に近いほうがいいし」
「分かった! でもいつ終わりにするの?」
勝敗か、下手に怪我してもあれだしな……
「フレイヤ、判断頼めるかな? 僕たちが怪我しない程度に勝敗決められる?」
「はい。お任せください。ですがイツビさんには「
「分かった。その辺のことは任せるよ。とにかくイツビに怪我がないようにお願い。僕は自分で出来るから」
「了解致しました。お任せください」
フレイヤが丁寧に頭を下げる。
僕は戦闘経験がほぼないからこういう時にフレイヤのような人がいると助かる。
今はとにかく全力で戦ってみたい。
「じゃあ早速始めようか?」
「分かったよ! 「
「うん。もちろんだよ。僕を倒すつもりでやってみてくれ」
「分かったー!」
無邪気な笑顔とは裏腹に、両手に現れるのは紫炎を纏う刀。
そして5つの尻尾には鬼火のような紫の炎が灯る。
どうやら全力のようだ。
「では始めてください」
フレイヤからの合図がかかる。
すると開始地点から思いっきり地を蹴って前進するイツビ。
先手を打たれた。少し気が抜けてたかもしれない。
対抗手段として、遅れて「
「神隠し」
視界からイツビが消えた。
いや落ち着け、これはもうわかりきっているはずだ。
「
瞬時に現れるイツビ。
だが彼女はもう僕に向かって「
「っ「岩肌」!」
左手を硬化し、「
だが紫炎が僕の左手を少し焼いた。
すかさず回復魔法を無詠唱で使用する。
そして反撃の体勢。
幻影刀が僕の左手に止められて一瞬隙ができたイツビの右腹部に向け、「身体強化」によって強化されている蹴りを繰り出す。
「おっと、危ない危ない」
躱されたか。
というよりは当たったはずだけど当たらなかった。
何かしら「
流石は妖術の使い手だね。
「まだまだ行くよ!」
やっぱり全然乗り気じゃないか。
地面に着地したイツビが再度走りこんでくる。
「
そして僕も左手に
手数で劣るのはまずい。
「神隠し!」
イツビが再度「神隠し」を発動した。
僕も「
そしてイツビが目の前に……っていない!?
どこだ? どこに行った?
「これで私の勝ちだね!」
右脇腹の下あたりからイツビの声がする。
潜り込まれたのか!?
素早く右手に握った「
「身体強化」のおかげで反射神経は常人のそれを優に超えている。
青と紫の刀が交じり合い、カキンッとまるで金属の刃がぶつかりあったような音が訓練所に鳴り響いた。
「まだまだ!」
イツビがもう片方の手に握った「
だけど僕の左手にある「
そこで無詠唱で「
「え!?」
自身の左側から突如として現れた水槌に打たれ身体を飛ばされて驚いているイツビ。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
「今度はこっちから行くよ」
全力で地面を蹴って加速する。
思った以上にスピードが出て驚いたが、イツビとの間合いは一瞬で詰められた。
周辺に「
「ごめんねイツビ、僕の勝ちだ」
宙に発生させていた
「え、ちょっと、ちょっとタイム!」
「そこまでです!」
全ての攻撃がイツビに直撃する瞬間、フレイヤが止めの合図を出した。
夢中になってて気づかなかったが、今のは殺気を込めていたんだろう。
イツビが少し涙目になって震えている。
「ごめんねイツビ。夢中になってたみたいだ」
「だ、大丈夫だよ! 最後のはちょっと怖かったけど、楽しかったから!」
やっぱ怖かったんだね。悪いことしたな。
でも自分が結構動けることは分かったぞ。
やはり操作系のスキルがあると戦いが楽になる。
相手に悟られないで発動できるからね。
「お疲れ様です、2人とも。ツクモ様はお強いのですね」
「自分でも思ってた以上に動けたよ。これもスキルを貸してくれてるみんなのおかげだね」
動けたけど、これは完全にスキルのおかげなんだよね。
「でも、それをきちんと使いこなせるのはすごいと思いますよ?」
「そ、そうかな?」
普通に褒められるのはどうやらまだ慣れていないようだ。
照れてしまう。
「イツビさんも頑張りましたね。ダンジョンの主となられるお方にここまで応戦できれば十分ですよ?」
「本当に!? 私強かった?」
「はい。もう少し鍛えれば魔王への進化も夢じゃないですね」
「え!? 魔王!? 私が?」
「はい。素質は十分ですよ。スキルレベルや基本的なレベルを上げれば自然と体内の魔力が上がっていきますからね。そうすれば近いうちには魔王に進化です」
そんな仕組みだったのか。
だから僕にはレベルがないのかもしれない。
人間は進化できないからね。
そう考えると魔族のほうが優秀だよな。
「じゃあもっと頑張る! ツクモ、もう一回やろ?」
「もう一回!? 少し休憩しない?」
「じゃあ私が相手しましょうか?」
ウィンディが突然現れた。
そういえばいなかったけど、どこに行ってたんだろう?
「ウィンディが? いいよ! じゃあ訓練だ!」
「ツクモさんは休憩しててください。私がイツビちゃんの相手しますので」
「うん。ありがとね」
こうして僕の最初の戦闘訓練が終わった。
今日は一日技を磨くことに費やそうかな?
ウォルが集めてくれた鉱石がたくさんあるから、冒険者として行動しなくていい分、時間もたくさんあるからね。
魔獣王に余裕で勝てるようになるまで訓練をしないと。
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