第14話:付喪神の覚悟

 「序のダンジョン」へと帰還する道のりで、フレイヤから「守護魔法」の魔法名を教えてもらった。

 さっき言っていた明かりを灯すレベル1の魔法、「小光ライト」。

 レベル3では「防御強化プロテクション」、対象の防御力をあげる身体強化系魔法の一種のようだ。重ねがけはできないらしい。

 レベル5では「特殊回復キュア」、状態異常を治す魔法らしい。

 因みに回復魔法では状態異常は直せないんだとか。

 レベル7では「聖光ホーリー」、守護魔法唯一の攻撃系魔法らしい。

 レベル9では「解除アンロック」、結界や幻術を解除するため魔法。

 レベル11では「範囲防御強化エリアプロテクション」、半径50メートル以内の対象者に「防御強化プロテクション」と同じ効果を与えるらしい。

 レベル13では「聖域セイクリッドフィールド」、これは広範囲の結界だそうだ。因みに僕が使っても大した効果はないらしく、フレイヤが使うと森で使っていたような現象が起きるんだとか。 パッシブスキルの影響をかなり受けているみたいだ。

 そしてレベル15では「聖軍セイクリッドアーミー」、自軍のすべての仲間に効果がある最強の身体強化魔法らしい。でも僕たちは使えない。残念だ。


 話をしながらゆっくりとダンジョンに戻った。

 でもこの辺りを通る他の冒険者は一切いなかった。

 それほど魅力のない場所となってしまっているのだろう。


 時刻は間も無く夕暮れ。

 案外時間がかかった森の探索だったようだ。

 イツビとウィンディはフレイヤと仲良さげに話をしている。

 ちゃんとみんなに馴染めているようで安心だ。


 そんなこんなでダンジョン深層部に到着。

 いつものごとく、誰も訪れない「序のダンジョン」。

 でも魔族が増えるとダンジョン内の「魔」の魔力量が格段に増える。

 すると魔物が自然発生してくれるんだけど、そうなるとまた人間の狩場となってしまう。

 だから慎重に作業を進めないといけない。


 ◇◇◇



 「ここがお家だよ! すごいでしょ!」

 「そうですね。ダンジョンの中に魔族の隠れ家があったとは思いもしませんでしたよ」

 「ツクモさんが昨日から作り始めたからね。知らないのも無理ないわよ」


 やはり仲のいい3人。

 こうして見ているとフレイヤが2人のお母さんみたいだな。


 「フレイヤも今日からここで暮らしてもらうけど、大丈夫そう?」

 「はい。ここは人間が訪れなさそうなので森よりも快適だと思います」

 「あ、ウォル! こっち来て! 新しい仲間が増えたよ!」


 イツビは作業で忙しそうなウォルを引き止めた。

 この子はいつでも明るいね。


 「ど、どうもでやんす」

 「私はフレイヤと申します。よろしくお願いしますね、ウォルさん」

 「こ、こちらこそ。こんなに綺麗なお方が来てくれて嬉しいでやんすよ」


 ウォルは少し赤面している。

 口のうまい彼でもフレイヤさんみたいな大人の女性には耐性ないのかな?


