第6話:序のダンジョン

 「以上で講習は終了です。長らくお付き合いいただきありがとうございました」

 「いえいえ。こちらこそ。ありがとうございました、アンナさん」


 僕は丁寧に頭を下げた。

 なんだか人間の情報を聞き出して作戦を立てるなんて、スパイみたいだよな〜って軽んじてる場合じゃないか。


 「本日はどうなされますか? このまま宿の手配などします?」

 「いえ。今日は早速その「序のダンジョン」に行ってみようかと思います。早く家族に仕送りがしたいですからね」

 「素晴らしい心意気です。でも死なないように注意してくださいね?」

 「わかってます。自分の力量以上のことはしないつもりですので、ご安心を」


 力量を把握してないのにこんなこと言ってもいいんだろうか?


 「それは頼もしいですね。では採取が完了しましたら受付までお持ちください。待っています」

 「はい。じゃあこれで失礼します」


 そして僕は客間を出た。

 

 「ウィンディ、さっきの続きだけど……」

 「付喪神様はもしかして魔族を救おうとなさってるんですか?」

 「うん。もし反対するんだったらここでお別れだ。ごめんね」

 「いいえ! 私は付喪神様にずっと付いて行きます。きっとお役に立てますよ?」


 ウィンディが笑ったような気がした。やっぱり仲間は頼もしい。


 「ありがと。じゃあこれからもよろしくね。ウィンディ」

 「はい! よろしくお願いします……つ、つく……」

 「どうしたの?」

 「あの……私もツクモさんとお呼びしてもよろしいですか?」

 「え? 別に構わないけど……」

 「じゃあよろしくお願いします! ツクモさん!」


 また水しぶきが飛んできた。右顔面だけ異様に汗をかいてるように見えるかもしれない。

 でももう慣れてきたぞ。


 「じゃあ早速、「序のダンジョン」に向かおうか?」

 「はい!」


 ◇◇◇


  アンナさんに見せてもらった地図にあった通り、街を出て北東に向かうと大きな岩山にたどり着いた。

 その岩山の壁には大きな洞窟の入り口のような部分があり、看板には「序のダンジョン」とかいてある。

 

