第13話:「霜月の森」の守護者

 「序のダンジョン」の南東、そこには広大な面積を誇る森があった。

 その森の名は「霜月の森」。今回の目的である一角兎ホーンラビットが生息しているらしい場所だ。

 イツビを発見した時のように、もしかしたら生き残りがいるんじゃないかと思う。

 それだったら是非とも仲間になってもらいたい。


 「これが森?」

 「そうだよ。木がいっぱい生えてるだろ?」

 「すごいね! こんなの初めて見たよ!」


 何を見てもはしゃぐイツビ。

 こういう顔を見れると、連れてきてよかったと思える。


 「ここにもあまり魔力は残ってないようですね?」

 「そんな感じがするね。木々は生い茂ってるけど、魔族はいないような感じだ」


 魔族は本当に狩つくされているようだ。

 ギルドマスターの言葉が正しければ街の西側にはまだ残ってるみたいだけど、それも本当かどうか怪しい。


 「とにかく探してみようか。きっと探せば見つかるさ!」

 「そうですね。頑張りましょう」


 3人で森の中へと入っていく。

 地球の森は不気味だという印象があったけど、この森はなんだか神聖な感じがするな。

 一角兎ホーンラビットの角がポーションに使われるくらいだから回復系統の魔族が住んでいるのかもしれない。


 「この辺りはいっぱい動物がいるね!」

 「そうだね。魔族はいないのに動物はいっぱいいる」

 「森の入り口付近にはあまりいなかったような気がしましたが、気のせいでしょうか?」


 確かにその通りだ。

 今は森に入って結構深いところまできた。

 でもここまであまり動物には遭遇しなかったのに、このあたりに来て一気に数が増えた。


 「何かに群がってるとか?」

 「餌があるんじゃないでしょうか? 美味しい草とか」


 それはありえるな。

 動物はそういうことに敏感だと聞いたことがある。


 「見て! あの草少し光ってるよ!」

 「どこだ?」

 「あそこだよ、あそこ! あの二本の木の間あたりの茂みが光ってる」

 「なんでしょうね? でも微かに魔力を感じます」


 僕は何も感じないなぁ。

 でも確かに光ってはいるんだよな。


 「動物があそこに向かって集まってるよ?」

 「本当だ。どうやら何かあるみたいだな。ウィンディ、ちょっと見てきてくれるか?」

 「分かりました」


 いつものように姿を消す。

 ウォンディがガサガサっと草木をかき分ける音がした後に、光はより一層強くなった。


 「うわっ、なんだ?」

 「ツクモさん! 幻術の類みたいです! 今私の魔力に反応しました」

 

 幻術? 秘密基地の扉を隠してるやつみたいなのか。

 そういえば幻術ってどうやって解くんだろう?


 「イツビ、幻術ってどうやって解くんだ?」

 「ん? 妖術だったら同じかそれ以上のレベルの妖術の魔力を流せば消えるよ?」

 「あれも妖術なのかな?」

 「あんなのは見たことないから違うんじゃない?」


 ウィンディが近づいたら何やら反応したみたいだよな。

 確かどの魔法を使うにしても自分の性質に影響されるんだよね?

 だとするとウィンディは「魔」だけど精霊の魔力だから少し違うわけで……


 「じゃあ僕がやってみるよ。もしかしたら破れるかもしれない」

 

 早速「妖術」の魔力を作り出す。

 そして自分の中にある「神」の性質を上乗せするような感じで……

 

 「うわっ」


 目の前が光でいっぱいになった。

 眩しすぎる光量にかなわず目を閉じてしまう。


 「何が起きた……」

 「解けたみたいですよ!」


 解けた? 何が……って、これはすごい。

 目の前に広がるのは先ほどと違う景色。

 森の中に突如として草原が現れた。


 「草原……?」

 「でも後ろは森のままですよ?」


 後ろを振り返ってみる。

 ウィンディの言う通り後ろは「霜月の森」だ。

 と言うよりはこの草原が森の中心に現れたと表現した方が適切かもしれない。


 「すごーい! あれって幻獣だよね!? ママから聞いたことあるよ!」

 「幻獣?」


 そう言われて視線を前に戻す。

 するとまるでユニコーンのような見た目をした馬が1頭草原にいた。

 

 「あれは……魔族なの?」

 「幻獣は魔獣の一種です。ただ格は違いますが……」


 あんな神秘的な容姿なのに魔獣に区別されるのか。

 一角兎ホーンラビットを探しに来たのに、もっとすごい魔族に出会えたのかもしれない。


 「あなた達は何者ですか?」


 ユニコーンのような幻獣が問いかけてくる。

 なんて綺麗な声なんだろうか。

 まるでフレイヤ様のような落ち着いた声だ。


 「ぼ、僕はあなたを狩りに来たわけではありません……」

 何を言ってるんだ、僕は。

 ますます怪しいじゃないか。


 「私の言葉が通じている!? ですが人間ですよね? 今すぐ立ち去れば命は助けましょう」

 怒らせてしまったみたいだ。

 ここはどうすればいい?