 「まぁ。ありがとうございます」

 「い、いえいえでやんす」


 ウォルくんが恥ずかしがって後頭部を掻いてるな。

 その度に小さい岩が落ちてきて少し面白い。


 「ウォル、いきなりで悪いんだけどフレイヤの部屋も作ってくれないかな?」

 「それなら安心してくださいでやんす! 今日出かけたから誰か新しい仲間が来るかと思って2つ新しい部屋を作っておいたでやんすよ」

 「ほんとに!? 随分と頑張ってくれたみたいで悪かったね」

 「そんな。おいらの恩返しみたいなもんでやんす」

 「ツクモ様は皆様に愛されてらっしゃるのですね」


 僕たちのやり取りを見て微笑むフレイヤ。

 なんだかとても安心するよね。


 「じゃあその2つのうち1つをフレイヤに使ってもらおう。そういえばフレイヤは何を食べるの?」

 「私は草木があれば自然にエネルギーを吸収できます。自然のものにも少なからず魔力が流れていますからね」


 魔族はみんな特殊な方法で栄養分を摂取するみたいだな。

 イツビは普通にお肉好きみたいだけど。


 「じゃあ何か植えたりした方がいいのかな?」

 「いえいえ。ご心配なく。私は自分で環境を作れますので」

 「え? どういうこと?」

 「ツクモ様は先ほどご覧になったでしょう? あの草原は実体ですよ」


 草原っていうと森の中で見たやつか。

 普通に幻術かと思ってたけど、結界だけ施して中は本物だったのか。

 となるとかなりすごいんだね、幻獣って。


 「ここでもできるんだ?」

 「はい。もちろんです。なのでお部屋の1つをその空間に変えてしまってもよろしいでしょうか?」

 「全然構わないけど、興味あるから見せてくれない?」

 「いいですよ。一瞬なので見てても面白くないかもしれませんけどね」


 早速ウォルくんが新しい部屋に案内してくれた。

 僕とイツビの部屋と変わらないような大きさの個人部屋。

 その中心にフレイヤが立って、僕たちは部屋の外から様子を見ている。


 「ではいきますよ。「聖域セイクリッドフィールド」」


 優しい声色が部屋に響き渡る。

 すると瞬時に部屋の中に木々や草原が現れた。

 木から垂れ下がる蔦、その先に椅子のようなものが付いている。

 まるで自然のブランコのようだ。

 もともと岩で出来ていたベッドが柔らかそうな植物に覆われてふかふかのベッドになっている。

 さっきまで岩だらけだった空間がまるで一新した。


 「これはすごいね。「聖域セイクリッドフィールド」にこんな効果があるなんて」

 「これは私特有の技能ですけどね。普通に使うと広範囲で呪いが浄化されるだけですよ」


 「フレイヤ! 私の部屋もやって!」

 「いいですよ。では参りましょうか?」

 「やったー! これでふかふかベッドだ!」


 イツビがフレイヤの手を引いて自室へと向かった。

 さすがは「聖域の守護者」だね。この岩だらけのダンジョンも華やかになってくれる日が来るかもな。

 

 「ツクモ様。頼まれてた鉱石でやんす。これで足りるでやんすか?」


 ウォルがジャラジャラと音を立てている大きな袋を持ってきた。


 「こんなに集めてくれたの!?」


 その袋は昨日集めたものの10倍程度はあるだろうか?

 単純計算でも銀貨150枚、つまり金貨1.5枚分だ。

 多分石ころ級冒険者が一日で稼げる量じゃないよな……


 「はいでやんす! みんな張り切って集めやした」

 「じゃあその10分の1くらいを今日はもらっていくことにするよ。あんまり多くても怪しまれちゃうからね」

 「そういえば、ツクモ様はなんで冒険者をやられてるでやんすか?」


 ウォルには話してなかったっけ。

 あとでフレイヤにも話とかないと語弊が生まれるかもな。


 「情報収集のためだね。人間側の情報は冒険者が一番集めやすそうだから、何かあった時に便利でしょ?」

 「なるほど。それは賢いでやんすね。さすがはツクモ様でやんす!」

 「あ、ありがとね」


 ここ二日で僕の神生300年分より褒められてる気がするよ。

 異世界転勤も悪くないね。


 「ツクモさん。もうそろそろ街に戻った方がいいんじゃないですか? また盗賊に襲われても面倒ですし」

 「そうだね、じゃあフレイヤに説明してから出発するとしようか」


 その後フレイヤにも同じように説明をして、ダンジョンを後にした。

 にしてもイツビはずっとフレイヤにべったりだ。

 もしかしたらママが恋しかったのかもしれないな……

 

