第5話:アンナさんの個人授業
無事に試験に合格した僕は、急ぎ足で受付へと向かう。これから美人のお姉さんと二人っきりだ!
訓練所に向かってた時は見えなかったが、受付の左隣には酒場があるみたいだ。
強面の男冒険者たちが昼間なのに酒を飲んでいる。その中にちらほらと女性冒険者の姿も見える。
冒険者は男女問わず人気な職業みたいだ。
「合格おめでとうございます! アングスさんが認めるなんて余程才能があるんですね?」
「いや〜、そんなことも無いですよ」
僕は自分でもわかるくらい鼻の下を伸ばしている。
そこでかけられる少量の水。
ウィンディはなぜだか機嫌が悪いらしい。
「マスターからお話は伺っています。早速、上の客間に向かいましょう」
猫耳が可愛いアンナさんが受付カウンターから出てくる。
そして僕に降り注ぐ鋭い視線。全部酒場の方からだ。
どうやらアンナさんは人気者らしい。
「こちらです。普通は入れないので、許可がない時は基本的に階段は上がらないようにお願いしますね?」
「分かりました」
酒場のバーカウンターの横に設置された木造の階段。そこに引いてあるロープを解いて上の階に向かう。
さっきよりも集中する視線。僕が振り返ったって容赦無く睨みつけてくる。
「あ、あの……僕はこの後の冒険者生活やっていけるんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。あの方達も面白がってやってるだけですから。恒例の新人いじりってやつです」
そうなのかな? 魔族を守る前に変な理由で殺されないようにしないと。
「ここですよ。中で待っててください。私は必要な資料を持ってきますので」
「分かりました」
客間と呼ばれた部屋には豪華なソファとガラス張りのテーブルがある。
やはりギルドは儲かっているらしい。
「ねぇ、ウィンディは冒険者についてどこまで知ってる?」
「そうですね……実際あんまり聞いたことないです。ですが魔族たちからは恐れられてますね」
「やっぱりそうか。冒険者は強いのかな?」
「強いと思いますよ? でも付喪神様が戦う相手は魔族ですよね?」
「いやそれが……」
バタン! と音を立ててドアが開く。
「お待たせいたしました。何か声が聞こえたような気がしましたが。どうなさいました?」
「い、いえ。なんでもありません。少し独り言を……」
「そうですか? まぁいいでしょう。それではまずこちらを受け取ってください」
渡されたのはコンクリートでできたようなプレート。小さい名札くらいの大きさだ。
「これは?」
「冒険者のランクを表す証書になります。ツクモ様は現在登録したばかりですので、石ころ級になりますね。ちなみに一番上はオリハルコン級です。全体で3人しかいませんが、ちゃんと存在してます」
石ころ級か。なんだか情けない響きだな。
「ランクとはつまりなんですか?」
「受けられる依頼が変わってきます。石ころ級だと行けるのは「序のダンジョン」までですね」
「「序のダンジョン」? ダンジョンって具体的になんですか?」
「ダンジョンというのは簡単にいえば迷路ですね。洞窟のような入り口をしていて、魔族が発生しやすい環境となっています。ちなみに魔族は森などどこにでもいますが、ここ周辺はかなり数が少ないです。「序のダンジョン」もこの近くなのですが、先日の報告によるともう魔族はいないらしいです。迷宮そのものが機能を停止しているみたいで……」
僕はこの世界の地理を知らないからほとんど話が入ってこない。でもやはり魔族は激減しているようだ。
「でも僕のランクだとそこまでしかいけないんですよね?」
「はい。でも探索報酬というシステムもあります。鉱石や貴重な草などを採取していただければそれを査定し、冒険者ポイントに換算することができます。ちなみにお金ももらえるので、最初のうちはそれで我慢してください」
「ちなみにランク外の場所に行った場合はどうなりますか?」
「その場合はそのプレートが砕けます。開拓済みダンジョンの入り口には認証システムがございまして、行ける場所よりも上のランクのダンジョンに足を踏み入れてしまいますと、振動魔法によって砕けます。そしてプレートを失った場合、その時点で冒険者としての資格は剥奪となります。」
なるほど。なかなか厳重なようだ。
「何か特例でランクが上がるとかはありますか?」
「もちろんありますよ。ですが全冒険者参加の緊急依頼で功績を残した場合のみですね」
じゃあ今は「序のダンジョン」に行ってみるしかなさそうだ。