 今までうまく行きすぎてこんな時にどうすればいいのか全くわかんない。


 「ツクモは悪い人間じゃないよ! 私が保証する!」

 「あなたは……魔人ですか?」

 「そうよ! エリートフォックスのイツビです!」


 イツビは隠してた耳と5つの尻尾を表出させた。

 するとユニコーンのような魔獣は少し驚いた顔をする。


 「魔人が、人間と!? するとそこの小さいお方も魔族ですか?」

 「私は精霊よ。ここにいる人間は人間じゃないわ。私たちの主人ね」


 2人が僕を庇ってくれてるようだ。

 身長140センチと10センチの少女に助けられてばかりで情けない。


 「精霊様ですか! これは失礼致しました。ですがここの結界を破れるわけではありませんよね?」

 「それをやったのは私じゃなくて、ここにいるツクモさんよ。「神」の性質を持ってるの」

 「「神」!? それはもう滅ぼされたはずじゃ……」

 「説明は後でするから、とにかく警戒をやめてくれないかしら?」

 「は、はい。もちろんでございます」


 終始強気だったウィンディに押されて頭を下げ始めた幻獣。

 やはり精霊は偉大なようだ。


 「急に押しかけてごめんね。今、一角兎ホーンラビットを探してたんだ。そしたら幻術を見つけたから好奇心で破ってしまって……」

 「いえいえ。お気になさらず。「神」の性質を持っている者は幻獣の使えるべきお方なので」

 「神」の性質はかなり珍しいようだ。

 元々神様だったから、とかしか思ってなかったけど、どうやら何か特別らしい。

 「それで、君の種族名はなんなの?」

 「私はホワイトホースです。人間はユニコーンと呼びますが」


 少し違ったみたいだけど、確かにホワイトホースだな。

 全身が真っ白だし、神秘的だし。


 「そうなんだ。で、僕が君の言葉を分かるんで驚いてたよね?」

 「それはもちろん。魔族の言葉を理解する人間は少ないです。特に魔物や魔獣などは全く違う言語で意思の疎通を行いますので」


 どうやらイツビはそれを知らずに僕と話してたようだ。

 今かなり驚いた顔をしている。

 にしても綺麗な声だ。優しく包み込まれるような気分になる。


 「ホワイトホースさんは綺麗な声をしてるね」

 「そ、そうですか? そう言っていただけて嬉しいです」


 ホワイトホースは深々と頭を下げた。

 そんなに丁寧じゃなくてもいいのになぁ。


 「それで、一角兎ホーンラビットがいるかどうか聞いてもいいかな?」

 「それは……もうこの森にはいませんね」

 「それは狩り尽くされちゃったの?」

 「はい。辛うじて生き延びた数体はここよりも安全な「暁の森」に移動させました。あそこには魔獣王がいるので」


 魔獣王は案外いろんなところにいるみたいだ。

 でも一角兎ホーンラビットがいないのか……

 これだと回復魔法が覚えられないかも知れないな。


 「そうなんだ……ちなみに一角兎ホーンラビットは回復魔法使えたりするの?」

 「はい。あの子達はそれだけしかできないです。それ故に簡単に狩られてしまうのですよ……」


 あの子達、か。

 きっとホワイトホースは一角兎ホーンラビットの親のような役割をしていたんだろうなぁ。

 子供が私利私欲のために殺されていくなんて、僕には想像もできないほど辛いだろうに。

 どうにかして生き残った子達を助けてあげたいな。


 「因みに私も回復魔法は使えます。それにこの森全体に張った結界も私のスキルです」

 「え、そうなの? じゃあ1つ頼みたいことがあるんだけどさ」

 「何でしょうか?」

 「僕の仲間になってくれない?」


 僕は右手をホワイトホースに向かって差し伸べた。

 こうやってちゃんと頼むのは初めてかも知れない。

 でも大切なことだ。魔族のみんなに嫌々仲間になってもらうことなんてできない。

 まだ二日しか経ってないけど、魔族の子達がみんな優しさや思い出を持って生きてきたことがわかる。

 イツビのママも僕がもっと早くアスカルシスに来ていれば救えたかも知れない。

 でもそんなことは考えちゃダメだ。今はできる限りの命を守る。

 そのために僕は強くなって、魔族の子達も同時に強くする。


 「もちろんです。私からもお願いいたします」


 まるで優しい母のような声で返事をしてくれた。

 僕はホワイトホースが守りきれなかった一角兎ホーンラビットたちと他の魔族を守りたい。


