第9話:ダンジョン拡張計画

 「そういえばまだ他のみんなを紹介してなかったね。この小さい子がウィンディでこっちの狐の子がイツビ。みんな仲良くしてね」

 「よろしくです」

 「よろしく!」


 ウィンディとイツビが軽く挨拶する。


 「よ、よろしくお願いしますでやんす。こんなに綺麗な魔人様とお仲間に慣れておいらたちは幸せでやんすよ」

 「き、綺麗だなんて……ちなみに私は魔人じゃなくて精霊よ」

 「ありがと!いい岩だね!」


 イツビは褒め返したつもりなんだろうが、微妙だな。

 でもウォルもなかなか口が上手いじゃないか。

 僕なんかよりだいぶ分かってそうだぞ。


 「せ、精霊様でやんすか? これは失礼致しやした」

 「いえいえ。全然気にしてないわよ? 私たちみんなツクモさんの従者なのは変わらないんだから」


 なぜだか僕は絶大な支持を得ているみたいだ。

 いいことだけど、そこまでのことはしてないよね?


 「そういえばみんなは何で従者になることを快諾してくれたの?」

 「私はツクモが好きだから!」

 「ちょ、イツビちゃん!? 何言って……」

 「ここはおいらが説明するでやんすよ。どうやらこのお二人は違う理由なようですので」


 騒ぐイツビとウィンディを見てウォルが冷静に提案してくれた。

 ウォルを仲間にできてよかったよ。


 「ありがとう。じゃあお願いするよ」

 「了解でやんす。でもそこまで難しくないでやんすよ? 魔族は力が全てでやんすから、助けられたり、自分よりも強い力があると認めたら者の従者となれるのが最高の喜びなんでやんす。だからおいらたちは再び生命を下さったツクモ様に喜んで仕えさせていただくんでやんすよ」

 「へー。それは魔獣王とかも同じなのかな?」

 「そうでやんす。だから有名な魔獣王は魔人か魔王様の直轄なことが多いでやんすね。でも主人を変えるのは日常茶飯事でやんす。なにせ魔人と魔王の数が少ないでやんすからね。今も精霊様と魔人様が目の前にいることが驚きでやんすよ」


 なら力をつければ魔王も仲間になってくれるかもしれないな。 

 それはまだまだ先だろうけど、魔獣王あたりを是非仲間にしてみたい。

 強力な仲間がいればこのダンジョンも安泰だろう。

 いくら人間が強欲でも危険に身を投じたりはしないはずだ。


 「分かったよ。ありがとね、ウォル」

 「いえいえ。お安いご用でやんすよ」


 やはりウォルは頼もしい。

 そうだ。ダンジョン拡張のことを話さないと。


 「ウォル、この階層に隠し部屋を作ることってできそうかな?」

 「余裕でやんすよ。おいらたちに任せるでやんす。どんな部屋に致しやしょうか?」


 ウォルは胸に手を当てて答えてくれた。頼もしい。

 レイアウトか……多分新しい魔族が加わるごとに部屋数を増やすと思うんだけど、ずっとここにいるわけにも行かなさそうだし……


 「とりあえずはイツビの部屋と、それからウォルたちの部屋。あとはみんなで集まれるような場所がいいかな?」

 「内装なんかはどうしやすか?」

 「それは任せるよ。ひとまずは簡易的なやつでお願い。必要だったらストンガーズを増やすけど、どうする?」

 「いえ。もう118体ほどいるので十分でやんす」


 小さいのがいっぱいで数えてなかったけど、そんなにいたのか。

 これなら早く作業が終わりそうだ。

 

 「分かった。そしたら先に扉だけ作っちゃおうか? 一番肝心なところだからね」

 「了解でやんす。隠し扉みたいな感じでやんすかね?」

 「そうだね。イツビの妖術もかけてもらうから、ある程度は大丈夫だけど」

 「了解しやした。では早速取り掛かりやす。お前たち、やるぞ!」

 「「「「おお!」」」


 あ、喋れたのね、小さいストンガーズたちは。

 でも何もしなくても作業が進んでいくな。

 さっき適当に壊した壁なんかはもう綺麗になってるし……

 そういえば魔族って何を食べるんだろう?


