第11話:一角兎の噂
「こんなに美味しいとは思ってもみなかったよ」
僕たちは夕食を終えて部屋に戻っていた。
夕食は地球で食べていたものよりも豪華だった。
何かはわからないけど大きな肉。
果実酒のようなジュース。
それにパンは食べ放題。
スープの味付けも美味しかった。
こんなに豪華な食事が付いて一泊銀貨3枚なんて、破格中の破格だよね。
ウィンディも水が美味しいと言っていたし、どれも高級な食材のようだった。
「そうですね。湖の水よりも美味しかったです」
湖か。確か魔獣王がいるんだよな。
「そういえば、湖に魔獣王がいるって言ってたけど、その子たちは安全なの?」
「大丈夫ですよ。湖の奥底で寝てるだけですから。よほどのことがない限りは安全です」
「へー。大人しいんだ?」
「そうですね。でも強いですよ? 今のツクモさんだと多分勝てません。私も精霊じゃなければいじめられちゃいます」
そんなに強いのか、魔獣王ってのは。
でもイツビは魔人だよね?
てことは僕よりイツビの方が強いのか?
「魔獣王って格付けでは魔人の下だったよね?」
「人間の裁量ではそうなってます。でも実際は曖昧ですね。確かに魔人の方が知恵は高いですから。危険度的には魔人の方がやや高いと思います」
なるほど。力的には変わらないのか。
「あと、魔獣王にもいくつかいますよ。確か湖にいるのは真魔獣王ですね。魔獣王から魔王に進化する前の段階です。魔人は一括りで魔人なんですけどね」
「じゃあ真魔獣王の方が魔人より強いんだ?」
「呼び方だけではなんともいえません。昔名を馳せていたとある魔人は一端の魔王よりも強力でした。ただもうこの世にはいないですけど」
魔族は奥が深い。
てことは階級名だけで強さを判断しちゃいけないわけか。
これは今後重要になりそうだ。
「そろそろ寝ようと思うけど、ウィンディも寝る?」
「私はそうですね……ツクモさんと一緒なら寝たいかもしれません」
「てことはベッドに入る?」
「……できるなら」
ベッドが濡れちゃいそうだ。
まぁ仕方ないか。
ウィンディもちゃんと意思を持った僕と変わらない存在なわけだし。
「じゃあ一緒に寝ようか。ついでに明かりを消してくれる?」
「ほんとですか! はい。消します消します!」
ウィンディは姿を空気中に消すと、ナイトデスクの上にあったロウソクの火を消した。
僕はベッドに横になり、すぐに冷たい水が僕の頬にかかる。
どうやら顔の近くで寝てるらしい。
「じゃあおやすみ。また明日もよろしくね、ウィンディ」
「はい! お休みなさい!」
人間の体はすごく疲れるみたいだ。
でも盗賊に襲われた時はちゃんと戦えてたし、きっと身体強化のスキルのおかげかな?
明日ギルドマスターに聞いてみよう。
◇◇◇
翌朝、僕は息苦しくて起きた。
息をしようとしても息ができない。
どうなってる!? 誰かが魔法を……ってウィンディか。
どうやら僕の顔の近くで寝すぎて体の一部が口や鼻に入ってるみたいだ。
地上で窒息しかけるなんて思ってもみなかったよ。
体を起こして顔を持ちあげる。
するとベッドの上にウィンディが落っこちた。
「んん、おはようございます」
「おはようウィンディ。よく眠れた?」
「はい。でも何かに食べられるような夢を見ました」
それは自業自得だ。
とてもじゃないが僕の口に入っていたなんていえない。
「ウィンディも案外疲れてるのかもしれないね」
「そうかもしれませんね」
ウィンディが少し笑った。
こういう笑顔を見ると異世界で1人じゃなくて本当によかったと思う。
「じゃあ朝ごはんを食べて早速買い物に行こうか?」
「そうですね! 色々買わないといけません」
身支度……って言っても服は今着ている和服しかない。
そういえばこの服を洗う方法がないとな……
あと、イツビに下着でも買って行ってやろう。
あの和服は幻術らしいから本人からしてみれば全裸だもんな。
そのまま食堂に向かい、朝ごはんを終えて宿を出た。
朝ごはんもとても豪華だった。
でも何か引っかかるところがある。
「ウィンディはこの服を洗う方法なんか知らない?」
「服、ですか。確か回復魔法のレベル1で「浄化」が使えるはずですよ?」
回復魔法か。
唯一持ってないよな。
そういえばイツビの妖術は魔族専用なんだろうか?
本には書いてなかったし……お店でそんな感じの本があったら買っていこう。
「そういえば回復薬みたいなものってあるの?」
「はい。ポーションでしたらどこにでも売ってるはずですよ。ほら、あの露天にも並んでます」
街の大通りにはたくさんの露店が並んでいる。
そのうちの1つに回復専門、と書いてある店があった。
お店にはたくさんの瓶が並んでいる。
青い液体もあれば、緑も黄色もある。
でもどれがどれだかよくわからない。
とにかく店のおじさんに聞いてみよう。
「すいません。回復薬ってどれですか?」
「お、新人さんかい? この青いのがポーションだよ。」
「ちなみに一番効果が薄いのってなんですかね?」
「ここには青のポーションしかないね。水色のポーションが一番効果が高いんだけど、ここじゃ売ってないよ。効果が薄いのは透明なやつだが、そんなものは誰も買わない。水と区別がつかないからな」
ポーションは魔族じゃないよね?