 ◇◇◇

 

 「小光ライト


 早速今日教えてもらった守護魔法を発動する。

 これなら暗がりでもかなり視界が開ける。


 「その魔法はかなり明るいんですね」

 「僕もちょっとびっくりだよ。蝋燭くらいの灯だとばかり思ってたからね」


 その光は地球にあった懐中電灯よりも明るかった。

 僕たちの周りだけ昼間みたいな感覚だ。

 でも街に近づいたら消さなきゃいけない。

 一応水魔法しか使えないことになってるからね。


 「これだけ明るいとさすがに襲われなさそうだよね?」

 「気配は感じないので、今日は大丈夫でしょう」


 ウィンディがそう言うなら安心だ。

 今日は真っ直ぐ帰れそうだね。

 宿に着いたら魔法の練習でもしてみようかな。

 火魔法とか雷魔法もちゃんと使えた方が便利そうだし。


 ◇◇◇


 「はい、じゃあ銀貨3枚ちょうどね。今日もゆっくりしていってちょうだいね」

 「ありがとうございます」


 宿に着いてベッドに身を投げる。

 今日も1日よく働いた。

 ウォルに集めてもらった鉱石は昨日と同じ銀貨15枚になったし、ポイントもあと40くらいだ。

 このままいけば後1週間もしないで鉱石級になれる。

 そうすればちゃんとした資格を持って活動が広げられる。

 無理やり進めることもできそうだけど、先のこと考えるとちゃんと人間に認められるような資格を持っていた方がやりやすそうだ。


 そしたら魔法の練習でもするかな。

 まずは雷魔法か。確か魔法名は……


 「小雷リトルサンダ


 ビリッと手の先から小さな雷筋が発生する。

 どうやらかなり弱い電気のようだ。

 次は火魔法だけど、これは出せる魔法が一個もないんだよね。

 一番習得が難しい魔法なのかもしれないな。

 でもイツビから借りてる「火操作」があるからなんとかなってる。

 まずは「鬼火」を出してそれを火操作で操る練習だ。

 「水槌ウォーターハンマー」のように打撃が繰り出せる攻撃魔法が欲しいところだよね。

 刀の形だと出血で殺してしまうことが多そうだし。

 

 「さっきから何をしてるんですか?」

 「魔法の練習だよ。スキルレベルは自分でも上げられるんでしょ?」

 「はい。でもツクモさんの場合は魔族から借りた方が早いんじゃないでしょうか?」

 「まぁその通りなんだけどさ。ちゃんと練習しとかないと意外と使いこなせないもんなんだよね」


 覚えていても使い物にならない。なんてことはよくある。

 この前の盗賊との戦闘でももっと戦いの幅があったはずなのに、最後は「水球ウォーターボール」を乱射して終わってしまった。

 あれは隙しか作らないもんな。

 って僕は意外と戦闘を理解できてるのかもしれない。

 なんだか勝手に頭に思い浮かんでくるんだよね。

 

 「1つ気になってることがあるんですが、よろしいですか?」

 「うん? なに?」

 「もしも。もしもですよ。人間がイツビちゃんやフレイヤさんを襲ったらどうしますか?」

 「そりゃ、撃退するよ」

 「……殺さないんですか?」


 確かに。僕は人間を殺さないのか?

 もしもみんなが危険な目にあってたらどうする?

 きっと向こうが何もしてこなかったらこっちから攻める気は毛頭ない。

 だけど、人間が襲ってきたら……僕は人間を殺めるかもしれない。

 さすがの僕でも血が流れずに全てが解決するとは思ってはいなかった。

 

 それが理想であっても、その理想のために仲間や守るべき対象を危険に晒すわけにはいかない。

 だから僕は人間を殺すかもしれない。

 たとえそれが、神からの天罰と呼べるほど綺麗なものじゃないとしても。


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