 「ウィンディ。魔族って何を食べてるの?」

 「種類によって違いますよ。私なんかは綺麗なお水が好きですけど、特に必要はありません。ウォルたちはおそらく岩とか鉱石じゃないでしょうか?」

 「私はお肉が好き!」


 ウィンディは精霊だもんな。

 てことはウォルたちはご飯はいらないのかな?

 ダンジョン内は基本的に岩石ばっかりだし。

 でもイツビか。油揚げとか好きそうだよね?

 どことなく京都にいた稲荷様に似てるなぁ。


 「イツビのご飯はどうしようか?」

 「街で買ってきて私が運びましょうか?」

 「そうしようか。でも今日の分が……」

 「私は平気だよ! もう2週間くらい何も食べてないもん」

 「それはダメじゃないか?」

 「大丈夫だよ! 魔族はあんまり食べないからね」


 そうなんだ。でも確かに人間に狩られてるなら食料は少なめだろうな。

 かわいそうだから大目に買ってこよう。


 「明日は絶対に持ってくるから。何か希望はある?」

 「じゃあケルンのお肉が食べたい! 昔ママがくれたのが美味しかったから」

 「ケルン?」

 「ツノの生えた草食動物ですよ。大丈夫です。私が分かりますから」

 「助かるよ。じゃあ明日はケルンのお肉持ってくるね?」

 「やったー!」


 ぴょんぴょん跳ねて喜んでいるイツビ。

 こうしてみると人間の子供と何も変わらないよね。

 でも魔人だからって理由で殺されちゃうんだもんなぁ。

 確かにゼウス様が危惧してる理由がわかるよ。

 この子たちは僕が守りたい。

 ドドドドーン! と岩壁が崩れ落ちていく音がする。

 どうやらウォルたちが着工したようだ。

 にしてもすごい速さで扉のようなものが出来上がっていくな。

 どうやら引き戸タイプのようだ。まるで隠し通路みたい……ってそういう感じで作ってもらってるのか。

 

 それから15分も経たないうちにウォルが僕の元へとやってきた。


 「こんな感じでどうでやんすか?」


 さっきまであったはずのドアが見当たらなくなっていた。


 「ドアは? どこにあるの?」

 「説明しやすので、こちらにどうぞ」


 ウォルに連れられた先はただの岩壁。


 「どこにあるの?」

 「ここに少し窪んでいる部分があるでやんす。そこに魔力を流し込んでみてください」

 

 この丸いくぼみか。なんだかかっこいいな。


 「どれどれ……」

 

 今朝ギルドでやったように魔力を流し込んでみる。

 すると音を一切立てずに入り口が開き、通路のようなものが現れた。


 「すごいじゃないか! これなら妖術はいらないかもね?」

 「確かに隠れてはいやす。でもこの構造はダンジョンでは普通なんでやんすよ。だから扉の先の空間認識をごまかした方がいいでやんすね」


 ウォルは物知りだ。

 ずっとダンジョンの壁として生きてきたんだから、きっと年齢は僕よりも上だろう。

 ウィンディも長年湖から出たことがないのにいろいろなことを知っている。

 長生きはするもんだ。


 「ありがとね、ウォル。じゃあこの先の部屋は任せるよ。僕たちはそろそろ戻らないと不審がられるかもしれないから、行くね。明日の朝にまた来るよ」

 「了解でやんす。お気をつけて」

 「またね〜ツクモ!」


 僕に向けて全力で手を振るイツビ。

 そして頭を下げているウォル。

 魔族にも色々いるみたいだ。でもみんな人間と同じようだ。

 言葉が通じないからって迫害していいわけじゃない。


 「ウィンディ、ここを拠点にしたら次はどうすればいいと思う?」

 「そうですね……ひとまずは冒険者としてのランクを上げるべきではないでしょうか? 人間としての信用が高まれば情報も集めやすいですし、やはり魔族サイドだけからでは人間と敵対して争いを招くだけだと思いますよ?」

 「そうだね。その通りだ。ウィンディはやっぱり頼りになるね」

 「そ、そんな。でも……そういっていただけて嬉しいです」


 僕の右頬に生暖かい水がかかる。

 もうさすがに慣れてきたね。

 でもやはり冒険者として情報を集めるのは重要そうだ。

 そのほうがいろいろなことに早く対処できる。

 やることが多くて大変だ。

 

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