 「僕の従者になっちゃうけど、いいかな?」

 「大丈夫です。元々幻獣とは神に仕える運命の元に生まれてきたのですから」


 その返事を聞いて僕はホワイトホースへと近づく。

 そしていつものように右手を発光させる。

 使う魔法は「生命授与」。

 僕と魔族を繋いでくれる固有魔法。


 「何度見ても幻想的ですね」


 ウィンディが呟く。

 体全体が光に包まれ、数秒のうちに儚く消えていく。

 そして現れたのは人型の魔族。

 額に二本の角を生やした銀色の長髪の美しい女性。

 豊満な胸に白いローブのような服を纏った美しい長身の女性。

 

 「体は大丈夫そうかな?」

 「これが……私ですか?」

 「そうだよ。君は進化した。名前を付けてもいいかな?」

 「はい。もちろんでございます」


 変わらずの綺麗で優しい声。

 今回はちゃんとした名前をつけようと心に決めている。

 でもそう言ってもなかなか思いつかないのが現実だ。

 でも、どことなくフレイヤ様に似てるから……


 「じゃあ君の名前はフレイヤ……」


 ウィンディの次に強烈な頭痛に襲われた。

 さすがは幻獣といったところかな?


 「良いお名前をくださって、ありがとうございます。ツクモ様」

 

 笑いかけてくれたフレイヤの顔を見るといつものようにステータスが頭に浮かんでくる。


個体名:フレイヤ(魔人:幻獣) レベル25 MP280

種族名:ホワイトエンジェリア  


性質:魔


スキル:身体強化レベル3、回復魔法レベル13、守護魔法レベル12、

    治癒操作レベル10

パッシブスキル:回復師、聖域の守護者、主従(従)


 なんだかかなり優秀じゃないか?

 完全に回復やサポート専門のようだけど、身体強化もあるし。

 それに「聖域の守護者」っていうのも気になる。

 僕のステータスも確認してみよう。


性質:神


スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル 3、風魔法レベル1、

    氷魔法レベル1、雷魔法レベル1、土魔法レベル2、

回復魔法レベル13、守護魔法レベル12、治癒操作レベル10

    水操作レベルMAX、火操作レベル3、土操作レベル1、

    身体強化レベル8、妖術レベル8、岩肌レベル2


固有スキル:生命授与


パッシブスキル:スキル借用、異種間交流、主従(主)


 結構増えてきたよね。

 今のステータスだとほぼオールラウンダーって感じかな?

 これもみんなのおかげだね。


 「フレイヤはこの森から出られるの?」

 「はい。大丈夫です。きっとツクモ様なら近いうちにこの森を豊かにしてくださるんでしょ?」

 「そのつもりではいるけど、どうなるかは曖昧だね。フレイヤが平気なら「序のダンジョン」に移動してもらいたいんだけど、平気かな?」

 「分かりました。ではこの空間はもう用済みですね」


 フレイヤがそう言うと周りの草原が一瞬にして消えた。

 それにしてもフレイヤだけ進化した後に服を着ていたな?

 もしかしたら服じゃないかも知れないけど……

 まぁその辺は触れないでおこう。


 「じゃあ移動しようか。もうそろそろ日が暮れそうだしね」

 「暗くても守護魔法の「小光ライト」を使えば大丈夫ですよ?」

 「え!? そんな魔法があるの?」

 「はい。ツクモ様も守護魔法は使えるんですよね?」

 「どうしてそれを……」

 「昔、先代の幻獣が使えていた神様も似たような能力をお持ちだったと聞いたことがあります。従者の能力を借りれるスキルがあると」


 そんな神様がいたのか。

 でも神様が全員滅ぼされるなんていったい何があったんだろうか?


 「その通りだよ。じゃあ話は早いや。帰り道で回復魔法と守護魔法を教えてくれる?」

 「もちろんですよ。ですが回復魔法は無詠唱で使用可能なので、死体ではない限りイメージ通りに回復できます。四肢が切断されると難しいですけどね」


 回復魔法も万能ではないみたいだな。

 でも魔法名を覚えなくていいのは助かる。

 今日も1人仲間を増やせてよかった。それも予想外の大物。

 帰ったらウォルにフレイヤの部屋を作ってもらわないと。

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