第7話:生き残りの魔物
「どこだ? どこにいた?」
「ここです。この小さい穴の奥です!」
ウィンディが「
そこから漂ってくる魔力。どうやら僕は魔力を感じられるらしい。
「何がいるかわかるか?」
「えーと……これは……レッサーフォックス、ですね」
レッサーフォックス。この辺りで一番弱い魔物だとアンナさんが言っていた。
いや、でも関係ない。とにかく話してみよう、
「こ、こんにちは。僕の言ってること分かるかな?」
「に、人間は怖いぞ! 私たちを食べちゃうってママが言ってた!」
女の子のような声が聞こえる。でもウィンディのものじゃない。
どうやらゼウス様の推測は正しかったみたいだ。これならなんとかなる。
「僕は人間だけど人間じゃないよ」
「意味わからん! てかなんで私の言ってること分かるんだ!」
「それは僕が神様だからだよ」
まだ姿を見せないレッサーフォックスは言葉を止めた。
「か、神様なんていない!ママがそう言ってたもん」
「うーん。じゃあこれを見たら信じてくれるかな?」
僕はウィンディにアイコンタクトをした。
察してくれたのか穴の中に入っていく湖の精霊の少女。
「こんにちは。私は湖の精霊よ。怖がらないでこっちを見てくれないかしら?」
「せ、精霊……?」
レッサーフォクスが少し顔を穴から出した。
普通に狐のような姿をしている。
でも目のあたりに赤い筋が入っていて、まるで妖狐みたいだ。
「そうだ。ウィンディって名前の精霊だ。因みに僕が名付け親ね」
「親だなんて……ちょっと複雑です」
あ、ダメだったのかな?
ウィンディが苦笑いしている。
「1回穴から出て話を聞いてくれないかな? レッサーフォックスちゃん」
「う、精霊がいるならいいぞ。ママが精霊はいい奴だって言ってたもん」
またウィンディに助けられたな。
なんだか僕の存在価値が低い気がする。
そして全身を外に出してくれたレッサーフォックス。
尻尾が2分岐しているところ以外は本当にただの小狐だ。
「改めまして。こんにちは。僕は別の世界から魔族を守るために派遣された神。付喪神って言うんだ」
「本当に、神様なの?」
「うん。信じられないかもしれないけどね。無闇に実演できる芸当じゃないからさ」
「じゃあ私を強くしてくれたら信じる。神様ならなんでもできるんでしょ?」
困ったな。「生命授与」の細かい使い方がイマイチわからない。
でもゼウス様の予想通りなら魔族にも使えるはずだけど……
「危ないかもしれないけど、いいの?」
「うん。もう散々怖い思いをしてきたんだもん。人間に怯えて暮らすのはもう嫌。ママも殺されちゃったし……」
「それは復讐のため?」
「……復讐じゃないと思う。ただ平和に過ごしたいの」
復讐じゃないならいいか。
やはり無闇に争いごとを作るのは良くない気がする。
ただでさえ魔族が虐殺されてるのに向こうを攻撃なんてしたら速攻で抹殺されるだろう。
慎重に事を進めなきゃいけない。
「わかった。じゃあ試してみよう。でも何か異常を感じたらすぐにやめる。やめられるかどうか知らないけど……」
「なんでもいい。やってみて。もう死ぬよりも怖い思いはしてきたから大丈夫」
「わかったよ。じゃあいくよ」
僕は手から光を発する。そしてレッサーフォックスの小さな体にそっと押し当ててやる。
するとレッサーフォックスの体全体が光に包まれた。
「どうなった?」
「成功? だと思いますよ?」
ウィンディも心配そうにレッサーフォックスを見つめている。
このダンジョン最後の生き残りだ。死なせるわけにはいかない。
ゼウス様。頼みますからこの小狐を助けてあげてください……
そしてレッサーフォックスから放たれる光がさらに大きくなる。
その光はダンジョン最深部の部屋全体を飲み込むほど大きくなっていった。
「うわぁ、大丈夫なのか?これは」
「大丈夫ですよ! この子から発せられる魔力がどんどん大きくなってます」
確かにこの部屋ないでさっきまでは感じられなかった膨大な魔力の流れが出来上がる。
ここまで強大だと逆に不安になってくる。
「頑張ってくれ。レッサーフォックスちゃん」
僕がそう願うのと同時に、拡散していた光が収束を始めた。
その光が消え去ると、一匹……じゃなくて1人の少女が地面に倒れていた。
「ちょ、これって……」
「魔力量的には魔人並みです。これは……進化?」
目の前には狐のような耳と5つに分かれた尻尾を持った全裸の少女が倒れている。
身長は決して大きくない。ゼウス様より10センチ大きいくらいだ。
「ん、んんんん……」
「大丈夫か?」
「ん、んん……ママ……」
寝ぼけてるのか? というかこの少女はレッサーフォックス、だったんだよな?