だったら僕の技能じゃ回復魔法はもらえそうにないか。
きっと「生命授与」を使えば動き出すんだろうけど、ポーションが動いても仕方ない。
「ちなみにポーションの原材料ってなんですか?」
「この青いやつだとダンジョンとかで取れる魔力草が一般的だね。水色は確か「
なら望みがあるな。
「序のダンジョン」によってから探しにいこう。
「そうですか。ありがとうございます。じゃあこの青いポーションを10本くれますか?」
「おお! 兄ちゃんは新人なのに儲かってるのか? まぁ買ってくれればありがたい。10本で銀貨10枚だよ」
ポーションは意外と高いな。
3つで宿に泊まれるくらいか。
でも情報量だと思えば安い。
「じゃあこれでお願いします」
「まいどあり! また頼むよ、兄ちゃん」
ポーションを袋に入れて渡してくれた。
ここは異世界だけど、そこまで文明が遅れているわけでもなさそうだ。
この後はケルンのお肉を買って、魔法の本を買ったらギルドに行こう。
それと昨日の盗賊についても聞きたいしね。
◇◇◇
「おはようございます、アンナさん」
「おはようございます、ツクモ様。昨晩はよく眠れましたか?」
「はい。おかげさまで。それとギルドマスターに聞きたいことがあるのですが……」
「昨日の件ですね? アングスさんはすでに客間でお待ちです。ダンジョンに行く前によって欲しいと仰っておりました」
よかった。会えなかったらどうしようかと思ってたよ。
それにしてもアンナさんは今日も綺麗だ。
毎日この人の顔が見れるなら冒険者を続けたいな……
「ツクモさん! しっかりしてください!」
いけないいけない。ボーッとしてた。
「わかりました。じゃあ行ってきます」
「はい。今日も死なないようにお気をつけて」
死なないように、ってみんな言うよね。
確かに冒険者は危険だけど、魔族はこの辺りにいないんじゃなかったっけ?
そんなことを考えてると、階段の下からすごい視線を感じる。
酒場の冒険者たちだ。
こんな朝から飲んでるのか。と言うか今日はアンナさんに連れられてないのに……
まぁ気にしてたらダメだ。心を強く持とう!
◇◇◇
「失礼します……」
「ノックもしないとはなかなか肝が座ったやつだな」
おっと。人間はノックをするのが常識なのか。
忘れてた。
「すいません。僕のいた村ではノックをする風習がないもので」
「まぁいい。そこに座れ」
言われた通りにふかふかのソファに腰掛ける。
目の前にいるのは歴戦の強面。
やはり少し怖い。
「今日来てもらったのは他でもない。昨日の盗賊の件についてだ」
「はい。アンナさんから聞いてます」
「そうか。それなら話は早い。昨日の輩は元冒険者のならず者だ。どこの組織にも所属していないから安心しろ。追撃はない」
よかった。盗賊組織とかだったら恨み節だもんな。
「よかったです。それで、元冒険者とはどう言うことですか?」
「ああ。あの6人組は元鉱石級の冒険者だ。だがなかなか稼ぎが少なかったようでな。盗賊に転身したらしい」
「なるほど。分かりました。でも今後は安全なんですよね?」
「うむ。心配するな。こちらで管理しておく」
だったらなんでもっと前から警戒していなかったのだろう?
「それと今回のお前の働きは冒険者として功績に値する。よって特例として50ポイントを贈呈する。俺としては鉱石級にあげてやってもいいんだが、そうはいかないのがルールってもんだ」
「ほんとですか! ありがとうございます」
これでだいぶ縮んだぞ。
さらに活動の幅が広がりそうだ。
「当然だ。お前から何か聞きたいことなどはあるか?」
「はい。2つお伺いしたことがあります」
「なんだ? 言ってみろ」
「まず、身体強化のスキルについてお伺いしたいのですが……」
「身体強化か。俺はレベル5だな。そこまであれば剣だけで銀石級までは上がれる。お前のような魔法に才があるものなら金石級は余裕だろう」
そうか。なら僕は金石級くらいか。
「金石級だとどのくらいの魔族と戦えますか?」
「因みに俺は白金石級だが、魔獣王は狩れる。魔人だと少々手こずるがな」
やはりギルドマスターとなると結構強いんだな。
白金石級だと確か上から5番目の階級だったよね?
敵対しないようにしないと。
「分かりました。では次の質問いいですか?」
「ああ。いいぞ」
「
「
「霜月の森」か。なんだか神秘的なものがありそうだ。
「他の冒険者さんたちはその森に行くんですか?」
「滅多に行かないな。おそらく序のダンジョンよりも人気がないだろう。大体銅石級冒険者からは街の西にある「仁のダンジョン」に行っているはずだ。それにこの街のほとんどは銅石級以上だからな」
なるほど。人がいないなら更に好都合だな。
探しに行くとしよう。
「分かりました。ありがとうございます」
「役に立てたならよかったぞ。では俺からはこれだけだ。もう行っていいぞ」
「はい。失礼します」
僕たちは客間をでた。
今日はまたやることがいっぱいだ。
レベル6までの魔法の本は手に入ったし、ケルンのお肉も買えたから早速「序のダンジョン」向かうとしよう。
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