 「ここが「序のダンジョン」かぁ。もっと小さいもんかと思ってたよ」

 「ダンジョンにしては小さいですよ? しかも魔物や魔獣の気配が全然しません。ただの洞窟と間違えちゃいそうですよ」


 魔物と魔獣は違うんだったっけか。その上が魔獣王で、その上が魔人。

 覚えておかないと。


 「魔獣王ってのはいないの?」

 「魔獣王なんて滅多にいませんよ。それこそ森の奥深くとかダンジョンの深層とかですかね?湖の底には何匹かいましたけど」


 意外と近くに魔獣王はいたらしい。遭遇しなくてよかった。


 「ちなみに精霊は魔獣王より強いの?」

 「精霊は下手な魔人よりは強いですよ。私の場合だと中堅の魔人くらいですかね?」


 ウィンディはやっぱり強いみたいだ。そりゃそうだよね。あんなにでっかい湖の主なんだから。


 「ウィンディからみて僕はどんくらい強いかな?」

 「……上級魔人くらいでしょうか? でも私を呼び出したあの術次第では魔王にも劣らないと思いますよ?」


 なるほど。意外と強いのか。でもちゃんと鍛錬して強くならないと。


 「こんな所で話してるのもなんだから、さっさと中に行ってみようか?」

 「そうですね。探せば魔物も一匹くらいいるかもしれないですよ?」


 確かにその通りだ。探せばいるかもしれない。

 そして僕はその魔物を保護する。どうやってかはあとで考えよう。

 とにかく話をしてみないとわからないからな。


 ◇◇◇


 ダンジョン探索を始めて約1時間、僕たちは一応鉱石採取をしながら歩いている。

 ちなみに集めたものはウィンディに預かってもらっている。

 今思うと街で何も用意してこなかった。帰った時に少し怪しまそうだなぁ。

 まあ魔術師か魔法使いってことで誤魔化そう。


 「ツクモさん! この石は高そうですよ?」


 ウィンディはすごく楽しそうだ。何百年も湖で1人だったならその気持ちもわからなくはない。

 僕も300年間同じ仕事で疲れた時もあったからね。


 「じゃあ持って帰ろう。出来るだけ行動範囲は広げた方が今後のためだからね」

 「はい!私もっと集めてきます!」


 ウィンディは僕の肩から飛び降りると宙に消えた。

 相変わらずすごい芸当だよなぁ。

 でもそれができるなら別に僕の肩じゃなくても……


 「持ってきました! この緑に光ってるやつなんかはポイント高そうですよ」

 「ほんとだ。なんだかエメラルドみたいだね」

 「エメラルド?ってなんですか?」


 どうやらエメラルドはこの世界にはないらしい。

 まぁ知った所でどうでもいいんだけど。


 「僕の世界にあった鉱石だよ。ちょうどそんな感じに緑色に光ってるんだ」

 「へー。見てみたいですね!」


 ウィンディといるとくらい洞窟での探索も明るくなる。

 因みに光源は僕の電気魔法だ。

 頑張って力を込めると体から仄かな光が出る。

 練習すれば「水球ウォーターボール」みたいな技が出せるんだろうけど。

 「ねぇ、ウィンディ。そういえば水操作ってどんなことができるの?」

 「水操作ですか? 例えばこんな感じですね」


 ウィンディは「水球ウォーターボール」を発動して、その水球の形状を変化させた。

 水でできた刃のようになり、それをダンジョンの壁に放つ。

 すると鋭利な刃物で切断したような跡ができていた。


 「おお! すごいね! 僕にもできるかな?」

 「ツクモさんは水操作も持ってるんですか?」

 「うん。実はウィンディを名付けた時にウィンディの持ってるスキルは全部もらったみたいなんだ。そのおかげで水魔法もレベル3になってるよ」

 「じゃあ水操作はレベルMAXですか!?」

 「うん。幸運なことにね」

 「だったら基本的にはなんでもできますよ!スキルレベルは技の威力と種類を増やすだけですからね」


 なるほど。つまりあれか? 

 水魔法レベルは威力の表示でその威力に応じて出せる技が変わるのか。

 そして操作系のスキルを使えば威力は劣るけど無理やり形にはできるわけね。

 なるほど。

 そういえば確かギルドマスターが無詠唱とか言ってたよな?


 「無詠唱って普通じゃないの?」

 「無詠唱は操作系のスキルがないとできない芸当ですよ。だから私たちは水魔法を無詠唱で撃てるんです。でもレベル5以上じゃないと無詠唱にはなりませんね……」


 え、じゃあ雷魔法とかが使えないのって詠唱してないからなんじゃ……

 あと、スキルレベルってどんくらいまであるんだろう?


 「スキルレベルってどんくらいまであるの?」

 「限界は15です。それ以上、上がる人もいるもたいですよ? 魔王とかは余裕で全スキルレベル25とか聞いたことあります」


 え……それだと僕の水魔法ってかなりへぼいんじゃ……

 いやいや。鍛錬だ。鍛錬が僕の魔法を強くしてくれるはず!


 「じゃあ頑張らないと!ウィンディも手伝ってね!」

 「はい!特訓はあまり好きじゃないけど、ツクモさんとなら頑張れます!」


 そして僕は洞窟内での水操作の訓練を開始した。

 最初はうまくいかなかったけど、10分くらいやってたらさっきの水刀みたいなのはできた。

 「水刀ウォーターブレード」って名前らしい。

 因みに魔法の詠唱はつまり技名を叫ぶだけ。

 それでも相手に出す技が知られるのは相当不利なことらしい。


 そんなこんなで僕たちはダンジョンの最深部にいた。

 階層は意外と深く地下15階。

 本当に何とも出会わずにここまでたどり着いた。


 「じゃあここが最後の部屋か。いわゆるボス部屋なの?」

 「ボス?」

 「ダンジョンの主みたいな感じかな?」

 「あーあ。そうですね。そうだったと思いますよ」


 大きな石のでできた扉。今まであった小部屋とは格が違う感じがする。

 でも感じていた雰囲気は今までと変わらず、何もいない気がする。

 とにかく入ってみよう。

 開けてみなければ何もわからない。


 ゴゴゴゴゴゴ……大きな音を立てて扉が開く。

 見かけによらず僕1人の力でも開けられた。

 もしくは僕が以上な力を持っているか、だけど。


 「やっぱり何もいないや」

 

 目の前に広がるのは大きく開けた空間。

 強敵がいそうな雰囲気なのに何もいない。


 「ちょっと待ってください。奥から気配がします」

 「奥? もう壁しかないよ?」

 「いえ。あの壁の裏に小さな空間があるみたいです。空気中の水分の流れで分かります」


 いいなぁ。僕もその特性が欲しいよ。

 水の女王だっけ?

 パッシブスキルは借りれないみないだし……諦めるか。


 「少し様子を見てきますね」


 そういってウィンディは消えていった。

 そしてすぐさま鳴り響く轟音。

 ウィンディによって作り出された「水槌ウォーターハンマー」が岩壁を削っていく音だ。


 「ツクモさん! なにかいるみたいですよ!」

 「本当か!?」


 僕は夢中で駆け寄っていく。 

 救える命があるかもしれないぞ。

 付喪神としての魂が喜んでる気がする。


 これを人間は職業病と言うらしい。

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