「大体分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。ではこれから冒険のレッスンに移ります。初心者の皆さんに必ず受けていただいてるので、ツクモ様にも受けていただきますが、大丈夫ですか?」
「はい。よろしくお願いします」
これは素直にありがたい。
これでどう行動すればいいかが大体分かるかもしれないぞ。
「まずは性質の話からです。この世界には3つの性質があります。人族の「聖」、魔族の「魔」、そして存在の確認が難しい「天」です。私は「天」の性質を持った人に出会ったことはありません。なので大体が「聖」もしくは「魔」ですね」
あれ? 「神」がないじゃないか。しかも「天」ってなんだろ? 精霊のウィンディでも「魔」だったし。
「そして次が性質同士の優劣です。これが一番肝心なのでよく聞いておいてくださいね」
「分かりました。」
「「聖」は「魔」に強く、「魔」は「天」に強いです。そして「天」は「聖」に強いです。三つ巴な関係ですね。これらの性質は剣技や魔法などのMPを使用する攻撃に影響を与えます。これが人族が魔族よりも優位に立てる理由です」
なるほど。魔族は生まれた時から人間の攻撃が弱点なのか。
それは魔族が滅ぼされかけるのも納得できる。
「ですが魔族にも階位がありまして、「魔物」、「魔獣」、「魔獣王」、「魔人」、そして「魔王」にクラス分けされます。魔族は元々人族よりも魔力量や身体能力が高いので、「魔王」クラスだとオリハルコン級くらいしか一騎打ちでは太刀打ちできません」
魔族にも色々いるんだな。
だけど精霊の項目がなかったな?
ウィンディは精霊じゃないのか?
でもステータス画面には(精霊)って書いてあるし。
「精霊ってのはいないんですか?」
「精霊!? 私は聞いたことがありません。ですが古い文献によると……」
アンナさんは客間にある本棚から一冊の分厚い本を持ってきた。
「よいしょっと。重いですね。えーと、精霊とは、古代に神々に仕えていた魔族である……ですって。私も知らなかったですよ」
「じゃあ今はいないんでしょうか?」
「うーん。いるんじゃないでしょうか? 色々な精霊が祀られてる場所はありますし……ほら、この街の近くの湖もその1つですよ?」
やはりウィンディは精霊らしい。だとすると僕の旅のお供はすごい大物みたいだ。
「へー。勉強になりました」
「私も知れてよかったです。じゃあ次が最後になります。準備はよろしいですか?」
「はい。お願いします」
するとアンナさんは大きな地図を広げた。どうやら世界地図を見せてくれるみたいだ。
「これがこの世界の地図です。大陸は3つに分かれています。今私たちがいるのがここ。一番南にある大陸ですね。その中でも最南端のこのポイントがビギナータウンです」
3つに分かれた大陸は陸続きではなかった。海によって隔てられ、1つ1つの大陸が同じような大きさをしている。そして大きく記される「人界」、という表記。
さっきアンナさんが指差した僕たちがいる一番南の大陸とその北東に位置する大陸がどうやら「人界」のようだ。
ちなみに僕たちがいる大陸は「ヒューマニタリアン」という名で、もう1つの「人界」に位置する大陸が「ビーストタリアン」という名前らしい。おそらくだがここは人類国家で、もう1つの方が獣人国家なんだろう。そしてもう1つの大陸……
「この大陸には「魔界」としか書かれてないようですが、大陸名はないんですか?」
「はい。「魔界」はその名の通り、魔王が支配している大陸です。住んでいるのが魔族のみですね。最近「魔界」への侵攻作戦が準備中だそうで、あと10年もしないうちにそこも「人界」になるそうですよ?」
「魔界」への侵攻!? それは防がなければならない。
でもそれを実現するためにはある程度の準備が必要だろう。
現在僕は自分の力量もうまく把握できてないし、冒険者のレベルも分からずじまい。
少し急いで行動した方がいいかな?
「ちなみに、魔王は何人くらいいるんですか?」
「記録によれば残りは5体だそうです。50年前の人魔戦争で50程いた魔王が激減しましたね。そこから魔族の数が随分と減りました。特に「魔界」から離れているこの地なんかはもうほとんど魔族がいないですね」
タイムリミットは相当近いらしい。残り5体。
強大な力を持つ魔王はなんとしてでも保護しなければ任務の完遂は難しいかもしれない。
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