「ウィンディー。この少女はレッサーフォックスだったんだよな?」
「恐らくは……そうだと思います」
精霊が言うんだから間違いない。
どうやら僕は魔物を進化させたらしい。
しかも一段階や二段階じゃない。三段階飛ばして「魔人」へと昇級させたみたいだ。
「き、聞こえるか? 目を開けられるか?」
「ん、大丈夫よ、ママ。私はもう起きてるから……」
これはただ寝ぼけてるだけだよね?
もうめんどくさいから水でもかけて起こすか?
「おい、そろそろ起きないと水を……」
バシャン! と少女の顔に水球が墜落した。
「きゃあ!って、え? これが、私?」
「やっと目覚めたのね? ツクモさんがこんなに呼んでるのに起きないなんて……しかもママって……ツクモさんがママだったら私はどうすればいいわけ!?」
もはやいっている事の意味がわからない。
ウィンディーは僕がママな事が気に食わないらしい。
全くもって理解できない。
「おはよう。荒い起こし方でごめんね。君は、レッサーフォックスであってる?」
「うん。そうだった……よ? 今は違うみたいだけど」
「そういえば名前はある?」
「ないよ? 魔物に名前はないもん。でも魔獣王はあるって聞いた!」
そうなんだ。初めて知ったぞ。
「じゃあ僕が名前をつけてもいい? 嫌だったらいいけど」
「ううん! 付けていいよ! じゃなくて付けてください! 私はあなたが神様だって今は信じてるもん。こんな進化の仕方なんて今までみた事ないし」
「そうか。それなら良かった。じゃあ、尻尾が5つあるから、イツビってのは……」
また襲ってくるこの頭痛。でもウィンディーの時で慣れた気もしなくはない。
「イツビ……気に入ったよ! そういえばあなたの名前はなんていうの?」
「ああ、さっきも言ったけど付喪神だ。でもツクモってよんでくれて構わないよ」
「ツクモ……ツクモね! わかった!」
「覚えてくれて嬉しいよ。それで、イツビのステータスを見てもいいかな?」
「私のステータス? そんなの見れるの?」
「ああ。僕にはイツビのが見えるはずだ。じゃあ試させてもらうよ」
個体名:イツビ(魔人) レベル18 MP100
種族名:エリートフォックス
性質:魔
スキル:身体強化レベル4、妖術レベル8、火操作レベル3
パッシブスキル:化け狐、妖火の使い手、主従(従)
次は種族名も表示された。だとするとウィンディーは固有の精霊らしい。
それに2人とも僕が持っている固有スキルを持っていない。
だとするとかなりレアなのかもな。
ついで僕のも見てみる。
性質:神
スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル 3、風魔法レベル1、
氷魔法レベル1、雷魔法レベル1、水操作レベルMAX
火操作レベル3、身体強化レベル4、妖術レベル8
固有スキル:生命授与
パッシブスキル:スキル借用、異種間交流、主従(主)
思った通りだ。どうやら僕と主従関係になった者のスキルを借りることができるらしい。
そのおかげで火操作が手に入った。身体強化もありがたいし、妖術も気になる。
あとでイツビに教えてもらおう。
「私はツクモの従者なの?」
「そうなっちゃうみたいだね。嫌だった?」
「ううん。嫌じゃないよ。私の恩人だもん!」
そういって全裸のイツビが抱きついてくる。
人間の体だと異性にこんなに反応してしまうのか。
少しどころじゃなく恥ずかしいぞ。
「ちょ、なにやってんの!? ツクモさんから離れなさい!」
「もうちょっとだけ! なんだかママと一緒にいるみたいなんだもん」
またママか。どうやら見た目通りの子供らしい。
でもこのあとどうするかな?
イツビをここに置き去りにするのも危険か?
でも連れては帰れないし……
ここに仮の拠点でも作るか?
それはいいかもしれない。
ついでに他の魔物も集めて守りやすくすれば……
ダンジョンが復活するかもな!
どうなるかはやってみないと分からないけど、力を分散させるよりは何倍も安全だろう。
それに街ではこのダンジョンは機能してないってことになってるし、魔族の隠れ家的なダンジョンを作ろう。
よし、方針は固まったな。あとは怪しまれないように行動するだけだ。
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